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アレから始まる恋物語  作者: 藤原 暦
第一章
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アレから始まる恋物語 第四話

 週末の訪れた学園の一室で、僕は記事の推敲をしていた。

 隣には新聞部部長の小野沢可憐都がいる。右手で器用にくるくるとボールペンを回転させながら残念そうに話す。


「この前出した公園の幽霊の記事についてだけれど、あっという間に忘れ去られてしまったわね」


「そうですね。奇妙な水たまりを見つけたまではよかったのですが、関連性は不明で、続報も途絶えてしまったのも原因でしょうか。でも、限られた情報の中で、あれだけの記事をまとめた部長はさすがだと思いました」

「てっきり唯川くんは、私が個人の趣味に走りすぎたことをとがめてくると思っていたのだけれど、それは本音かしら?」

「まあ僕はファンですから、フィルターは掛かっていると思います」

「初耳だけれど、どういったファンなのかしら?」

「純粋に部長のファンですけど。素晴らしい記事に目を惹かれて。あれ、言ってませんでしたっけ?」

「ああ、そういうファンね」


 ピンっ飛ばしたボールペンを空中でキャッチして、デスクの片付けを始めた。


「もうお昼になるわ。おなかも空いてくる頃だし、今日はこの辺でお開きにしましょう。土曜日なのに呼び出したりしてごめんなさいね。鍵は私が返しておくから、唯川くんは先に帰ってもいいわよ」

「はい、お先に失礼します」


 一礼して部室を出る。

 部長には悪いけど、公園の幽霊騒ぎが収束したことでほっとしている。

 藤咲からの緊急コールもまだなく、平穏な日々が過ぎていた。

 おしっこを我慢しないことで、彼女は自らの欲求に打ち勝つことが出来ているのだろうか? そうならば、もちろんいいことではあるんだけど、ただのクラスメイトに戻ってしまったみたいで少し寂しい感じもする。

 考えにふけっていると、部長のいうとおり、おなかが空いてきた。

 今日は両親ともに仕事で家を空けており、ついでに妹も部活で帰ってくるのは夕方。料理スキルの無い僕がキッチンに立ってもカップラーメンくらいしか作れない。

 帰り道で何か買って帰ろう。

 そう決めて、近所のコンビニへを足を向ける。

 路地を曲がったところで、向こうから歩いてきたクリスの姿が目に入る。


「やあ」


 手を挙げて挨拶を投げる。何故か頬を染めている彼女はこちらを見て右手で作ったパーを二、三回振っただけで早足で通り過ぎた。

 急いでいるのだろうかと思い振り返ったとき、いたずらな風がクリスのスカートを翻す。

 つい目がいってしまう。

 彼女は手で押さえたが、僕からはちょうど中身が見えてしまった。

 一瞬の出来事に少し遅れてドキッとする。

 普段はただの布きれであるアレが、年頃の女の子が示す羞恥の行動と共に見え隠れすれば、男性なら少なからず刺激を受けるだろう。

 でもあれ、なんだこの違和感。

 クリスは振り向き、今度はこちらに近づいてくる。


「あんた、今見えたわね? そうなのね!」

「ま、待つんだクリス。僕には何も見えなかったよ。それにパンツくらいどうってこと無いじゃないか。僕たちは昔、一緒にお風呂に入っていた仲だぞ」


 一緒にお風呂に入っていたのは幼稚園くらいの、ずいぶん古い記憶ではあるが、彼女の意識をそらすには充分だった。


「まったく、いつの話をしているのやら。悪いけど急いでるから行くわ。またね」


 彼女は足早に立ち去った。

 パンツくらいなら、どうってこと無かった。

 スカートの中は見えたが、そこにあるはずのものが見えなかった。

 まさかね。

 見間違いだろう。

 僕は何も考えるなと必死に考えながら家に帰った。

 コンビニに寄ることを忘れていたので仕方なくカップラーメンにお湯を注いだ。



 ***



 月曜日。有栖川クリスは僕たちの学園に編入となった。

 偶然にも僕と同じクラスになったのだけど、この学園には一学年ごとに理数科一クラスに普通科二クラスしか無く、普通科に編入したわけだから確率は五〇パーセント。結構高い。

 帰国子女の編入生の話題は小さな学園中にあっという間に広がる。

 クリスは持ち前のコミュニケーション能力を発揮して、昼休みが始まる頃には完全に打ち解けていた。


「クリスクリス、一緒にご飯食べよ!」

「あ、わたしもわたしもー」

「うちもまぜてー」

「オッケーオッケー、みんなで食べましょ。あたし日本食って久々だから、みんなのおかず分けてちょうだい。このサンドイッチと交換で」


 一斉に、みんなのおかずがクリスの元に集まる。いやそんなに食べられないだろってくらいに。

 自分の席に座ったまま遠い目でクリスを見ていると、藤咲が弁当を持って僕のところに来た。


「一緒に食べない?」

「大歓迎だけど、クリスのところに行かないのか?」

「この前たくさん話せたし、今日はいいかなって。クラスのみんなは帰国子女の編入生に興味津々だから」

「それもそうだ」


 僕もカバンから弁当を取り出す。

 ふと、気になっていたことを問いかける。


「食事の最中にふさわしくない話だけど、アレは最近、抑えられているのか?」


 けほけほっ、と藤咲は咳き込んだ。


「ごめん、やっぱいいや。ご飯食べよう」

「べ、別にいいよ。うん、あれからはおかしくなってないね。本当に効果があるのかも。あと一歩で誘惑に負けそうになっちゃったことはあるけどね」

「そっか、それは良かった。またアレに付き合わされるんじゃ無いかとひやひやしてたところだ」

「そういう割に寂しそうにしてやんの。可愛いやつ」


 み、見透かされた? 女の子の勘というか、観察力には驚かされる。

 それとも僕、表情とか言動に出やすいのかな。


「そんな唯川くんに青春イベント! 私はこのミートボールをもらうから、好きなの一個食べていいよ」

「全部冷凍食品だけどね。じゃあ、僕は、この唐揚げをもらおう」

「どうぞどうぞ。こっちは全部お手製だよ。もちろん、私のね」

「へぇ、よく出来ているね。これ、毎日作っているの?」

「ううん、いつもはお母さん。今日はクリスが編入する日だったから自分で作ってきたんだけど、結局交換する相手は唯川くんになってしまったね。クリスには放課後にでも食べてもらおう」


 藤咲お手製の唐揚げを食べる。うん、おいしい。他の料理も、是非味わってみたいと思った。

 楽しい昼休みもあっという間に終わってしまい、午後の科目に移る。

 今日一日、何気なくアリスを見ていたけど一昨日みたく挙動がおかしい様子は無かった。

 あのとき彼女は間違いなくノーパンだった。だからソワソワしていたんだ。

 履き忘れたなんてことは無いだろう。無いよね? となると、彼女自ら行為に及んだか、強要されていたかだ。……後者は考えたくないな。

 直接訊いても、はぐらかされるに決まっている。

 ただ、決定的な証拠をつかんでもダメか。スカートをめくる訳にはいかないし、たくし上げて見せてみろというのもおかしい。僕が変態みたいじゃないか。

 待てよ、僕じゃなければ確認は可能だ。藤咲に見てもらえばいいんだ。女の子同士ならセーフだろう。僕も頼みやすいし、仮にクリスがノーパンで過ごすのが趣味だったとしても、バレる相手が僕と藤咲なら安全だ。ダメージはあるだろうけど。

 後は証拠をどうやってつかむかだが……。

 落ち着かない様子になっているだけでは弱い。他に要因があることも充分あり得る。

 段差を利用して覗く訳にはいかないし、いきなり藤咲にスカートの中をあらためてもらうのも変だ。

 残るは、偶機――すなわち、一昨日のようなラッキースケベを待つのみだ。現時進行形で確認が取れ次第、藤咲に確認してもらう。

 作戦として破綻している感はあるが、もしも間違いだったら大変だ。

 事は慎重を要する。

 落ち着き無く不安そうにキョロキョロ、クリスがそんな行動をとれば、いたずらの神に一陣の風を願う。よし、これしか無い。

 都合良く行くかどうかは置いといて、とりあえず藤咲に相談だ。

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