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「…さっきレベルアップした後、あぁもう戻れないんだって、最初から知ってたみたいにスッと頭に入ってきて理解した。だから、お前はこの先には進むな、今ならギリギリ戻れる。」
「それが本当だったら、じゃあお前はどうすんだよ?!っていうかそっちが出口じゃなかったらどうやって帰ればいいんだよ!」
「来た道を引き返して、行き止まりと反対方向に進めばたぶん戻れると思う。俺はもう戻れない。お前だけ帰れ。」
「おい!ふざけんなよっ!!お前も帰るんだよ!」
「…俺子供の頃、寛治のおっさんと話してて怒られた時に、おっさんが話してた内容を思い出したんだ。…おっさん達は、洞窟の奥からの帰り道、来るときには存在しなかった脇道を見つけてその道の先に進んだらしい。でも、一人だけ毒の影響で苦しんでた寛治のおっさんは二人を先に行かせた。二人はしばらくしておっさんの所に戻って来たけど、具合の悪いおっさんを心配して、しきりにおっさんだけ先に帰るように言ってきたそうだ。俺たちはもう少し洞窟を探検するけどすぐに戻るからって。だからお前は一秒でも早くこの洞窟を出ろって言われたらしい。洞窟を出たおっさんは二人をずっと待ってたけど、二人はそれきり二度と戻らなかったそうだ…。」
「おっさんは調査隊に頼んで二人を探してもらったけど、調査隊は二人を見つける事が出来なかった。それに、何度洞窟に踏み入っても二股の脇道なんか存在しなかったし、他の二人の名前も村に存在しない名前だってわかって、それでおっさんは頭がおかしくなったって言われるようになったんだって…。二人はたぶん、先に進んで俺みたいに理解したんだろうな。…俺たちは、いつの間にかおっさん達が見つけた存在しないはずの脇道に入り込んじまってたんだよ。」
「…もし、そうだとしても、こんなとこでお前一人でどうすんだよ!早く帰るぞ!」
晃は修三の腕を引っ張って毒の漂う道に引き返そうとしたが、途中から修三の体が何かにぶつかり進まなくなった。
「修三!」
「晃、俺には目の前は壁にしか見えない…、帰れるのはお前だけなんだよ…。」
晃は修三の手を決して離さずに、修三の体を押したり引いたりして何とか毒の漂う道に戻らせようとするが、無理だった。
「お前、こんなとこじゃ食うもんもねえじゃねぇか!それに、向こうの洞窟はどこまで続いてんのかも出口があんのかも分かんねぇだろ!化け物だって、一匹じゃなくて何匹も一斉に襲ってきたらどうすんだよ!あれよりもとんでもない化け物にすぐ襲われたらどうすんだよ!ゲームの世界みたいに弱い敵から徐々に現れる保証はないんだぞ、怪我したら雑菌が入って傷口が膿んで足や腕が腐って切り落とす事になるかもしれない、寝てる間に化け物に食われるかもしれない、死んだら誰も復活なんかしてくれない!これは現実なんだぞ!」
「そうだな、…もし、洞窟から出られても近くに人里がないかもしれないし、言葉が通じないかも分かんないし、そもそも人間がいないかも知れない。…地獄のような世界かもしれないな。」
「ぅぅっ、お前の好きな、コーラなんか絶対ないんだぞ!」
鼻水を垂らして泣く修三に、晃は、
「…そうだな。…でも、俺は…!」
「ははっ…お前何て顔してんだよ、もうしょーがねーなぁ!俺もそっちに行ってやるよ!」
「!お前こそ…そんな顔して何言ってんだよ!俺の事はいいから早く帰れよ!戻れなくなるんだぞ!」
「だから!そんなビビッてガタついて泣きまくって必死な顔してるやつをこんなとこに置いてけるかよ!」
「お前だって顔中涙と鼻水まみれで震えまくってんじゃねーか!」
二人はさっきの化け物とのやり取りを思い出したり、この洞窟の先の全くの未知の世界に恐怖したり、もう二度と家にも帰れず学校にも行けず家族にも友達にも会えないという事実に絶望して、顔中涙や鼻水や色んな液体まみれでガタガタと震えていた。
晃は自分だけが戻る事により、この洞窟に一人残された修三がどんな思いをするか考え、全身恐怖で震えながらも修三と共に行く事を決意した。
「まぁ、二人いれば何とかなるだろ。お前と違って俺の荷物のほうは食料とか遭難した時用の道具とかがいっぱい入ってるからな!ほらコーラもあるぞ!」
「…それコーラじゃねぇじゃん。」
二人はいつの間にか震えを止め、涙を止め、泣き笑いのような表情でふっと笑い、お互い顔を見合わせた。
「あ~~あぁ。こんなことならさ…母ちゃんのまずい飯でももっと食っときゃよかったな。丸美ちゃんに告白しときゃよかったな。ゲームのガチャ全部ひいときゃよかったな…。」
「…お前の母ちゃんって洗剤で米研いでた事あったよな、あんな泡まみれの白飯初めて見たぞ。まずいってレベルじゃねぇだろ。ってか丸美ってあの隣のクラスの体重100キロの巨漢女かよ、…お前デブ専だったんだな。」
「丸美ちゃんの悪口を言うな!彼女はちょっと豊満な体つきをしているだけだ!…くそ!そんな淡い恋心も全部捨ててそっちに行ってやるよ。俺もすっげースキルをゲットして無双しまくってやる!」
修三は、わざとふざけたノリで言う晃に対して、その気遣いに心のなかで感謝した。
「俺らも皆から忘れられちゃうんだろうな~。」
誰に教えられた訳でもなく理屈を理解している訳でもなく、ただなんとなく二人はそう思った。
そして、二人は洞窟を未知の世界に向けて歩いていった。
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