交代
翌日もまた、メリッサと共にザンを訪ねていた。
「んで、今日はどうした?明日きてくれって話だったよな?」
「あぁ。それは分かっている、今回はザンに稽古をつけて貰いに来た」
「そっちの嬢ちゃんもか?」
「うん」
「二人一緒に指導して欲しいって訳か。そんで?どこを強くしてぇんだ?」
「俺は、恐怖に体がすくまないようにしたい」
「嬢ちゃんは?」
「私は、他人の剣撃に割り込める強さを。レンを確実に守れる強さが欲しいから」
「剣撃に割り込めるねぇ……流石にそれは無理だな」
「そんな!?」
「そんな芸当はあいつ位しかできねぇよ」
「あいつって、母さんの事?」
「あぁ」
「それじゃあ、どうすれば……」
「単純な事だ、剣撃に割り込まなきゃいいんだ」
「それこそ難しいことじゃ……」
「いや?こいつに手伝って貰えばいいだろ」
「俺か?」
「あぁ、お前が剣撃を止めりゃあいい。口で言うのは大変だからな、とりあえずやってみてタイミングを感じてみろ」
そう言うと、ザンは大剣を担ぐと練武場へと降りていった。
「まず、坊主の方からだな。軽く殺気を纏って動くから、その中で体を動かせ、んで慣れろ」
「結局慣れるしかないのか」
「んで、俺の攻撃に合わせて武器か盾をぶつけて、剣撃を止めろ。ソコが嬢ちゃんが割り込むポイントだ」
「はい!」
「じゃあ、いくぞ?」
ザンを基点として、熱が吸われていくかのように、冷たい空気が身体中に纏わりついてくる。
それだけで体が上手く言うことを聞かなくなる。
「その場で固まってたら動けなくなんぞ?とりあえず慣れるまでは走り回っとけ」
「分かった」
固まっていた体を強引に動かし、円を描くようにザンの周りを走り回る。
「よし、ぼちぼち攻撃していくぞ。準備はいいか?」
「あぁ」
「はい!」
「そうか、じゃあ。ほい」
大振りも大振りのゆったりとした剣に裏拳の要領で盾を当てて止める。
ガツンという音とともにザンの剣と俺の盾が静止する。
「ほら、嬢ちゃん。ここだ」
「は、はい!」
メリッサは、俺とザンの間に入り込むと距離を作るために中段の前蹴りを放つ。
それを片手で払いつつ、ザンは距離をとった。
「それが前衛と後衛の交代方法の基本中の基本だ……まぁ、あいつは基本一人だったからな、教えて貰ってなくても仕方ないがな」
「基本中の基本……」
「さて、嬢ちゃんから坊主への交代もやってみろ、びびってたらできないからいいトレーニングになるぞ?」
「そうか」
「ということで、二人で俺にかかってこい。ただし、攻撃出来るのは前に出てる一人だけだ」
「分かった」
「はい!」
メリッサが走り込んで正拳突きを放つ、ザンはそれを大剣の腹で受け止めると、メリッサを弾きつつ振りかぶる。
メリッサが前転でザンの背後に回り込むのと、大剣が地面に叩きつけられるのが同時に行われる。
振り向きつつ振り回された大剣をメリッサが片腕で受け止めたので、入れ替われると思いメリッサの前へ割り込む。
「え?」
メリッサの間の抜けた声とともに背中に激痛が走った。
「わっ!?レン!?大丈夫!?えっと、ヒール!」
「おいおい、大丈夫か?」
どうやらメリッサの攻撃の途中に割り込んでしまったらしく、背中に右正拳突きを食らったのだろう。
「交代する時は合図かなんか決めとけ、でないとこうなりかねないからな」
「理解した……が、もう少し早めに教えて欲しかった……」
「ホントすまねぇ。忘れてた」
「レン、ごめんね」
「いや、いい。割り込んだ俺が悪い」
「交代する時はチェンジっていうからね」
「分かった」
「治ったか?」
「あぁ。迷惑かけたな」
「別にいいさ、よくある事だ」
ザンは、そう言うと構え直し、殺気を一段強めた。
「それより、続けようぜ?」
▽ ▽ ▽
二時間後、そこにはボロボロで床に伏せている俺達と、楽しそうに笑うザンの姿があった。
「いやぁ、満足満足。やっぱり、お前ら二人は飲み込み早ぇな。どんどん強くなって楽しいぜ」
「そ……それはよかった……」
「おう、明日も来い!相手してやるぞ!」
「これ、間抜けが!明日は再度話を聞かせてもらう約束じゃったろうて!ギルドマスター補佐が忘れるでない!」
いつの間にか練武場の壁際に立っていたギルドマスターがザンを怒鳴り飛ばす。
「あっ!ジジイ!?居たのかよ!?」
またどこからか石が飛んできて、ザンの頭を叩いて消えていった。
「レン殿、本体との戦闘の件じゃが、上に掛け合ったところ了承が取れたので、明日詳細を説明させてもらうぞい」
「分かった。なら今日は帰るか、メリッサ」
「うん、そうだね」
▽ ▽ ▽
ボロボロの体を押して宿へと帰る途中。
「ねぇ、レン。本当に本体と戦うつもりなの?」
「あぁ。体を取り返さないとしても、あれは俺が相手しないと駄目だと思う」
「そう……なら私が絶対守るからね!」
「ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
そう言いながら、メリッサは俺の腕に抱きついてきた。




