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「じゃあ、あの3年前の噂も本当だったって事か?」
「いや、それはなんか違うらしい。おっさんと調査隊のやり取りを聞いた他のやつが誤解したんじゃないか?」
「そういえばおっさんは白骨死体の事は何も言ってなかったもんな。」
寛治は二人の家の近くに住んでいたので、二人は小さい頃から寛治の存在を知っていた。
更に、修三の苗字は田村であった。
寛治が子供の頃一緒に山に入ったと言い張る田村雄三は、寛治曰く田村家の三男であり、修三はその田村家の長男の息子だった。
修三は、小さい頃から親や周囲に、寛治は頭がおかしくなってるからあいつの言う事はまともに取り合っちゃダメだ、と言い聞かされて育っていた。だが修三は、寛治の必死な様子や普段の生活態度などから、寛治の事をどこか周りの大人達が言うようには思えなかった。
甲斐山に踏み入る一週間ほど前、晃は修三の家に遊びに来ていた。その時、修三の叔父が父を訪ねる声が玄関から聞えた。
「お前の父ちゃんさっき出かけてなかったっけ?」
「そういえば、酒きらしたっつって出かけてったな。母ちゃんもいねえし、叔父さんに言ってくるわ。」
「あ、じゃあ俺もついでに飲みもん貰い行っていー?」
二人で修三の部屋から出て階下に向かうと、玄関から話声が聞こえた。父ちゃんが帰ってきたのか?と思った修三だったが、すぐに叔父の話す相手が父ではない事に気づいた。
「今年も梅雨明けあと、調査に入るんだろ?俺も連れてってくれよ!」
「何度も言ってるだろ?調査隊じゃないやつは甲斐山には立ち入れない。」
「俺も調査隊に入れてくれって山井家に言ってんだが取り合っちゃくれねぇんだよ!頼むよ、お前の弟を探すためなんだ!」
「…ふぅ、だから俺には弟なんていねぇんだって。戸籍謄本もお前に見せたし、誰の写真にも映ってなかったんだろ?」
「二人がいた痕跡がなくなってても、俺は覚えてるんだ!何で皆して忘れっちまったんだよ!雄三も源太も!村で一緒に過ごしてきたじゃねぇかよ!」
「だからそれはおめぇの妄想なんだよ。毒ガス吸ってそんな妄想見ちまってるんだよ。」
「妄想なんかじゃねぇ!あの洞窟で、お前だって見ただろ!あの洞窟は」
「っおい!!その話はするんじゃねぇ!」
知らず二人の話に聞き入っていた修三と晃は、叔父の恫喝によりハッと我に返った。それから叔父は、押し殺した声で怒りながら、寛治を家に押し戻そうと修三の家から遠ざかっているようだった。