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アレから始まる恋物語  作者: 藤原 暦
第一章
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アレから始まる恋物語 第二話

 授業はつつがなく進行し、昼食、午後の科目を経て放課後へと至る。

 藤咲とは今朝以来話していない。

 忘れようと言ったのだ。今の僕には、アレ以外の話題はない。

 渡り廊下を進み、旧校舎へと入る。ここは部室棟と呼ばれていて、その名の通り各部活の部室が入っている建物だ。僕は新聞部の部室へと入る。


「唯川くん、待っていたわ」


 金髪ウェーブロングでつり目、上品な言葉遣い。いかにもお嬢様な彼女――小野沢可憐都おのざわかれんとは、実際にお嬢様だ。いや、令嬢という方が正しいか。この新聞部の構成メンバーの一人で、部長を勤める三年生だ。


「今日、クラスで興味深い話があってね、うちで取り上げようと思うのだけど」

「オカルト系ですか?」


 部長の興味深いは、十中八九オカルトだ。この人は本当にオカルトに目がない。


「面白おかしな記事にはもってこいですが、この前も学校の七不思議特集やったばかりですし、飽きられるのでは?」

「七不思議なのに十二個もあって、あれはあれで良かったと思うの。恒例行事みたいな物だからね。今回はタイムリーな事件ということで、オカルト系で被るけど記事にするわ」

「するわ、ってことはもう決めてますね?」

「ええ、話を聞いて興奮しちゃって、見出しも考えてあるの」


 調査すらしていないというのに、ずらりと書かれた見出しを見て、部長の熱意を改めて確認した。

 自販機で買ってきたジュースを飲みながら、興味深い話とやらを訊いてみる。


「それがね、学園公園での話なのだけれど」


 心当たりがありギクッとする。

 昨日の件、見られていたのか? いや、ならばオカルト話にはならないだろう。なったとしたら、妖怪アレまみれ少女だ。


「公園のトイレの近くでうめき声を聞いたり、人影を見たって言う人が結構な数いるみたいなの。面白そうでしょう?」


 それを聞いて僕は思った。

 藤咲のことだ!

 ということは、彼女は複数にわたってアレを繰り返していた可能性もある。

 トイレが近くにあるのに、わざわざ向こうの茂みになんて入らない。

 他にやつに見つかっていたら、今頃どうなっていたことか。


『好きにしていいよ』


 彼女の言葉を反すうする。

 僕以外の知らないヤツらに見つかって好きにされている藤咲を想像してしまう。

 まずい、考えるときは今じゃない。


「急に黙り込んだりしてどうしたのかしら。何か心当たりでも?」


 部長に詮索される前に、記事の件は了解と言ってしまおう。

 幸いここは新聞部。

 学園内のありとあらゆる噂話で満ちあふれている。

 藤咲のアレに関する噂は僕が、すべてもみ消してしまおう。

 それだけの力はある。

 忘れようと言った手前心苦しいが、藤咲にはもう一度話をしないといけないな。


「調査に行ってきます」、僕は一通りの説明を受け、部室を後にした。



 ***



 藤咲に向けてメッセージアプリで文字を打つ。


《今ヒマか? どこにいる?》


 数分後、返信が来る。


《誰かと思ったら唯川くんか。今部室。今から帰るところだよ》

《話がある。一緒に帰ろう。校門で待ってる》


 メッセージが既読になって十数分が経つ。

 僕はすでに校門に着いていたけど、藤咲はまだ出てこなかった。

 これが世に言う既読スルーか。

 裏口もあるから、そっちから帰ったのかもしれないな。

 少し焦って、強引に誘ってしまったけど、まずかったか。

 部室にいたってことは、他の部員も一緒にいるはずだ。部活が終わって帰るとなると、部員同士で固まってというのが普通か。その中に僕が混ざっても気まずいだけだ。入れたいとも思わないだろう。


《ごめん、やっぱさっきのはナシ》


 そう打ち終えたところで、声をかけられた。


「ごめん、待たせたよね。いきなり誘ってくるから、友達を引き離すのに時間かかっちゃったよ」


 遠慮がちに笑いながら、いつもの藤咲っていう感じで、安心した。

 わざわざ友達とも別れてきてくれた。これでアレについても話しやすい。

 僕たちは歩き始める。


「それで、わざわざ呼び出してまでする話って、何かな?」

「僕はきみに、もう忘れようと言ったな、あれは嘘だ」

「ズコーってギャグ漫画みたいに転がって行きそうになったよっ? 中一からずっと同じクラスだった冴えない系男子の唯川くんが今までの人生で一番輝いていた瞬間を自ら否定する場面に出くわしてしまったよ? ちょっと惚れたかもって思っちゃった私はどうすればいいのっ?」

「まあまて、話せば分かる」


 というのはたいてい分からないものだが、まくし立てる藤咲をなんとか静かにさせる。


「僕が何部だか知っているだろ?」

「新聞部ってことはまさか、私のことを記事にするつもり?」

「そうだ」

「そうなんだ!」

「いやまて、違う、落ち着け」

「唯川くんこそ、落ち着いて!」


 いろいろと言いたいことがあってわけが分からなくなってきた。彼女に促され、深呼吸する。そして、部長から聞いた話をした。


「やはり、初めてじゃなかったんだな」

「うん、そうなんだ。どうしてだか分からないけど、ある日突然アレの虜になっちゃって……」

「どうしてもやめることは出来ないのか?」

「うん……」


 彼女は少しトーンを落として頷く。


「あの、あ、アレを見られたのがショックで……、昨日から落ち着かなかったんだけど、今日、唯川くんが忘れようって言ってくれて、すごく嬉しかったんだ。私があんなことするのが好きだと知っても普通に接してくれたし、ジャージだって汚くなっちゃったのに笑顔で受け取ってくれたし」


 瞳を濡らしながら、彼女は立ち止まった。

 どうしても止められないというのなら、僕は最後の手段に出るしかない。


「藤咲、これは勝手なお願いだけど聞いてくれ。僕は藤咲が知らないやつの好きなようにされるなんて耐えられない。もしまたアレがしたくなったら僕も一緒について行かせてくれ。僕がきみを守るから」


 これじゃあ僕が彼女に好意を抱いていて、他のやつに何かされるが嫌みたいに聞こえてしまうな。下手したら告白とも取れるかもしれない。

 恥ずかしさをこらえながら彼女を見る。


「ゆ、唯川くんそれって……」


 やはり言葉の選択を間違えたか。勘違いされてしまったかもしれない。それに、おしっこするときは一緒に行って守ってあげるなんて普通じゃないよな。


「わ、私がアレをするところが、み、見たいってこと?」


 ちがーう!

 いや、違わないけど! 間違いではないけど、それもほんの少しはあったけど、主旨はそうじゃない。


「で、でも、唯川くんがそういうのなら、いいよ。これで、何でもする、の分はチャラね」

「あ、ああ、そういうことにしておこう」


 藤咲はゆっくりと口元を緩めた。


「唯川くんが、女の子のアレをするところが見てみたい変態だからといって、私は、何も思ったりしないよ」


 僕は苦笑いするので精一杯だった。


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