フレイブレスライオン
「どうする、ここから氷付けにでもしてみるか?」
眠ったままのフレイブレスライオンを見ながらレンカはそう言った。
「なるほど、確かにそれは良さそうだな」
「ただ、私だけの魔力だけじゃ丸々凍りつかせるには足りない。お前も手伝え」
「手伝うとは?」
「さっきお前がやった魔法と同じだ。お前が水を出して、私がそれを凍らせる、そうすればあれだけの巨体でも丸々凍りつかせられるだろう」
「なるほど」
「分かったらやるぞ、シャラ、それとメリッサとやら、構えろ」
「いや待て」
「いったいどうした?」
「これが失敗したら前衛で戦いたい。その為に武器を取り出したいんだが」
「そうか。好きにするといい」
「ありがとう」
No-07を近くの通路に下ろし、さそちゃんシールドとさそちゃんソードを取り出し、さそちゃんソードを腰にさげる。
「準備はいいか?」
「あぁ」
腰の六角柱をホルダーから引き抜きながら答える。
「じゃあ、カウントダウンを頼む。お前のペースでいい」
「そうか……5秒だ。5、4、3、2、1、水よ彼の者を飲み込め『大水牢』」
大きな水の壁が円形に現れると同時に、フレイブレスライオンが目を覚ました。だが、フレイブレスライオンが回避を取り始める前に一気に水壁の半径を縮めてフレイブレスライオンを飲み込んでしまう。
「水よ凍りつけ『氷結』最大出力」
ぱきぱきと、水の塊はその表面から凍りついていき、やがてそれは巨大な氷の塊となる。
「凄い……」
「たいしたもんですね」
六角柱をホルダーに戻し、剣を引き抜く。
「大丈夫……か?」
氷は沈黙している。
「問題無さそうだな、行くぞシャラ」
「あ、うん」
レンカとシャラは、警戒しつつ横を通ろうと近づいていく。俺も、No-07を担ぐ為に氷に背を向けた。
と、その時。
ぱきり、という微かな音が聞こえた。
「構えろ!」
振り向くと、ばらばらと氷が砕けていく所だった。
砕けた氷から現れたフレイブレスライオンの背からはもうもうと湯気があがり、まとわりついていた氷は溶けて水になっていく。
「ぐるぅあああああああああ!!」
怒りと殺意のこもった咆哮が一面に響き渡る。
フレイブレスライオンは、正面にいた俺を睨み付けると右前足を振り上げる。
この程度は十分避けられる。
そう思って懐に飛び込もうとして違和感に気づいた。
全身が強ばり、いつもより身動きが取れない。
いつもなら避けられる筈だった爪が、右脇腹を掠める。
その瞬間、激痛が脇腹から脳へと走った。
「んぐっ!?」
だらだらと、血が流れ出ているのがよく分かる。激痛は、ここが傷ついていると嫌な程に正直に伝えてくる。
気づくと、既にフレイブレスライオンが左前足を振りかぶっていた。
避けられる?
しかし、足が地面にへばりついたように動かない。
盾で受けられる?
だが、盾を持つ腕ががたがたと震えている。
身体中が強ばっていた。そう、まるで恐怖を感じているかのように。
「レン!」
メリッサの声に反応した体が、盾を少し持ち上げる。と、同時にガツンという重い衝撃。そのまま盾ごと吹き飛ばされた俺は近くの壁に激突した。
「ぐっ!?」
爪を受け止めた左手、壁に強く殴打した背中、そして脇腹。そのいずれもがガンガンと思考を白く染めるように痛みを響かせる。
朧気な意識の中、かろうじて踏ん張る。座り込んだら二度と立てない気がしたから。
じろりと覗き込むようなフレイブレスライオンが、死という漠然としたものの具現としてそこに存在するような、そんな感覚を覚えた。
「レンから離れろ!」
「ワウ!(ご主人から離れろ!)」
「レンさん、大丈夫ですか」
「おい、いったいどうした」
メリッサは、右ストレートのフルスイングをフレイブレスライオンに放ち、シャラは俺の前で盾を構える。レンカと花火は水魔法と雷魔法でメリッサを援護していた。
フレイブレスライオンは軽々と跳んでメリッサの拳と雷魔法を避けると、軽く炎を吐き出して水魔法を迎撃した。
「まずいな、一旦下がろう。シャラ、そいつを担げ。メリッサ、ホムンクルスを頼む。犬は、俺とフレイブレスライオンの牽制だ」
シャラに担がれる。視界の中ではメリッサがNo-07を担ぎ、レンカ、花火が協力して『双燕』のような魔法を撃っていた。
そして、気がつくと俺は黒棺があった部屋に担ぎ込まれていた。




