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第11話【冒険者指南】

 太陽が真上に来る少し前、冒険者ギルドにミトラが顔を出すと、そこにはもうイオリとエレレトがいた。


 二人は酒場のスペースで一つのテーブルを囲んで椅子に座り、お茶を飲んでいる。


「おはようございます!」


 ミトラが元気良く二人に挨拶をすると、エレレトが優しく微笑み、振り返った。


「おはよう」


 エレレトが挨拶を返すと、ミトラは顎を引いて固まる。エレレトの顔を凝視したまま動かないミトラに、イオリがニヤリと口の端を上げる。


「……兎って年中発情期なんだよな」


 イオリがそう呟くと、エレレトは首を傾げ、ミトラは顔を真っ赤にしてイオリに顔を向けた。


「ち、ち、違いますよ!?」


「え? 違うのか?」


 イオリがニヤニヤとした顔を隠すことなく尋ねると、ミトラはエレレトの顔を盗み見ながらイオリに顔を向け、口をパクパクと動かす。


 そんなやり取りを一頻りして、ミトラは困ったように笑いながら口を開いた。


「あ、昨日はありがとうございました。僕が家に帰るのを見送ってくれたんでしょう?」


 ミトラがそう口にすると、イオリとエレレトの表情が僅かに変化する。


「……知っていたのか。まぁ、緊急依頼の件は街中で話題だった筈だからな。変な輩にお前が狙われないか気になったんだが、余計な心配だったな。しかし、どうして気が付いた?」


「僕達みたいなタイプの獣人は気配に敏感ですからね」


 ミトラがそう言うと、エレレトが曖昧に頷く。


「……それでも、私達に気がつくのは凄いわね。気配に敏感な魔物に気付かれずに接近するとか日常茶飯事だし、そうそう尾行が勘付かれたことは無いのだけど」


 不思議そうなエレレトを眺め、ミトラは照れたように笑った。


「基本的には音で判断してますね。昨日の夜は、ずっと僕の後を付いてくる足音が聞こえてたので耳を澄ましてたんですけど、音の強さと感覚がイオリさんとエレレトさんだなって……」


 ミトラがそう呟くと、イオリとエレレトは目を丸くして驚く。


「音だけで個人まで特定出来るのか」


「……冒険者に向いてそうですね。まだまだ弱いので誰かとクランを結成すること限定ですが」


「よ、弱い……いえ、間違い無いですけど……」


 落ち込むミトラと、その様子に苦笑するエレレト。


 イオリは静かにそんな二人を見つめ、口を開いた。


「……これなら、行けるかもな」


 イオリのそんな小さな一言を、ミトラの耳は聞き取った。


「へ? 何処にですか?」


「ちょっとした冒険だよ。冒険者らしくな」


 イオリはそう言うと立ち上がり、受付へと向かう。


「まだ皆揃ってないが、ギルドマスターに森の探索の話をして来る」


 イオリがそう言って奥へと歩いて行き、二階に上がる姿を見送り、ミトラは首を傾げた。






「はい! それでは最初に一言! お前ら時間にルーズ過ぎ!」


 イオリがそう言うと、セグダディが面食らう。


「ひ、昼に集まるって話じゃなかったんでしたっけ!?」


「昼に集まると聞いたら太陽が真上に上がる前には来いや、オラ。5分前行動は良い子。10分前行動は凄く良い子。でも5分遅刻は地獄行きだ」


「地獄!?」


「知らないのか? 遅刻は地獄という言葉が訛ってだな……まぁ良い。とりあえず罰として電気アンマだ」


「え、ちょ、だ、旦那……!? い、いや、ま、待っ……」


 冒険者ギルド内に響き渡るセグダディの悲鳴を他所に、クィエがミトラに話し掛ける。


「お、我がライバルのミトラ君だ」


 挑戦的な笑みを浮かべたクィエに、ミトラは一歩後ずさった。


「B、Bランクのクィエさんにそんな僕なんて……」


「何を言ってるのかな? 私は偵察や待ち伏せ、奇襲の警戒、罠対応が主な役割なんだから、感覚勝負で負けると物凄く悔しいのさ」


 クィエが両手をわきわきと動かしながらミトラに迫ると、ミトラは涙目になって身体を震わせる。


 それを見て、クィエは自虐的な笑みを浮かべ、呼吸を荒くした。


「何だか妙な気分になるなぁ……むふふ、女の筈なのに襲い掛かりたい気分……」


「ひ、ひぃいいいっ!?」


 怯えるミトラにクィエが近付くと、エレレトが間に入った。


「ほら、怖がらせてどうするの? ミトラ君を育てるんでしょ」


「えー、何で私が? ライバルだからこれ以上力を付けさせたくないのが本当じゃないですか?」


 エレレトの台詞にクィエが口を尖らせると、エレレトは意外そうに首を傾げる。


「違うの? てっきり、自分を上回る可能性があるミトラ君を育ててAランクの足掛かりにするのかと……」


「え?」


 エレレトの台詞にクィエが表情を改める。その表情の変化を確認し、エレレトは口の端を上げた。


「Aランク冒険者に、ソロで成れる人間は殆どいないわ。だから、クランで功績を残して、少しずつランクを上げる。そこで大事なのが人脈よ」


「人脈」


 エレレトの言葉を真剣な表情で繰り返すクィエ。


「そう。他の高ランククランの冒険者とも繋がりがあれば、凄く依頼達成に有利だと思わない?」


 そんなエレレトの言葉に、クィエは目を輝かせる。


「ミトラ君を育てる! ミトラ君が高ランククランに入る! 師匠の私には逆らえないから、私は楽に依頼達成!」


 考えている事が口から片っ端から溢れ出しているが、エレレトは気にせずに深く頷いた。


 クィエは目を光らせながらミトラに振り返る。


「よし! ミトラ君は私が手取り足取り斥候のイロハをたたき込もう! さぁ、お姉さんについて来なさい!」


「は、はい……!」


 こうして、ミトラの当面の師匠が決まった。意外にもクィエは高い技術だけでなく、それを教える能力も高かった。


 それからの一週間、森に異常は発見されなかったが、その間にミトラの技術と知識は大きく向上することになる。


 尚、戦闘面ではゴブリン二体と互角だったのが、一週間でゴブリン三体を圧倒出来るまでに成長した。これにより、まだランクはEのままでありながら、実質的にはミトラはDランク以上の力を持つ冒険者となったのだった。



ミトラは強くなった!

ミトラは師匠を手に入れた!

ミトラは怯えている!

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