全力
「おらっ!」
殺気を纏ったザンの大剣が眼前に迫る。
受け流せないと思った俺は盾で受け止めた。
「くっ!」
ガリガリと地面を削りながらも、どうにか体勢を崩すことなく受けきることが出来た。
「ふむ。まぁ、殺気六割でそんだけ動けたら十分だろ。ちょっと休むぞ」
「分かった」
剣を鞘にしまい、壁際に腰を下ろす。
「お疲れー」
「あぁ。メリッサは大丈夫か?」
「うん、離れてれば一応耐えられるから」
殺気に弱いメリッサは、五割でダウンしたため壁際で座って見学をしていた。
「なぁ、坊主。順調に強く成ってるのはいいんだが、体を取り戻す算段ってのはついてんのか?」
「全く」
「大丈夫か?そんなんで。それとも何か?本体を捕獲するつもりなのか?なら、あらかじめ言っとけよ?」
「あぁ」
「そういや、昨日の取り戻した魂、なんかパワーアップするんじゃねぇのか?それ使ったりはしねぇのか?」
「あれは……使うと感情が極端になる。それが自分自身じゃなくなる感じがして怖い」
「そうは言ってもよ、元に戻る手掛かりもない状態はまずいだろ。何か手がかりが見つかるかもしれないしよ、使って見ればいいんじゃねぇか?」
「そう言って、ザンは全力の俺と戦ってみたいだけじゃないのか?」
「まぁ、それもあるっちゃあるが」
確かに、何か手掛かりが見つかるかもしれないか。それに、相手はザンだ、何かあっても止めてくれるだろう。やってみる価値はあるな。
「分かった、使ってみよう」
「本当か。よし、じゃあ体が万全になったら言ってくれ。いつでも相手するぞ」
「なら、もう少しだけ休ませて貰う」
「おう」
▽ ▽ ▽
「よし」
あまりに休みすぎても体が動かなくなってしまう。休憩はこの位でいいだろう。
「お?いいのか?よし、やるか!」
さっきからザンがウズウズしていたしな。
とりあえず、稽古を始める時のいつもの距離の位置に立つ。
「忍耐を100に設定」
これで耐久力の上昇と恐怖への耐性上昇そして、感情の揺れに堪えることができるはず。
「憤怒を100に設定」
筋力を強化。
「傲慢を100に設定」
魔力の思考伝達の上昇……これは使ってみなければ分からないな。
「純潔を100に設定」
これでプラスマイナスを0に。
「節制を100に設定」
エネルギーの消耗を減少。
「強欲を100に設定」
かかっている上昇効果を強化。
「それ。なんか、パワーアップしてますって感じで格好いいな」
「そうか?」
「あぁ!まぁ、それよりもさ、それで終わりか?始めていいか?」
「構わないが」
「よし。じゃあ、遠慮なく!」
容赦ない全力の殺気がザンを中心に爆発的に広がっていく。
体の末端がピリピリと痛みだすが、その程度で動きに支障はない。
「うらぁっ!」
豪快な幹竹割り。というか、刃引きされた剣だとしても直撃すれば死ぬ気がするのだが。
とりあえず剣で受け流す。その上で蹴り飛ばして距離を作る。
「おぉ!?」
ザンが距離を詰めきる前に魔法で釘づけにしておこう。
そう思い魔力を引き出そうとして、傲慢の意味を理解した。
「風よ」
強めの風がザンへ吹きすさぶ。
「なんだ?その程度じゃ俺が止まんねぇのは知って……うぉっ!?」
風がザンに当たった部分から氷に変わっていく。
「なんだってんだ!」
地面にくっついた氷を強引に砕いて迫ってくる。
更にブーメラン二本を引き抜いて地面に魔力を流し込む。
「土魔法か?なら駆け抜ける!」
確かに、スピードの出しにくい土魔法なら素早く動いてかわすのもありだろう。
ただ、それが土魔法ならだが。
ザンの踏んだ土が、パリパリと音を発すると、紫の雷がザンの体へと巻き付くように放たれる。
「は!?っくそ!」
ザンは、大剣を地面に刺してアースの代わりにする。
「さっきから、いったいなんなんだよ!」
ザンがその場で大剣を振ると砂が巻き上がり、煙幕となって視界を妨げる。
自分の体内から引きだした魔力を風に変え、爆発させることで砂を吹き飛ばす。
「おらっ!」
その次にはもう距離を詰めて袈裟に振りかぶっているザンの姿。
「はっ!」
それを両手で振った剣で迎えうつ。
「俺も片手とはいえ俺と競り合うとか、マジかよ!」
ギリギリと鍔迫り合いの形になる。ただ、押し勝てそうにはないので剣の柄から左手を離す。
「お!?」
盾をザンの体に押し当て、盾に貯めた魔力を電撃へ変換する。
「っが!?」
少し空いた隙間を使い、盾で体当たりして距離を作りまた魔法を放つ。
「おめぇ、本当に厄介だな!」
「満面の笑みで言う台詞か!?」
「そりゃ、楽しいからな!」
ブーメラン一本を引き抜き、水の壁を作る。
「ん?」
それが一瞬で氷になると、弾けて散弾のようにザンへ降り注ぐ。
ザンは、大剣の腹に身を隠して氷の弾を凌いだ。
その大剣に向けて紫電を放つ。
「だろうな!」
ザンのその声は、上から聞こえてきた。
大剣を大きく飛び越しての飛び蹴り。
「な!?」
咄嗟に盾で受け止める。鈍い衝撃が一瞬した後、急に手応えが軽くなる。
盾をどけた先にはザンの姿はない。
そして、背後で起こる着地音。
「よし、やっと近づけた」
盾を踏んで跳びあがり、背後に回られたのだと理解する頃にはもう地面に投げられていたのだった。
▽ ▽ ▽
「いやほんと、楽しかった」
本当に愉しそうにザンはそう言い放った。
「それは良かった」
「んで、そっちは何か掴めたか?」
「あぁ」
「本当か!そりゃ良かったな!んで、どんなものが掴めたんだ?」
「傲慢を使えば魂まで引き出せそうだ」
「あー、えっと。よくわからん」
「……すまん、俺も細かく説明できない」
「ならいいか。坊主が理解してりゃいいや」
「そうか。すまない」
「じゃ、後は相手が攻めてくるまで、その作戦の練習だな」
「よろしく頼む」
▽ ▽ ▽
そうして1ヶ月、ザンとの特訓を続けたある日。
「砦が完成しました。それと同時にタリア神国の進軍を確認しました」
そう、偵察からの報告が入ったのだった。




