アレから始まる恋物語 第〇話
誰しも人には言えない、趣味・嗜好を、内に秘めているものだ。
これは、かの有名な哲学者の言葉でも、破天荒な大統領のツイートでもなく、しがない個人の意見ではあるが、まず、そうに違いない。
僕、唯川やまては、ベッドの上で布団を被り、自分を正当化していた。だって、この世界で僕だけが、ちょっと変わった趣味を持っているなんて、不公平にも程がある。毎晩こうして悩んでいるのが、僕だけなもんか、ぶちまけられた憂鬱が、夜空をより黒くする。
好きなことを話すのって、とても楽しいじゃないか。「はいはいまた始まった」、と茶化しながらも聞いてくれる友人って、とっても素敵じゃないか。
(簡単に打ち明けられるものならなぁ)
ため息をつく。
僕にだって友人はいる。ただ、心の奥底で煮えたぎる、この熱い思いを、ぶつけることが出来ない。出来るもんか。出来てたまるか。
たぶん、恐らく、きっと、僕はおかしい。おかしいと自覚しながらも、好きなのだからどうしようもない。
共通の趣味を持つ友人、なんて高望みはしない。僕を受け入れてくれるだけでも、否定しないだけでもいい。僕の話を聞いて欲しい。
でも、やっぱ、一番は、一緒に語り合える、そんな相手。
結局、多くを望んでしまう、たちの悪い僕は、直接言葉にしにくい、〈アレ〉と伏せたくなるような、変な趣味を持った女の子と、突然出会い、秘密を共有し、友情を深め、楽しい日々を手に入れる――そんな想像をしている内に、眠りについた。