強欲と救恤
〈side:メリッサ〉
「強欲と救恤を確認、統合します」
いつもの一声と共に、レンの口から機械のような淡々とした調子の言葉が流れ出す。
「……統合中
……統合中
……統合完了
強欲と救恤、及びそれに付随する機能の復旧を確認しました
復旧した強欲と救恤の効果についての説明を開始します
強欲の大罪、出力を上げている間、自らにかかっている効果が増幅します
救恤の美徳、出力を上げている間、他者へ行った回復効果が自分にも還元されます。効果は最大で回復量の五割までです
以上で説明を終了します
続いて記憶の統合を行います
……統合中
……統合中
……統合完了、記憶を展開します」
そう言い終わると共にばたりと倒れるレンを、優しく受け止める。
「今回の魂は強欲と救恤かぁ。いったい、なにが治ったんだろうなぁ。とりあえずはいつものように寝かせて、膝枕を……」
そう思った時だった。
ガチャリと、部屋の扉が開く。その先には二人の人影。
「やはりな、俺達だったか。記憶を見ている途中といったところか」
聞きなれない少女の声が、聞きなれた喋り方でそう呟いた。
「もう一人のレン……」
「そうだ。レンカと今は名乗ってるがな」
レンカは、町で会った時とは違い、革鎧に杖という標準的な魔法使いの装備に身を包んでいた。以前、シャラと呼ばれていた彼は、レンと同じように胸当てと関節部を守る防具をつけていて、剣を腰にさしている。
レンカは、扉の近くでこちらを眺めたまま動かない。
暫くの間、沈黙が場を包んでいた。
「あー、なんだ、その。あんた、名前は?」
レンカがゆっくりと話し出す。
「メリッサ」
「そうか、メリッサ。ひとまず、こちらに戦いの意思はないと言っておこう」
「本当に?」
「もちろん。君の装備からするに、君は近接戦闘を得意とする格闘家だろう?なら、俺がここで炎魔法を部屋中に撒けば一方的に始末できるだろう。まぁ、もう一人の俺も死ぬからやらないがな」
「じゃあ、何しにここへ?」
「もう一人の俺に言われたことが本当か確かめに来た。その黒の棺の中にはホムンクルスが入ってるんだろう?実際に確かめられれば、もう一人の俺の話の信憑性が増す」
「そう」
「だから、それだけ確認できればいい。そうだな……メリッサ、あんたがホムンクルスを取り出すんでもいいぞ?どうにも、その状態の俺に近づいて欲しくないようだしな」
そう言われてからやっと、レンを抱き締めている腕に力が入っていることに気がついた。
「分かった」
レンを黒棺に寄りかからせる。
「この手に光を。輝け、私の魔力。『ライトボール』」
左手に光の玉を生み出し、それを黒棺に押し付ける。
すると、黒棺が一度目映く発光した後、正面がどろどろと動き出し、ずるりと男が一人流れ出してくる。
「なるほど、俺が言っていたもう一体の成人の男か。確かに黒髪だが大柄で俺に似てはいないな」
レンカの言うように、流れ出てきた男はレンよりも一回り大きな体格をしており、レンに雰囲気が似ているような気もしなくないが、似ているとは言い難い。
とりあえず、荷物からホムンクルス用に準備していたマントを取り出し、ホムンクルスにかける。
「それで、あなた達はこの後どうするつもりなの?」
「そうだな……タリア神国ってのを探ってみる、とかだな。俺の話が本当なら、元に戻る手段も、帰る方法もそこにあるだろうからな。行こう、シャラ」
「そうだね」
「あっ」
彼女達が行ってしまったら、また会うのは困難になってしまう。レンが元に戻る為には彼女が必要なのに、私は引き止め方が分からず手を中途半端に伸ばす。
「待て」
いつの間にか目を覚ましていたレンが、レンカ達を呼び止める。
「どうした?俺」
「こちらとしては、お前とはぐれるのは避けたい」
「魂を回収したいからか?」
「そうだ」
「はっ、正直に言ってくれる」
「それに、帰り道にフロアマスタークラスのモンスターが居座っているはずだ。同行することは、そっちにとっても悪いことではないと思うが」
「どういう事だ?何を知っている?」
「魂を回収した後、強いモンスターに襲われた経験は?」
「……二回だ」
「それは、タリア神国が仕掛けたものだ」
「なるほど。それが本当だとしたら、ここでも襲われるというわけか」
「標的はホムンクルスなんだろう、俺達は必ず狙われる。それなら分散するよりもいいと思うんだが」
「……シャラ、どう思う?」
「実際、滅多に会わないようなモンスターに二度も襲われたしね、信憑性は高いよ。そう考えると、戦力は増えるに越したことはないかな」
「そうか。じゃあそうしよう。ただし、この遺跡を出るまでだ。出た後の事は、出た後で話し合うぞ」
「分かった」
レンは、すっと立ち上がるとホムンクルスを担ぎ上げる。
「メリッサ、行こうか」
「……うん」
やっぱり、レンは凄いなぁ。私に出来ないことを、なんでもやってのけてしまう。私は、レンの役にたっているんだろうか。
そう思いながら、レンに続いて部屋を出た。




