色欲と純潔
一時間以上遅れるって……そもそも一週休んでるし……本当すみません。
「さて、練。遺跡前の広場まで来たのはいいが、このホムンクルスはいったいどうする気だ?」
そう急にレンカが尋ねてきた。
「質問の意味がわからない。寄越せとでも言いたいのか?」
「いや、そんな意味ではない。この遺跡は出入をギルドカードによって行っていたろう?このホムンクルスがカードを持っているとは思えないんだが」
「そうか……確かにタリア神国が正規の手順で遺跡へ入ったとは考えづらいな。そうなると、不法に遺跡へ潜っていた犯罪者扱いになりかねないのか」
「レンの時みたいに荷物全部なくしましたじゃ駄目なの?」
「ギルドカードはステータス窓にしまえるから、なくしたとは言えない」
「じゃあ、気絶しているので後で来ますというのは……駄目ですよね。私達と、ホムンクルスとの関係性が説明できませんから、多分ギルドが彼を引き取ることになりますね」
思わぬ所で詰まってしまい、皆で輪になって考えていると。
「なんだぁ?そんなところで固まって」
職員用の出入口と思われる所から、ザンがフル装備で出てきた。
「っと。お?あいつの娘とおもしれぇやつに、器用貧乏と堅実な魔法使いか、それと……そいつは知らねえな。顔付き合わせて何やってんだ?」
「いや、遺跡に潜る前に少しすり合わせを」
「んぁ?一回潜ってきました、みたいな姿して何言ってんだ?なんか隠してんのか?」
「長年使っている装備がそう見えても仕方ない事だろう」
「いや、なんか怪しい。俺の勘がそう言ってる。そもそも、そいつ誰だ?見たことねぇやつだな、遺跡探索の許可もらえるやつなら全員知ってる筈なんだがなぁ。なぁ、隠さず教えてくれるか?」
おだやかな笑いを顔に浮かべながら、ザンは恐ろしいほどの殺気を纏い始めた。
身体中が強ばり、肺が押し潰されているかのように苦しくなる。
「あ?おいおい、マジかよ!?マジで、何があった?」
少しして、何故かザンがそう言いながら殺気を放つのを止めた。
「いったい、なんなんだ」
「あー……レンだったか?お前どうした?殺気モロに食らっても大丈夫だったろうに。まるで恐怖心を思い出したみてぇだな」
「そ、それは」
「なんか図星っぽさそうだな。しかし、恐怖心を思い出すとか、どういうことだ?なぁ、本当に教えてくれよ」
「断ったら?」
「そうだなぁ、怪しい動きしてるから、ギルドで拘束ってことで」
「拒否権は無しか」
「でも、上手く運べばこの人も助かりそうだよね」
メリッサがそう言った。
「そうだな。レンカ、いいか?」
「あぁ。打ち明ける以外の方法は少し思い付かない」
「そうか。なら、話そう」
▽ ▽ ▽
ザンに俺達の事とタリア神国の事、そしてホムンクルスの事をひととおり話した。
「なるほど、タリア神国がそんな事をなぁ」
「信じてくれるか?」
「まぁ、今までの事を考えるとそれくらいやっててもおかしくはない。それにフレットが墜ちてるからな、それをやれるだけの何かを手に入れたのは確かだ」
「なら、07がここから出るのを特例で許可してくれるか?」
「あぁ、いいぞ」
「そうか」
「ただし、このことは上、ひいてはドラコ皇国に報告させてもらうことになる。そのうち、国からの呼び出しもあるかも知れねぇ。まぁ、そんときは助けてやるが。とにかく、暫くはこの街に居てもらうことになるな」
「分かった」
「よし、じゃあそいつはこっちの裏口から通すから。お前らはちゃんと手続きしてもらってこい」
ザンは、そう言うと07を担ぎ上げると出てきた入り口へと戻っていった。
▽ ▽ ▽
出入口を通ってカウンターで07を受け取り、宿り木亭へ帰る。
07がまだ目を覚まさないので、俺の部屋のベッドへ寝かせておく。
「で、何故ついてきた?レンカ」
椅子に座って果実水を飲んでいるレンカにそう尋ねる。
「色々気になってな。話を聞きにきた」
「話とは?」
「嫉妬と忍耐の発現の事だ」
「なるほど、それか。悪いな、俺にもよく分からない」
「分からなくていい、知ってる限りを話せ」
「そうだな……簡単に言えば。鉛のように重い体を強引にねじ伏せて前に進もうとしたら、いつものように言葉が溢れてきたというところか」
「なるほど。恐怖に耐えた、から発現した、という感じか」
「多分な」
「発現か……やはり俺達の感情は謎が多いな」
「これでいいか?」
「いや、まだだ」
「まだなのか。そもそも、レンカは何がしたいんだ?」
「俺か?俺は、俺のまま、俺でなくなりたい」
「……言っている意味が分からない」
「だろうな。言い直そう、俺は、いや私は、練華という存在のまま、練という元の存在を無くしてしまいたい」
「つまり、人格を保ったまま、大罪と美徳をどうにかしたいと?」
「あぁ」
「何故だ?」
「惚れたから」
「は?」
「まさか、とは俺も思ったさ。精神が体に引かれてるのかもしれない。男だった俺がシャラに惚れているなんて、暫くは認められなかった。しかし、どうにも無理だった」
「そう……か……そうか……」
「だから、俺は練華として生きるために、大罪と美徳をどうにかしたいって訳だ。さぁ、知ってる事を話して貰おうか」
「そういうことなら俺の方が適任だな」
急に割って入ってきた声の主は、ベッドの上の07で、彼は体を起こしてこちらを向いていた。
「いつから起きていた?」
「あぁ、別に気絶してた訳ではねぇんだ。体と魂の繋がりが馴染むまで動けなかっただけで」
「それで?適任というのはどういうことだ?」
「魂や記憶の譲渡やコピーは俺達の仕事だったからな」
「魂のコピー?」
「あぁ、元々俺達が動けなかったのは、体だけが存在して魂が無かったからだ。正確には、魂の形が定まらなかったからなんだが。
それがこうして動けるようになってるのは、飛風練の魂の一部が俺達の中に入ってきて、魂の形を真似できたから。つまり、魂のコピーを作れたから動けるって訳だ。
んで、俺は今、強欲と救恤についていた記憶をまだ保持している」
「つまり、大罪と美徳の受け渡しによって記憶を失う事はないと?」
「あぁ」
「人格はどうなんだ?お前は練の人格とは違うようだが」
「俺は練の人格が目覚める前に魂を渡したからな。あんたの場合は魂が残り香から再形成されると思うぜ。そしてそれはコピーであり、飛風練そのものではない」
「なるほど」
「魂の委譲の方法は簡単。受け渡す方が心を開いて、受けとる方が体に触れるだけだ」
「そうか。聞いたか、練、早速やるぞ」
「いいのか?」
「構わない」
返事には確固たる意思がこもっていて、決して揺らがないのだろうと思えた。
「そうか、ならやろう」
レンカのおでこに手を当てて集中していく。
「そうだ、練」
「なんだ」
「頑張れよ」
レンカがそう言った瞬間、腕を通じて何かが流れ込んでくるのが分かった。
「色欲と純潔、嫉妬と忍耐を確認、統合します」




