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怠惰で勤勉な俺は旅に出る  作者: 渡鳥 陸
ドラコ皇国
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閑話3 があった

 村の広場に、縄でぐるぐる巻きにされた部隊員たちが並べられていた。その周りを自警団たちが囲み、村人たちも、何が起こっているのかを遠巻きに眺めていた。


「それで、ベルちゃんのいう通り並べたけど、どうするつもりかしら?」


「少し考えがあるんです、任せてください」


 ベルが、部隊員に近づいていき、こう話しかけた。


「タリア教幹部、アリア・ベルの名の下に尋ねます。あなたたちは神密部隊で間違いありませんね?」


「アリア・ベルだと……?確か、ファスタ遺跡の黒棺の管理をしていた幹部か。お前こそ何故ここにいる」


 隊長がそう答えた。


「あなたが部隊長ですね。私がここにいるのは上からの命令で移動途中だったからです、あなた方は何故このような狼藉を起こそうとしたのですか?」


「タリア様のご意思を遂行するためだ。これ以上はあんたの命令でも言えんぞ」


「なるほど」


「同じ神を信奉するものだろう?わかったら頼む」


 この縄を解け、と、部隊長は暗にベルに頼んだ。


「多分、あなた方の目的はこうですよね。コルド王国を侵略する足掛かりを作るために、この村の住民を皆殺しにして、ここを補給基地か食糧庫にしようとしていた」


「おい、あんた。何を言っている、あんたもタリア教だろ?頼むよ、この意味分かってるんだろ?」


「えぇ、今でもタリア教の教義は信ずるに値するものだと思いますよ。しかし、その意味を曲解や誇大解釈して暴走しているとしか思えないタリア神国の命令には信じられるものがないので。私はあなた方をコルド王国に引き渡すつもりでいます」


「こ、この売女がぁ!タリア様のご意思をないがしろにするつもりか!」


「黙りなさい」


 静かな一言だった。しかし、同時に背筋が凍るような、ものすごい殺気を纏った重圧がベルから発せられていたため、静まり返った周囲に声が響いていった。


「私は、タリア教が信じられなくなったあの日から、各地のタリア教徒のもとを訪ねました。そのタリア教徒達は、無宗教者や異なる宗教を信奉する人達と一緒に、笑いながら暮らしていました」


「なんだと!?そいつらも異教徒だ!アリア・ベル、あんたもその異教徒たちの誤った考えに陥りかけているんだ!」


 そう喚く隊長の座っている地面から、音もなく氷が現れると、口に纏わりながら凍り付いた。


「黙れ、と言いました」


 凍り付いた口を何とかしようと、隊長は身をよじるが、拘束されているために何もできなかった。


「そこでわたしは、タリア教ではなくタリア神国こそが問題であるのではないかと思い至りました。地方のタリア教徒は教義を遵守とまではいかないけれども、確かに守りながら幸せに暮らしている。それに比べてタリア神国の教徒は、教義を破ることはないかも知れませんが、タリア神国以外を浄化しなければならないものだと決めつけ、こうやって罪のない人々を傷つけていく。なんのための教義か、誰のための教義か、私の見解はこうです。皆が幸せに暮らせるための決まり事が教義だと、こうした方が上手くいくという例示が教義だと。その幸せを体現できているのはどちらか、それは地方のタリア教徒だと。だから、私はあなた方と決別します、私はタリア教幹部のアリア・ベルではなく、タリア教徒のアリア・ベルです!」


 そう言い切ったアリア・ベルは強く、凛とした空気を纏っていた。


「だから、あなた方をコルド王国に引き渡します」


 ベルのその発言に、神密部隊の面々が一斉に喚き始める。


「メリーさん、マーモさん、計画の骨子は聞き出しましたので後はお願いします」


「うふふ、そう?なら始めちゃうわね?」

「おう、まかせな!……って、あれ?」


 メリーさんの一言にマーモさんは少し顔を青ざめさせると。


「みんなぁああ!!備えろぉお!!」


 と必死という言葉がぴったりな程に大きな声でそう叫んだ。

 その瞬間、メリーさんから死を首もとに添えられるような、強烈な殺気が濁流のように溢れでてきた。


「え?」


 神密部隊は、その濃厚な死の香りに当てられ即座に気絶。隣にいたマーモさんも立っていられないのか膝をついていた。

 仕事は終えたと、気を抜いていたベルは、もろに食らってしまい気絶。地面に倒れ込む寸前、リュートがなんとか抱き止めることに成功したのであった。


「お疲れ、ベル。かっこよかったよ」


 気を失っているベルに、リュートはそう声をかけた。


  ▽ ▽ ▽


「短い間、お世話になりました」


 神密部隊をコルド王国の兵士に引き渡した翌日、ベルとリュートは、深く頭を下げてそう言った。


「あらら?どうしたの?そんな格好して」


 そうメリーさんが指摘した通り、ベルとリュートの格好は荷物を纏め上げ、いつでも旅ができるような格好だった。


「いくら私とあまり関係の無い部隊だったとしても、彼等はタリア神国の部隊。同じタリア神国の出の私がいることは村の人々にとって懸念の種でしょう。ですので、迷惑がかからないうちに出ていくことにしたのです」


「あら、そう?そんなことは誰一人気にしていなかったけどねぇ?」


「いや、しかし」


「それに、タリア神国がまた攻めてくるかもしれないでしょ?その時の為に手練れは村に居て欲しいのだけど」


「それはメリーさんだけで十分では?」


「十人以上を相手にしたときに、相手に逃げに回られると今回みたいに討ち漏らしちゃうから、ベルちゃんみたいな手練れは必要よ?」


「想定する相手の数が多い!人間が一人で相手できる数なんて普通二、三人ですよ……しかし、そうですね、分かりました。ここを出ていくのは止めにしておきます」


「うふふ、ありがとう。これで、本当に私の武術を教えられるわね。前回はあの人達の相手で止めちゃったから」


「あ」


 忘れていた、というようにベルは間の抜けた顔をした。


「えっと、これ、もしかして村に居るほうが大変だった?」


「うふふ」


「頑張ってね、お姉ちゃん」


「え、うん。リュート君がそう言うなら頑張るけど」


「じゃあ、早速始めましょうか」


 メリーさんは、ベルの手を取り、引っ張っていく。


「あの、ちょっと。こ、心の準備がぁ!!」


 アリア・ベルの悲鳴が、コキョ村に響いていった。

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