表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
甲斐山のうわさ  作者: ハム
S—part
7/16

7



「寛治はよ、梅雨明けのこの時期になるとさ、調査隊が山に入るのについて来ようと山へ行く道をよく見張ってるんだ。そんでおめぇ達が山に入って行くのを見て寛治が知らせに来たってこった。」


「最初は寛治の言う事だ、みんな信じなかったんだがな、だけんど」



 大人達は話をしながら目線を二人の後ろに動かし何かに気づいたように口を噤んだ。

 二人が後ろを向くと、村の旧家、山井家の跡取り山井護が二人に鋭い目線で尋ねてきた。



「お前達何かを見たか。」



 寛治の話を聞いた直後のため、二人は洞窟の横道でのことを話す事を躊躇した。



「よく、覚えてなくて…。」


「あの洞窟は普段は一本道だが、なぜか二股に道が分かれる時がある。」



 大人達はハッと息を飲んで山井を見て、すぐに二人を見た。



「…そして、その道の先に進むと二度と戻って来られないと言い伝えがある。」



 二人は緊張して冷や汗をかきながら、山井の鋭い目を見つめていた。



「お前達は二股の道の先に行ったな?何かを見たか?」



 山井は最初尋ねた問をもう一度二人にした。

 寛治と言い争っていない二人の周囲にいた大人達は、固唾を飲んで二人の言葉を待った。



「…道の、向こうから、来た人を見ました。」


「見たこともない…化け物の死体を、持っていました。」



 和男は強ばり重くなる口を開いた。その和男の言葉を聞き、覚悟を決めた春子もまた口を開いた。

 これを言えば、寛治のように気が狂ったと扱われるかもしれない。でも、山井の鋭い眼光を見ると、全てが見透かされているような気がして黙っている事が出来なかった。



「…儂の家、山井家の当主は代々護の名を継ぐ。そして、山井の本当の古い名は、異界の異と書き山異とする。山の異を護る者、それがこの山を管理する山井の当主の役目だ。…お前達、あそこで見た一切を死ぬまで心に秘めている事を誓えるか。」



 山井は最後、威圧のような重い圧力を纏い二人に問うた。

 二人はいきなりの事で上手く事態が呑み込めずにいたが、山井の眼光に咄嗟に頷いていた。



「…はい、誓います。」


「誓い、ます。」



 二人は選択をした。

 山井は二人の返答を聞き一つ頷いたあと、



「この場にいる者これより先この洞窟であった事の万事、口外を禁ずる!」



 と、重々しく周囲に向けて言い放った。

 その途端、三人のやり取りを見守っていた大人達は深く安堵の息を吐いた。



「春子…よかっただぁ。」


「え、何…?」



 その中でもひと際大きく息を吐いた春子の父は、ボソッと二人にしか聞えないくらいの小さな音量でつぶやいた。



「寛治は誓わなかった…。」



 そのつぶやきを聞いて二人は、じわじわと事態が呑み込めてくると共に、あの時の選択を間違えなくてよ良かった、と心底から深く安堵した。











S-part終了

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ