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怠惰で勤勉な俺は旅に出る  作者: 渡鳥 陸
ドラコ皇国
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覚悟

 殺気が広がっていく。


 ザンから、熱で炙られるような重圧があふれ出ている。それに比例するように体の芯の部分が冷えていくのが分かった。


 それにしても、これはまずい。メリッサは特段殺気に強いわけではない。


 実際、殺気をもろに受けているメリッサの体はがたがたと震えていた。


「お?流石にあいつの娘でもこれはキツイか。まぁ、そりゃそうだよな。これを喰らって平然としてる上にそれ以上の殺気で返してくる化け物なんてそうそういねぇよな」


 ザンは、気が抜けたように言うと殺気を緩めようとした。その時


「その、ままで!お、願いします!」


 メリッサが、自らに活を入れるように大声で叫んだ。


「おいおい、がたがたと震えて言うことじゃねぇぞ?それじゃ、ろくに動けねぇだろうに。状況判断できないってんでマイナスが欲しいか?」


「レンに、危険な思いを、させないために、強くならなきゃ、いけないんです。その、ためには、こんなことで、ひるんでいちゃいけないんです!」


 言い切ったメリッサから、殺気とは違う重圧が広がっていった。


「これは……覇気、いや魔素がこいつの覚悟に反応してんのか。なるほど、いいぜ、全力でやってやろう」


 いつの間にか、メリッサの体の震えは止まっていた。


「お願いします!」


 メリッサが承諾すると同時に、ザンの姿が掻き消えた。それとともに、メリッサが身をかがめる。


 びゅおう、と風の音がした時にはザンはメリッサの後方で大剣を振りぬき終えていて。地面に大剣を突き刺すと、剣を軸にくるりと急ターンしもう一度メリッサに切りかかる。


「お前らの武術はまともに組み合うと武器を取られるからな、ヒット&アウェーで行かせてもらうぞ!」


 一撃、二撃、と目視すら難しい斬撃をメリッサは躱し、いなしていく。


「止まってて大丈夫か?どんどんスピード上げてくぞ?」


 剣を軸にした急転換は、スピードほぼ殺すことなく次の斬撃へと移れる。

 対してメリッサは、斬撃を避けるためにザンのいる方向へ向き直らなくてはならず、向き合う頃には次の斬撃が飛んでくるので、その場に釘付けにされている状態だった。


 徐々に、メリッサの対応が遅れ始める。やがて受け流しきれないと思ったのか、メリッサは腕を十字に組んで防御の姿勢を取る。


 がつっ、と鈍い音がした。


 ふわりとメリッサの体が浮かぶ。


「吹っ飛べ!んで、もう一発!」


 ザンは、大剣を振り切ると、振りかぶって追撃する。


「追い……ついた!」


 メリッサ(、、、、)の声。


 吹き飛ばされたメリッサと、追うザン。先程と違い、そのスピードの差はほぼない。それはつまり、当人同士にとっては静止している状態と等しく、ザンが避けた近接戦闘の間合いに居ることと同義だった。


 メリッサのムーンサルトが、ザンの手元を蹴り抜く。


「おいおい!まじかよ!」


 弾き飛ばされた大剣は、くるくると回って練武場の地面へと突き刺さる。


「これで!」


 ガリガリとスピードを殺して殴る体勢を作る。


「させるか!」


 メリッサが拳を振った瞬間、メリッサは地面に組伏せられていた。


「わざと攻撃を受けて吹っ飛ばされることによって、得意の間合いに持ってくるか。なかなか面白い事をやるもんだ。しかしすまねぇな、あんたの母さんとの戦いの為に素手の方も鍛えててな、ある程度はこっちでも戦えんだ」


「探索の許可は……?」


「あ?合格に決まってんだろ、あそこまで戦えたら十分だ。後は最後に油断しないこったな」


「そうですか……ありがとうございました」


「おう」


 拘束を解かれたメリッサがふらふらと歩いてくる。


「こ、怖かったぁ」


「お疲れ様」


「なんだか、いつも以上に体が思うように動いた気がする」


「そうか」


「次、頑張ってね」


「あぁ、行ってくる」


 刃引きされた直剣と、さそちゃんシールドを持ってザンの前に立つ。


「よし、次はお前だな?そういや、お前もあいつの息子かなんかなのか?」


「いや、違う」


「そうか、まぁ、それならそれでいいんだ。じゃ、とっとと始めるか?」


「頼む」


「よし、じゃあいくぞ」


 そう言ってザンは、軽く殺気を纏う。


「お?これは効かねえのか、なら少しずつ上げさせて貰うぞ」


 じりじりと、ザンが纏う殺気の濃度が上がっていく。


「おいおい、結構強めてんだがなぁ。それじゃ、一段飛ばしで最強までいってみるか」


 がつん、とザンが纏う殺気が濃くなった。


「は!まじかよ!これ喰らって平然としてるか。今日は面白ぇ奴ばっかだな!」


 心底楽しそうな笑顔を浮かべながら、ザンは言う。


「なぁ、全力でいってもいいか?この状態で動くのなんて久しぶりなんだよ、なぁ」


「少し手加減してくれると助かる」


「なんだよ、つれねぇな。まぁ、冒険をしないっていうのも大事な資質だが……よし、じゃあ手加減目の全力でいかせてもらうか!」


「よく分からないが、とりあえず始めないか」


「おう」


 俺が構えると、ザンは勢い良く斬りかかってきた。

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