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フランデル平原戦における飛竜部隊の効果的運用方法・1

「この世でさ、最も優れた兵科ってなんだろうな」


 朝焼けが眩しい午前8時ごろ。僚機についた飛行士、ミゲル・アラスカリアが索敵飛行中に、俺に問いかけて来た。

 年は一個上らしいが、軍歴は俺よりも半年ほど後輩になる。ほとんど年も変わらないのでよく言葉を交わしていたけど、ずいぶんと呑気な男だと思っていた。

 まさか任務中にそんなことを切りだされるとは思いもしなかった。

 背後にいるマリアも呆れたように彼を見つめていた。彼の背後についている機銃士も同じように苦笑している。


「やっぱり騎兵なのかな。地上戦じゃまず無敵だろうし。何よりカッコいい恰好で街中を闊歩できる。飛竜も同じようにできないものかな」


 そんな視線を気にせずに、青空を見つめながらミゲルは言葉を続けた。

 本当に呑気な男だと思う。深遠な考えに基づいたものじゃない。昼食中に交わす日常会話の延長線上にあるものだろう。

 あの時の飛行中、彼はゴーグルの奥で目を輝かしていたような気がした。





 俺たちが策敵を終えて基地へと戻ってきたのは昼前だった。

 味方最前線を飛行した結果、敵部隊の攻勢の予兆は無し。当面の間膠着状態が続くのはほぼ間違いないと思われる。

 当面は歩兵や騎兵との共同訓練飛行と、さっきのような策敵に費やされるんだろう。つい先日の激戦と比べると、俺たちは本当に戦争をしているのかと思わざるを得ないぐらいの平和振りだった。

 そんな時だった。

 昼食に出されたスープを飲んでいるマリアは、皿を机へ音を立てて勢いよく置き、何かを思い出したかのように叫ぶように言い放った。


「絶対に飛竜だし。地上部隊なんて相手じゃないっての。空飛べる兵科なんか飛竜だけだし、馬が一頭いただけじゃ何にも出来ないんだから」


 多分、さっきのあのことだろう。何か目を輝かしながら言っていた覚えがある。

 対面にミゲルがいたから思い出したのかもしれない。叫び声もそうだけど、眼も怒っている。いつぞやの歩兵大隊との喧嘩ぐらい怒っているような気がする。


「でも騎兵隊の軍服はカッコイイじゃないか。騎兵科の連中はどこに行ってももててたぞ」

「それはアンタがもてないだけでしょ。絶対に飛竜の方が強いんだから」

「いいや騎兵だね。


 ここまで言ってのけるミゲルは、もはやなぜ飛竜の飛行士を選んだのか不思議でならない。一部を見ていた飛行士らも苦笑していた。多分、同意できる部分は割と多いけれど。

 それに、マリアの胸に突き刺さる心無い一言は置いて置くにしても、とにかく彼女はとにかく荒れていた。

 荒んだ彼女の言葉は大きな蒼い瞳をミゲルのとぼけた顔に突き刺そうとしている。


「アンタも黙ってないで何とか言いなさい。断っ然、飛竜だろうけど」

「騎兵の奥深さを分かってないね。確かに飛竜も凄いが、頭数は少ない。効果的な作戦行動が取れるのは断然騎兵さ」


 それがこちらにまで飛んできた。

 これはどうしようもない。とにかく感情を表に出すヤツだが、放っておけば一晩経ってすぐに機嫌を直す。それは過去に何度も見て来たことだ。


「まあまあどちらにも特性ってもんがあるだろう。今朝は早かったんだし午後は休みだろ。ミハエルの世話をしてとっとと戻ろうぜ。ほら、ミゲルも……」


 適当に笑みを浮かべながら、睨み合う二人をあしらって立ち上がろうとした時だ。

 カツカツと軍靴を鳴らしながらコノエ中隊長が食堂へと入って来た。


「全員聞け。明日明朝、第2王子殿下と第6王女殿下の部隊がこの基地を通られるらしい。相応の応対をしろとのお達しだ。よく分からないが心して掛かれ」


 突然現れた中隊長はそう言い放つと、言い終える頃には肩に掛けるように着ていたジャケットの懐から酒瓶を取り出すと音を立てて呷っていた。来た時と同じように音を立てながら食堂を去る間際の彼女の背中は、どこか不機嫌そうにしていた。


「第2王子に第6王女というと騎兵部隊だったような。名前は……」

「第4騎兵連隊『スティード』。戦争でも常に前線で活躍を続けて来た部隊さ。王子と王女が連隊の指揮を執る精鋭部隊さ」


 突然の話に食堂がざわつく中、ふと漏らした俺の問いに、ミゲルはなぜか得意げに答えた。


「国王代理の閲兵みたいなもんなのかもしれないな。なんたって王族なんだから」

「そう言えばそうだな。しかしまぁ、なんたって王族が最前線で部隊を率いるんだろうな」

「そこらへんはマリアさんが詳しでしょ。なんたって王族なんだし。っていうよりもこっちの方がよっぽど奇特だと思うよ。最前線も最前線だしさ」


 それもそうだとしか言いようが無かった。彼のしたり顔に俺は屈せざるを得ない。


「どうしたマリア。久しぶりに兄貴と会えるんだぞ。嬉しくないのか」


 そんな馬鹿げた会話の中、隣に居たマリアは終始黙り込んでいた。さっきまでの元気っぷりはどこかへと飛んで行ってしまっている。

 中隊長の訓示の後は、どこか気の抜けたように食堂の窓を眺めていた。外の緑は徐々に濃くなってきている。戦争が始まってから2年ほど経つのかもしれない。


「……別に。なんてことないけど」


 絶対に嘘だ。それだけはすぐに分かった。

 かといってもこう言う時に突っ込んだ話を聞けば彼女の機嫌を損ねるだけなのは間違いない。

 俺は適当に相槌を打つと、食器を片して先に飛竜の厩舎に向かった。

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