表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

 



 ギィィとこんな時に限って古めかしい音を立てて開かれる扉。リィアデルとしては、本当に意識を失ってしまいたかった。

 部屋は意外にも落ち着いたインテリアが揃えられ、品の良さが伺える。しかし、リィアデルとしてはそんなことはどうでもいいのだ。部屋の奥のソファーに座っていた人物と不覚にも目があってしまい固まった。


「待ってたよ、リィアデル・ユネグレイス嬢」


 声変わりしてもう立派な男の声になったこの国の第一王子殿下その人だった。ぞわぞわぞわっと悪寒が背筋に走り、本能的に逃げ出したくなる。というよりも、体は半分逃げ出そうと後ずさりしていた。


 嫌な予感というのは、何故いつも外れてはくれないのです……!


 一気に鳥肌となった二の腕を摩りながら、心の中で誰にも聞かせられないような罵詈雑言の嵐を自身と彼に向けて叫ぶ。

 そんなことに気を取られていたからか、目の前に迫った金髪碧眼の美貌に気がつかなかった。


「…!?!!」


「残念だったね? あの僕の祝いの席で本気で婚約者を見つけてればこんなことにならなかったかもしれないのに。」


 耳元で囁かれたその言葉に悪魔を見た気がした。

 本当、馬鹿だ。

 ひしひしと嫌な予感を抱いていたリィアデルを待ち構えていたのは、、目の前にいる王子もとい獰猛なケダモノだった。リィアデルは内心怯えつつ猛烈に後悔していた。あの時父親任せにしなければ、こんなことにはなってない。



「やっと、僕の腕に戻ってきたね。ーーー美雨」



 前世の名を呼ばれた瞬間思わずひっと喉を鳴らして小さな悲鳴をあげた。それを聞いた王子もとい、前世の元恋人はニッコリと笑いとても嬉しそうな顔をした。

 リィアデルもとい美雨は、確信した。

 夜会で見たケダモノが指をくわえて手ぐすね引いて待っているようなあの瞳は、やはり間違ってはいなかったのか。



「………秋冬しゅうと…」



 無意識に彼の前世の名前を呟けば、それはもう美しい微笑を浮かべた。リィアデルにとっては、恐ろしい微笑みでしかなかったが。

 助けを求めようとあたりを見回せば、既に二人っきりの空間で唖然とする。


「彼らには下がってもらったよ? 邪魔でしょ?」


 ざぁーと血の気が引くのがよくわかった。それをわかってるのかわかってないのかーーー多分前者だーーーにこにこと上機嫌に腕をリィアデルの体に巻きつけた男は、頬ずりでもしそうな勢いで、頭一つ小さいリィアデルのつむじにキスを降らせる。


 邪魔なんかじゃない、あんたとなんか婚約しない!!


 そう言えたらどんなにいいか。怯えと恐怖でプルプル震えるリィアデルには、されるがまま堪えるのが精一杯なのだ。


「待ってたよ。美雨…。もう離さないからね」


 その言葉を聞いて沸点の限界を超えたリィアデルは、当初念願だった意識を彼の腕の中で失った。


ブックマーク、評価、感想、ありがとうございます!


まだもう少し続きます。お付き合い下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ