恐怖
黒棺のあった部屋の中央に寝かせられる。
「少し待て」
レンカが装備袋から葉っぱを一枚取り出すと、それをぐしゃぐしゃに揉んで汁を出してから傷口に貼り付けた。
「っ!?」
激痛が走る。この世界で消毒と治療によく用いられている薬草なのだろうが、しみるものはしみる。
「……痛覚が戻っている?ということは……」
少し何かを考え込むような素振りを見せた後、レンカは素早い動きで俺の首もとにナイフを当てた。
熱の無い、冷えきったナイフに吸われるように全身の熱が消え去っていき、冷や汗が背筋を伝う。呼吸が速くなる、指先が震え始める。
「っと」
急にレンカがスウェーバックするとともに大きく飛び退いた。それと同時にレンカの頭が元あった場所をメリッサの蹴りが通りすぎる。
「いったい、何をしてるの」
俺を庇うように立つメリッサは、聞いたことの無い怒気を孕んだ声で問いかけた。
「そいつの不調の原因を少し探ってみただけだが」
「どういうこと」
「痛覚と恐怖心、その二つが戻っている。ここで回収した大罪と美徳の影響だろうな」
「強欲と救恤が?」
「その二つか、ならそうだな……直ったのは『自分に対する感情』といったところか?そのうちの『自愛』が身体の防御反射の機構や、痛覚といった危険察知の機構を司っていて、それが無かった俺達は死に直面するような場面でも普通にしていられたわけだ。そのアドバンテージが無くなってしまえば、死の恐怖にすくんでしまうようなただの人になってしまうわけだ。まぁ、ただの人というよりはただのホムンクルスなんだが。気になるなら自分でも確かめてみるといい、痛覚が戻っているのがよく分かる筈だ」
「レン、ちょっとごめんね」
メリッサは片膝をつくと、俺の傷に手を添える。
「っく」
痛みで思わず声が出てしまう。
「本当だ……彼の者に癒しを。『ヒール』」
傷口の自然治癒が活性化して、ぞわぞわとした感覚と共に傷が塞がっていく。
「その状態ではそいつは戦えない。足手まといを連れて戦ってる余裕はない。そいつとホムンクルスを置いてあのライオンを倒しに行くぞ」
「レン達を見捨てるっていうの?」
「ん?別にフレイブレスライオンを倒してから回収しに来ればいいだろ?」
「あ……うん」
「質問はそれだけでいいか?なら、準備が出来たら教えてくれ」
メリッサは、俺の傷が癒えたことを確かめると俺の頭を軽く撫でてから立ち上がった。
「レン……行ってくるね」
「あぁ」
メリッサは装備を軽く確かめると、レンカ達の方へ歩いていった。
「花火もだ、メリッサをよろしくな」
「くぅ……ワウ(ご主人……分かった、頑張る)」
軽く撫でると、花火もメリッサと共に歩き出す。
そして、三人と一匹は部屋の外に出ていった。
二人残った部屋には、07と自分の呼吸だけが聞こえてくる。
側に置かれていたさそちゃんソードを手に取る。
いままで何の気なしに持てていた剣の重さが異様に重く感じてしまう。暫く持ち続けていると、かたかたと手が震え始める。
「武器すら持てないか……」
体が恐怖を覚えているのか、武器を拒むかのように震え続ける。
「まるで、一番最初の遺跡の時のようだな……あの時のように、俺は何もできなくてメリッサに助けて貰っているだけ……」
静かな部屋の中、俺は一人床に置いた剣を眺めていた。




