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怠惰で勤勉な俺は旅に出る  作者: 渡鳥 陸
遺跡へ続く町フラット
9/106

美徳 最大発動

 入院してから三日がたち、俺は退院して教会の屋根裏部屋に住み込みさせてもらうこととなった。


「で、ここがその屋根裏か」


「はい、そうですね」


 屋根裏部屋を見回す。

 まずもって白い。埃が積もりすぎて、床板の境目が見えない。そして、何もない。


「真っ白に見えるんだが」


「はい、そうですね。真っ白です。ですが、こんなこともあろうかと、ここに水の入った桶と雑巾を用意しておきましたので......」


「まて、こんなこともあろうかだと?あんたがこの家の主だろうが、絶対にこうなっていたことはわかっていたはずだろう」


「えぇ、そうですよ。知っていましたとも。ですが、一回は使ってみたいじゃないですかこの台詞」


「やはり、駄目神父か」


「えぇ、駄目神父のようですね」


「自分で言うことじゃないだろう」


「それはそれとして、掃除をお願いします」


「また急な話題の転換を......はぁ、分かった。それで、水はどこで取り替えればいい?」


「水は私がやります。力仕事は駄目といったでしょう。言ってくれれば取り替えますよ」


「そうだったな、分かった」


 ここを掃除しなければ寝るところは無い、長丁場の大掃除に取り掛かろう。


 ▽ ▽ ▽


「それにしても、面白いほど落ちるな」


 一拭きでごっそりと埃がとれる。雑巾の裏は、水を吸って真っ黒になった埃。


「しかし、単純作業は面倒だ」


 雑巾を洗いつつ思う。

 面倒か......勤勉を強化すれば苦痛にならなくなるか?試してみる価値はあるな。


「勤勉を100にセット」


 その瞬間、驚くべき勢いで世界が変わる。

 心に活力が満ちるのが、手をとるようにわかった。今まで、苦だと思っていた仕事がなんでもないことのように思える。


 床を拭く、雑巾を洗う、床を拭く、雑巾を洗うとともに神父に水の交換を頼む。拭き、洗い、拭き、洗い、拭き、洗って交換。


 止まらない。これが掃除か。


 気がつくと屋根裏は掃除し終わり、俺の体は次の掃除場所を求めて駆け出しそうになっていた。


「勤勉を0にセット」


 わずかに残った理性で、設定をし直す。昂ぶっていた心は急に静かになった。

 怠惰も、美徳も、効果は素晴らしいが弊害が大きいようだ。よほどでない限りは、最大設定はやめておこう。


「もう終わったのですか?」


「あぁ、終わった」


「それでは、ベッドを入れますので一旦出ててください。あ、そうだ!町の中でも見てきたらどうです?」


 何故だろう、後半の方の神父のしゃべり方がやけに芝居がかって見えた。しかし、実際これ以上やれる事はない。邪魔にならないためにも言われた通りにしよう。


「そうか、じゃあそうしよう」


 体に付いていた埃を払い、外へとむかう。

 教会の聖堂へ繋がるドアを開ける、朝早くだからだろう。人気はない。いや、一人居た。見たことのあるような金髪。


 気になって近づいてみるとそれはメリッサだった。


 メリッサは、椅子に座って、うつらうつらと船を漕いでいる。


「メリッサ、起きろ。この状態で寝ていると、風邪をひくぞ」


 言いつつ、揺すってみる。


「ん?んんぅ......レン......あれ?なんでそっちに?」


「そっちに、とは?」


「ん~?だって、レンこっちにいたよねぇ」


 緩慢な動作と、間延びした声で返される。まだ夢の中のようだ、しかたない。

 メリッサの頬に手を添える。


「ふぇ?レン?何を?」


 親指の腹と、人差し指の第一関節辺りでつまみ、一気にひっぱる。


「いひゃい!いひゃい!ひゃなひて!」


 指をはなす。


「目は覚めたか?」


「どんな起こし方!?もうちょっと優しくできなかったのかい!?」


「軽くゆすった結果寝ぼけたから、つねった」


「決断が早いよ!普通もう少しゆするとかしない!?」


「いや、面倒だったから」


「面倒でつねらないでよ......もう」


「しかし、こんなところで居眠りなんかして、いったいどうしたんだ?」


「ん?君が今日で退院だからね、泊まるところを探すのを手伝ってあげようと思って」


 それで、ここに来て、そのまま寝てしまったのか。


「すまないメリッサ、ここの神父の計らいでここに住み込みすることになった。よって、宿探しは必要無い」


「え?」


 固まるメリッサ。


「本当?」


「本当だ」


「そうかぁ、良かったね」


 言葉と裏腹にあまり祝福してなさそうな声色。

 何に引っ掛かっているのだろうか。


「ところで、どこかに向かうつもりだったの?」


「あぁ、少し町を見て回ろうかと」


「本当!?ついていってもいい?」


 先ほどとは、うってかわったメリッサの明るい声。


「全く町の立地が分からないからな、ついてきてくれると、とても助かる」


「やった、じゃあ行こう!」


 手をひいてメリッサが駆け出す。

 メリッサにひかれたまま、教会から外へ出たのだった。

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