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「びっくりしただぁ~。おめぇ達、こんなとこでなにしてんだぁ?」
また悲鳴をあげそうになった春子だったが、間延びした訛りのあるしゃべり方に村の老人たちを思い出し、和男と二人、無性にほっとして深い息を吐いた。
「ここは危ねぇから子供が来ちゃいけんとこだぞぉ?」
「あ…あの、ちゃんとガスマスクとかして、準備してるんで。」
まだ動揺の抜けきらない声で和男が答えた。
「準備?準備つっても、刃物さ一本も持ってねぇみてぇだけんど。」
「刃物?」
「なんで刃物が必要なんですか?」
男が言うには、ここには悪い菌を持ってるネズミがおり、そいつらに噛まれるとその部分が腐ってしまう為、その危険なネズミに対抗するのに刃物が必要ということらしかった。
なるほど、と男の話を聞いていた和男は懐中電灯で男の顔を照らした時、ふと疑問に思う事があり男に尋ねた。
「あの、あなたはガスマスクを着けてないみたいですけど、毒ガスがあるのに大丈夫なんですか?」
おそらく話ぶりからこの洞窟に何度も訪れているらしい男が、毒ガスに対して何の対策もしてないとは思えなかった。
「毒があんのは、このちっと奥の行き止まりになってるとこだけだで。」
「え?」と和男が疑問に思うも、すぐに春子が、
「あと、どうやって見えてるんですか?何も明かりを持ってないみたいですけど?」
春子の疑問に和男も、そういえば男が近づいて来ている時何の明かりも見えなかったな、そもそもこの男は誰なのか?なぜ禁じられたこの山に、この洞窟に当然のように立ち入っているのか、と自分たちの事は棚に上げて男を訝しんでいた。
そして、訝しみながら懐中電灯の明かりを男の右手の手元に移動させた時、血まみれのナイフが光を反射してギラっと光った。
「え?うわっ!」
「キャア!」
「ん?ああ、ネズミが出たんで始末したんだぁ。」
言葉と共に男が右手を照らす光の中に、ぬっと何かを鷲掴む左手をかざしてきた。
その男の左手が鷲掴んでいたものは、幼児ほどの大きさの見たこともない異形の化け物の死体だった。
洞窟内に二人の絶叫が響いた。
二人とも、腰を抜かして尻もちをつきながらも男と距離を取るように必死に後ずさって悲鳴を上げ続けた。
その二人の尋常でない様子に男も驚いたように辺りを見回した。
「なんだ?!またネズミが出ただかぁ?!」
男が辺りを見回す度、両手に持つ凶器と化け物がブンブン振り回され、その度に二人の悲鳴が大きくなる。
「ん?おい二人共、ネズミはもういねぇみてぇだぞ?」