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「結婚は〜」を書いてて、行き詰まったので息抜きです。放置される可能性もあるのでご了承下さい。おかしな部分も生暖かい目で見ていただけると助かります。
体の至る所が、いや下半身が痛い。
そして、怠い。体を起こそうとして、腕に力が入らずへにゃりとベッドに倒れこむ。
「何がどうしてこうなったし」
シーツにくるまり遠い目をした私は煌びやかな天蓋のついたベッドの上で呆然としたまま掠れた声で呟いた。
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異世界転生。
元日本人であったリィアデル・ユネグレイスは、それに気が付いた時呆然とした。
きっかけはささいなことだった。
魔法を初めてみた6歳のときのことである。
父に連れられ、王城にある騎士団の隣に併設された魔法研究所にやって来た時訓練していた魔法師達の魔法を見ての第一声。
「うわぁ、ふぁんたじー!!」
自分で言ってて、「は?」っておもった。
前々から既視感があったから、なんだか変だな。とは思っていたのだが、まさか今のユネグレイスという姓に生まれてから聞いたことも無いような言葉が次々と頭に浮かんでは消えるのである。
手を繋いで一緒に見ていた父も、娘の発した言葉に首を傾げていたが、当のリィアデルにとってそんなことはもう気にならなかった。自分のことでいっぱいいっぱいだったのだ。
目を見開いて固まってしまった娘の魔法適正をなんとか調べ、ーーその適正値の高さに驚きつつもにやけ顔の父と未だ呆然としている幼子の図は異様であったであろうことは想像に難くない。ーー屋敷へと戻った。
リィアデルが事態を飲み込めたのはそれから三日後のことである。あまりにも突飛な話でどうしていいかわからず寝込んだのだ。
「まさか、本当に転生があるなんて……」
元日本人としての感覚と公爵令嬢としての感覚が上手いこと合わさったのは良かったものの、思い出した事はそう容易に6歳児が呑み込めるものでもなかった。
「ストーカーに殺されて転生とか、悲惨すぎる……!」
そう、日本人であった前世の私は、付き合っていた元彼がストーカーと化しその彼に惨殺されていた。
元彼は、モテモテの男子君で何故だか平々凡々なわたしに告白して来て付き合うことになったのだが、その後の同性からの嫌がらせに耐えきれず別れたのだ。なぜ付き合った、あの頃の私!
そして何故か、前世の私はそういった男から執着されることが多かった。
「今度は絶対平凡な人生にする!!」
齢六歳にして人生決定を下した瞬間だった
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時は流れて、10年後。リィアデル16才。
それぞれに憧れ、ってあると私は思うんだよ。
煌びやかな会場で、取って付けたような笑顔を顔に貼り付けたまま壁の花となっていた彼女はふとそう思った。
ほら、王子様の定番って言ったら金髪碧眼で見目麗しくて優しくてかっこいい。こんな王子様、憧れじゃない?
健気で、ふわふわしてて優しい王女様。これは女の子の憧れだよね。
でも憧れは憧れのまま綺麗に胸の奥にしまっておくものなんだ。本当にいたら、それはまやかし。
「いつ見ても素敵ですわよね!!」
「えぇ!!ほんと」
「「サウィル様ぁ~!!」」
目をハートに変えて、きゃっきゃとはしゃぐ令嬢を見て私はそう思う。
彼女たちの目の前にいるのは、今社交界で話題沸騰中の第一王子ことサウィル・ファン・ファグラス。金髪碧眼で、物腰柔らか。頭もいいとくればお嬢様方に人気なのも頷けるというもの。
だが。
よく見ろ、あの目を。
獣が舌舐めずりしているではないか!
それに気づかないとは、ほんとうに恐ろしい。
「……きゃっきゃっと周りで騒げるうちが幸せで花よねぇ」
あのきらきらしい微笑みの元心の中じゃ何を考えているやら。何を隠しているか分かったものじゃないというのは、上位貴族である我が家族を見てても感じることだ。
ふと、王子と目がかち合った。
ゾクッと寒気がしたのは気のせいか……。
リィアデルは咄嗟に目をそらして慌てて人ごみに紛れた。
ここまで来れば分からないだろう。うんうんと頷いて入れば、歩み寄ってきたのは体格のいい渋いおじさま、とでも言える男性。
ユネグレイス公爵。わたしの父である。
「何をぶつぶつ言っておるのだ。リィ。お前の初の夜会だというのに、壁の花でどうする」
もっと攻めんか、と実の娘に男を進める父。
ここは王城主催のサウィル第一王子殿下のお誕生日パーティーの夜会会場。煌びやかな装飾と着飾った男女が入り乱れるホールの端に私はいた。
娘の公爵令嬢であるリィアデル・ユネグレイスこと私は、曖昧に笑って返した。
「私、緊張してしまって…」
挨拶回りをしていたのか、若干疲れた表情の父はあからさまに違うだろうと言うような表情を浮かべた。
「お前がそんな繊細な神経をしてるとは到底思えんのだがな」
父酷い。
公爵令嬢として婚約が仕事であることぐらいは、わかっているつもりではあるが、こうして虎視眈々と目をギラギラさせているお嬢様方を目にすると、面倒臭がりの私には厄介ごとにしか見えなくなるのだ。
「お父様、私は平々凡々な方に嫁ぎたいのです。こんなキラキラした社交界にいるような殿方は御免だと前から言っているではありませんか」
「まだ言うとるか。お前は私の娘。中身がソレでも我がユネグレイス公爵家令嬢だぞ。」
周りできゃあきゃあとはしゃぐ令嬢がたを見回す。
「では、お父様が決めてくださいまし。私は、それに従いますわ!」
好いた相手と一緒になれないなら、結果は同じ。
公爵という身分の丈に見合った貴族に嫁がされるのだ。だったら、私が選ぶことなんてない。父が決めてくれればいいのだ。
「おいっ、リィ! 待て!!」
私は、自身だけで納得して父にそう言い後ろで何かを叫ぶ父を無視して夜会を後にした。
その後ろ姿を見て、笑う王子がいたことなどこの時のリィアデルには知る由も無い。