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目が覚めたら、全て夢でした。
なーんて。そんな都合のいい展開になるはずもなく。現実逃避しかけた頭で、必死に現状を理解しようとしてはいるがもう既に話は決着していた。
「では、3日後に婚約式ということで。結婚式は、少々時間がかかりますので、未定ですが(何があっても)婚約が破棄になることはありませんのでご安心を」
副音声が聞こえたのは私の気のせいか。
「……はい。どうぞ娘をよろしくお願いします。殿下」
10歳は確実に老けてやつれた父親は、静々と頭を下げてちらりと私に向かって視線を投げた。その視線は、必死で動揺を隠してはいるが、なぜお前がそこに収まっている? 瞳にはありありとそんな疑惑が浮かんでいるように見える。それは私だって聞きたいのだ。
ちなみに私、リィアデルはというと、殿下ことサウィル様の膝の上で固まっていた。どんなに抵抗しても自身で椅子に座ることを許してくれなかったのだ。
そうだ。彼はこんな人だった。遠い目をしてしまう私を責められる人がいようか。
こうなってしまったのは、2日前、リィアデルが目を覚ました時まで遡る。
「……ここ、どこ」
気がついた時には薄いシフォンを重ねたようなネグリジェ姿で、豪奢な部屋のこれまた豪奢なベッドで目が覚めた。公爵令嬢の私ですらこんな豪勢な部屋は見たことない。ほんと、ここどこ?
「王妃の間だよ。リィア。」
いきなり現れた第一王子殿下にぎょっとし、思わず短い悲鳴をあげてしまった。
勘弁して欲しい。ただでさえ彼は私にとって天敵とも言える存在なのだ。怖い、怖すぎる!
しかし、そんなことを気にするような男では無い。タチが悪いことに怯えられても悲鳴をあげられても逆にそれを喜ぶような存在だ。
王妃の間? はて、何故そんな所で私は寝かされてたのか。
「可哀想に。疲れてたんだね」
お前のせいでな!
そんなことを言えるはずもなく、縮こまっていれば至極ご機嫌なサウィルは色々説明してくれた。
「父(父王)も母(王妃)もリィアデルのこと知ってたみたいで婚姻に諸手を上げて賛成してくれたよ。君の義父上殿は、公爵としても信用が厚いからね。もう結婚に何の障害もないよ」
とのこと。
いやいやいや、陛下、そこは反対してくださいよ!
それから、隙を見計らって私は家に逃げ……帰ることにした。
「お父様っ!!! 勘当してくださいまし!!」
我が家の執務室に飛び込んで来た娘の第一声にぎょっとしたような顔で固まった父。
「……お前、何を言ってるのか分かっておるのか」
「もちろんですわ!! あ、あの方の隣にいるよりはマシですっ!」
ここまで毛嫌いするのも仕方ないだろう。何しろ私は“彼”に殺されているのだ。もうあんな怖いのやだ。
「ここまでとは…王子の慧眼にも驚かされるな」
何を言っているのですか、お父様。早く勘当してくださいませ!そして修道院にでも行きます!
「残念だがな、リィ。それはできん。」
「な、何故です!?」
「サウィル殿下からのお達しだ。」
ぴらっと差し出されたのは、高級そうな羊皮紙。
またこれか!
覗き込めばつらつらと流麗な文字で何かが書かれているが頭が理解したくないと叫んでいた。
「要約するとな、お前が家を離れたいと申し出ると思うから引き止めて必ず嫁に差し出すように、との事だ。あぁ、それと陛下や周りの友人令嬢に進言しても無駄だぞ。コレが既に届いている頃だろうからな」
気付いた時には遅かった。
まさにそんな感じだ。
「そんな……」
「いやはや、見事な手際だな。完全に外堀が埋まっておる。……おめでとう? リィ」
父も色々あったのか疲れた表情で疑問形ではあるが祝いの言葉を述べる。
しかし、全然嬉しくなんてない。
「お父様、私、逃げますわ」
「…………」
宣言した翌日、終わりはあっさりと告げられる。
逃げたくても先回りされてなかなか逃げ切らないリィアデル。相手は強かった(・∀・)