レンの戦い方
高速で迫る大剣を盾で受け流す。しかし、その衝撃はすさまじいもので、思わず二三歩後ずさってしまう。
「もう一発!」
竜巻のように、振り切った体のねじりをそのまま利用して、また剛剣が迫る。下がっての回避や魔法での回避は間に合わないと思ったので、前に飛び込んで回避する。
「嘘だろ!?」
よけるついでに、盾を使った裏拳でザンの膝裏を打ち、体勢を崩そうとする。
「うおっと」
しかし、力が入らなかったためか、ザンはよろけるだけですぐに体勢を立て直してしまう。
「あんな避け方されたのなんて久しぶりだ。自分で言うのもなんだが、俺クラスの剣戟に飛び込むなんて情人の精神じゃ耐えらんねぇぞ?お前、本当なんなんだ?」
「多少おかしいのは自覚している。その上でそれを有効活用しているだけだ」
「まぁいいか。それじゃあ、続けるぞ」
そう言ってザンが突きの体勢をとる。
これは、単純な突きだけでなく、途中から斬撃に派生することも可能で、額面通りに突きをよける準備だけをしていればいいわけじゃない。特に、剣の道を極めようとしているザンの剣は、ほぼ直前までどの攻撃か判別することは不可能だろうし、他の攻撃に切り替わってから攻撃するまでも一瞬だろう。
なので、俺は盾を構えた。
「舐められたもんだな!防御に徹すれば受け流せるとでも思ってんのか!」
ものすごいスピードの突き。それに合わせてバックステップで後ろに下がり、一瞬で距離を詰められないようにする。
「狙ってるのは防御じゃない」
盾の裏であらかじめ生成しておいた水の塊を、ザンの大剣にまとわりつかせる。
「凍れ『氷塊』」
水の塊を、床と大剣をつなぐようにして凍らせ、ザンの大剣の動きを封じる。
「っつ!?マジか!魔法まで使えんのかよ!面白れぇ!」
バックステップから前へと体勢を傾け、動きの止まったザンへ切りかかる。
「うぅぅぅぅぅらあ!」
ザンの雄たけびとともに、ばきん、と氷の砕ける音がした。その瞬間、大きな塊で横から殴られて吹き飛ばされる。
しばらく地面を転がり続け、二メートル近く離れたところで静止した。
「すまねぇな、これ以上やられるのは面子に関わるからな、つい全力を出しちまった。大丈夫か?」
氷がついたままの大剣を肩に担ぎながらザンはそう言った。
「たぶん」
「いやぁ、本当にすまねぇ。とりあえずここまでにしとくから、医者とかにでもいくんだぞ」
頬を掻きつつザンはそう言った。
「結果はどうなんだ?」
「合格に決まってんだろ。少し、身を危険にさらしすぎるのは気になるが、それ以外は十分だ。俺が申請しとくから、明日には潜れるようになるぞ」
「そうか」
「おいおい、冷めてんなぁ。もうちょっと喜んだっていいんだぜ?それとも、確実に受かると思っていたとかか?」
「いや、そんなことはないが」
「そうか、まぁいいや。じゃあ、俺は行くぞ」
しばらく歩いてから、何か言い残したのかザンはこっちを向いた。
「そうだ、あんた達とやるのは楽しかったからな。時折相手してくれると助かるぜ」
「遠慮しておく」
「はは!じゃあな」
今度こそ、ザンは練武場を後にした。
「レン、大丈夫?」
「とりあえず、自分で調べた分には大丈夫だ」
「よかった……」
「とりあえず、これで探索ができるな」
「そうだね。でも、今日は休もう?準備も明日から始めようよ」
「そうだな」
メリッサを心配させないために、万全を期して今日は休むのだった。
《side:ザン》
遺跡探索の特別許可に必要な書類を受け取るために、登録カウンターに向かう。
「あ、ザンさん。あの二人の試験は終わりましたか」
「あぁ。どちらとも合格だ、紙二枚くれ」
「どちらともですか、珍しい。そんなに強かったんですか?」
「そりゃな。まずあの女のほうだが、あれだ『微笑む最強』の娘だった」
「は?あの、手当たり次第に冒険者達と一対多で戦ってはその全てを返り討ちにし、そのうえずっと微笑みを崩さなかったあの『微笑む最強』ですか?あれに娘って、相手はどんな戦闘狂なんですかね?」
「知らねぇよ」
「ですが、それなら合格も納得ですね。それで、もう片方は息子というわけで?」
「いや、違うらしい」
「じゃあ弟子か何かですかね。で?彼は何がすごかったんですか?」
「は?なんでそう思うんだ?」
「は?じゃないですよ。そんな、面白いもの見つけた、って書いてある顔されたら誰だってわかります」
「マジかよ、そんな顔してんのか……俺」
「で?どうだったんです?」
「あいつはな、細かい所の技術はそこだったな。多分経験が足りてないんだろうな」
「はい?それでよく合格できましたね」
「あいつがやべぇのはそこじゃねぇからな」
「それ以外と言うと、高度な戦略性ですか?ザンさんは、じわじわ追い詰められるのは苦手ですからねぇ」
「それも違う。あと、俺は苦手なだけで負けたことはねぇからな?」
「はいはい、『微笑む最強』以外には負けない、ですよね。それで、なにが凄いんです?」
「あいつ、恐怖心を感じてねぇ」
「恐怖心ですか、なるほど」
「俺の剣戟に一切の躊躇いも見せず飛び込んできたやつは初めてだよ」
「命知らずなだけでは?」
「いや、避けれると思ったから避けた、そういう顔をしていた」
「貴方の剣を……ですか」
「あぁ。普通の奴だったらまず威圧感で動けなくなる。達人クラスであっても、体が危険信号を出して、まず飛び込むなんて選択肢は浮かばねぇ筈だ。それこそ『微笑む最強』クラスでなければな」
「それをやってのけた……と」
「それだけじゃねぇ。俺の攻撃があいつに当たっちまったんだが」
「いやいや、寸止めってルールでしたよね。なにやってるんですか」
「ついな、つい。んで、その時なんだがあいつ、俺の攻撃に飛び込んできたんだよ」
「つまり?」
「避けられないと見るや、俺の剣にスピードが乗る前にぶつかってダメージを抑えたって訳だ。その上で、大剣に弾き飛ばされるように自分で跳びやがった」
「なるほど、それは確かに……ザンさんがヤバいって言うだけありますね」
「だろ?本当、どこまで強くなるか楽しみだよ」
「結局の所はそれなんですね」
「はは、もちろんだ。あのまま経験を積めば、あいつはヤバいほどに強くなると思うぞ、それこそ『微笑む最強』位まで。そしたらもう一回、今度は全力も全力でやるんだ。本当に楽しみだよ」
「はいはい、楽しみにするのはいいですけど、用紙を書く手は止めないでくださいね」
「おう」




