2.平凡令嬢の父の悩み
ディアナの父、セオドア・ベルンシュタイン視点です。
私はセオドア・ベルンシュタイン、ベルンシュタイン伯爵家の当主であり、外務省に務めている。私の家族は私合わせて四人いる。美人で優しい妻セレーナとかわいい娘であるディアナ、優しく家族思いな息子ユリウスだ。家族は私の宝物であり、平和で穏やかな日常もかけがえのないものである。
そんな私にも一つ悩みがあった。
それは娘のディアナについてだ。
もうすぐ十六歳の誕生日を迎え、社交界デビューとなる。このことについては喜ばしく、めでたいことである。
だが問題があった。
ディアナは誠実で真面目でとても澄んだ心の持ち主である。相手を思いやり、誰にでも分け隔てなく慈しみをもって接することのできる子だ。
とてもいいことなのだが、社交界においてはそれゆえに傷つくことの方が多い。社交界は嘘や嫉妬などのどす黒い感情が渦巻く世界だ。そんな世界にディアナが入ってしまえばあっという間にボロボロにされてしまうだろう。
ディアナが傷つく姿は見たくない、だが社交界で交流しなければ将来的に困るのはディアナだ。
父としてどうすべきか葛藤していた。
さらに困ったことに娘は自分は平凡だと思っているがそれは違う。
ディアナはとびきりの美人ではないが、内面の美しさが溢れ出ている。パッと見ただけでは分からないが一番顕著なのはその瞳だ。
澄み切った琥珀のような、真っ直ぐで純粋な瞳は人を惹きつけるものがある。これほどまでに澄んだ瞳の者はいないと皆思うだろう。
そしてまた思うのだ。
この瞳を曇らせてはならない、と。
悲しみではなく喜びでよりいっそう輝かせたい、と。
そしてあっという間にディアナに心酔する。まさに魔性と言っても過言ではない。私も心酔している者の一人なのだが。
はあ、とため息をつきながら解決策を思案するセオドアであった。