最終戦2
練華がそれに気づけたのは偶然だった。
配置にあわただしく動き回る兵士達の中で、一人だけ感情を感じられない動きをしていたように練華は思った。
それは、かつて自身がそうだったからなのかは本人ですら分からない。もしくは、彼女に微かに残る練という存在が自らの本体に反応したのであろうか。
ただ一つ言えるとすれば、違和感を感じて目で追っていた兵士が突然近くに居た兵士を切り殺す所を見ていなければ、彼女も後ろから切られていたのであろうということだけであった。
咄嗟に取り出した護身用のナイフで、眼前に迫っていた剣を受け流す。
「ちっ!凍りつけ!『氷結』」
左の手のひらを地面につける。そこから、同心円状に氷が広がっていき、本体の剣と両足を飲み込んで凍りついていく。
「魔法を確認、対魔法戦闘を開始します」
本体から魔力がとめどなく溢れだす。
「くそっ、なんだこれ」
練華が後ろに跳んで距離を取ると、盾になるようにシャラが割ってはいった。
「レンカ、大丈夫!?」
「怪我はない……が、魔法が使えなくなった」
「え?ホント!?あ、ホントだ」
「油断するな、あの程度ではアレは止まらない気がする」
「あんなにがっちり凍ってるのに?」
シャラが本体の凍りついた両足に目を向ける。すると、ピシリと亀裂が氷に入るのを確認してしまった。
「ほんとだ」
シャラは、険しい顔になって盾を構え直した。
▽ ▽ ▽
「逃がさない」
恨みのこもった声とともに、少女を中心として大きな炎の壁が立ち上る。
「レン!」
「大丈夫だ!それより、メリッサとザンは砦の中へ行ってくれ!本体はもう中に居る気がする!」
「マジか!」
「でもレン!」
「メリッサ!頼む!」
「……分かった!死なないでね!」
二人の気配が遠ざかっていく。
「死なないでね……ですか……お姉ちゃんを殺したあなたが生きていていいと思っているのしょうか……私たちの幸せを奪ったあなたが」
「謝って済むようなことでないことは知っている」
「そうです、謝って済む事じゃありません。あなたは業火に焼かれて苦しみながら死……!?」
喋っている途中の少女の全身を水の塊で飲み込む。
「凍りつけ『氷縛』」
そして、そのまま巨大な氷へと変わる。このまま放置すれば、窒息か低体温で死ぬだろう。
「人を殺したことを肯定するわけじゃない、けどあの選択を後悔することはしないと決めているんだ」
六角柱をホルダーに戻し、ブーメランを交換する。
その上でもう一本ブーメランを取り出して、周囲を囲む炎の壁を消すために、水の玉を生成しようとしたその時だった。
ごう、と氷が炎に包まれたのだ。
「まさか、自分が焼かれることも厭わず氷を!?」
炎が消えると、もうもうと立ち込める湯気の中から、少女が姿を現した。
右腕は折れているためにだらりと下がり、顔の左半分は焼けただれてしまっている。しかし、俺を射るその瞳には、どろどろと淀んだ憎悪の色が先程となんら変わらずに存在していた。
「……さて、どうしようか」
玉砕覚悟……いや、自らの命など考えずに俺を殺しに来ている。そんな相手に無事でいられるのだろうか。




