閑話1 そのころコキョ村では
練が練華に拘束されていたころ。メリッサの故郷、コキョ村近くの森で白づくめの何者か達が十数人ほど、密かに話し合っていた。
「偵察班、様子はどうだった?」
「事前の情報の人数より二人多いです、どうやら旅人かと。それ以外は情報通りでした」
「ご苦労」
「いいえ、タリア様の命を遂行するためなら苦労ではありませんよ」
「そうだな。では神託を再度確認する。今回、我ら神密部隊が行うのはタリア様を認めぬ異教徒の国を浄化する足掛かりとして、資材や食料を備蓄しておく補給基地を作ることである。しかし、それを一から作るのには膨大な手間と時間、および人員が必要となる。そんなことをしているうちに、コルド王国に動きを察知され完成を待たずして潰されてしまうだろう。そこで目を付けたのが、砂漠を超えた先にあり、旅人や商人の立ち寄ることが少ないこのコキョ村と呼ばれる村だ。ここの住民を密かに浄化していき、我々で乗っ取る。そうすることによって、王国に気づかれることなく、補給基地を手に入れることができるのだ。偵察、村の防御体制についての説明を」
「はい、事前情報の通り国からの派兵はなく、自警団が魔物の侵入を防いでるのみでした。あの程度の人数では山賊に襲撃されればひとたまりもなさそうです。今現在まで残っているのが奇跡と言えそうなほどですよ」
「というように簡単な仕事だ、しかし気を抜かないようにしてほしい。以上だ。行動開始」
「「了解」」
と、静かに声を上げた彼らの近くの茂みが、がさがさと揺れた。
「いったいなんだ?確認できた者、報告を」
「女です、女が一人こちらに歩いてきています」
「あまりに平和で平和ボケしているのか、まぁいい。計画の一人目として素晴らしいじゃないか、お前ら、やれ」
隊長の指示に、部隊が迅速に反応し女を取り囲んだ。その間、一切の物音は立っていない。そして、部隊は女に襲撃をかけた。
▽ ▽ ▽
「「泊めていただきありがとうございます」」
アリア・ベルとリュートは、深くお辞儀をしながらそう言った。
ここはメリッサの実家、つまりメリーとレッサの家である。その食卓には四人分の料理が並べられていた。何故アリア·ベルとリュートの二人が居るかというと、先程の台詞通りである。
「あらあら、いいのよ。この村って、人の出入りが少ないから宿屋がなくてね?でも時々ここに修行に来る人はいるから、どうせなら道場兼寝泊りできる小屋を作ったんだけど、そうするといつもは使わないからお手入れが大変で、こうやって泊まってくれて、それで掃除をしてくれたらそれだけでたすかるのよ」
メリーは何の気なしにそう返す。隣で見ていたレッサも黙って首を縦に振っていた。どうやら、肯定しているようだ。
「でも、食事の代金も払わなくていいというのは、さすがに心苦しいのですが……」
「あらそう?なら、一人銅貨一枚でどうかしら」
「それはもう、払っていないのと同義なようが気がするんですが……」
「そもそも、この村は自給自足で賄えてるのよねぇ、貨幣の価値がそんなにないのよ。それでも、何かしたいというのなら……そうねぇ、メリーちゃん。武術、習わない?」
「なんでそうなるんですか」
「最近面白い相手が少なくなっちゃたのよねぇ。村の子供たちが強くなるまではもう少しかかるし、昔のように旅するわけにもいかないしねぇ」
「それで、私に力をつけさせて相手をさせようと?」
「そうよ。あなた、魔法も格闘もそこそここなせるでしょう?そんな人が私の武術を覚えたらどうなるのかしらって」
「え?」
横で話を聞いていたリュートが固まる。
「いや、なんでさも当然のように私の実力を知ってるんですか、か弱い姉弟のあてもない旅っていう感じでこの村に来たんですが……」
「うふふ、あれは素晴らしいお芝居だったと思うのよ?でも、だいたいは見ただけでわかっちゃうのよねぇ」
「あれをお芝居って……」
「それと、リュート君だったかしら?君も武術習ってみない?」
「それは駄目です!」
即答したのはリュートではなくベルだった。
「なんでお姉ちゃんが答えるのさ」
「だって、可愛いリュート君は蝶よ花よと育てていくって決めたんだから!」
「そんな、女の子じゃないんだから」
「そうよねぇ、何時かは大きくなってお姉ちゃんを護りたいものよねぇ」
「え、えーと」
「そうなの、リュート君?そうだとするとそれも捨てがたいわね」
「あの、お姉ちゃん?」
「絶体絶命のピンチに颯爽と駆けつけ私を庇うようにして立つ大人なリュート君」
「武術を学んで鍛えられたその体に貴方は安心感を覚えずにはいられないんじゃないかしら?」
「メリーさんも余計なことは……」
「確かに。そうしてすくんで動けない私を護りながら敵をばったばったと倒していくリュート君」
「絶対、お姉ちゃんがすくむ相手に僕が一人で立ち向かえるわけないし、そもそも敵って何なのさ?」
「『助けに来たよ、お姉ちゃん』そう言ってリュート君は手を差し出してくれるの」
「聞いてないや」
「でも、私は腰を抜かしていて立ち上がることが出来ないから。リュート君は私の体に手を回してくれて、お姫様抱っこをしてくれるのね」
「そんなときの為にもリュート君に武術、習わせてみない?」
「是非!」
二人はがっしりと握手を交わした。
「あの、僕に選択権は無いんですかね……」
リュートがその二人のやり取りをげんなりした顔で見ていると、玄関の扉が開いた。
「やぁ、メリーさん、レッサさんおはよう」
「あらら。マーモさん、おはようございます」
「おはよう」
メリーとレッサが同時に反応する。
「相変わらず正反対な夫婦だね、ところですまないが家内を見てないか?」
「モルさんは見てないわねぇ」
「今日はまだ来てない」
「そうかい、さっきから姿が見えないもんでねぇ。他を当たってみるよ」
「もし見つけたら探していたことお伝えしておきますね」
「助かります、それじゃあこの辺で。レッサさん、今度飲みましょうな」
「楽しみにしておく」
「じゃあ」
そう言うとマーモは出ていった。
「何かあったのかしらね?」
「単純な家出かもしれませんよ?」
「そうねぇ、あの夫婦に限ってはそれはないと思うわよ」
「そうですか、なら確かに心配ですね」
「心配でもないわよ?」
「え?」
「それより、二人が承諾してくれたんだもの早く始めましょう?」
「そうですね!かっこいいリュート君を育てるために早く始めましょう!」
「待ってお姉ちゃん、いまさらっと重大な事いったような気が……」
「準備できたら道場のほうにいらっしゃい、防具はしっかり着込んできてね?」
「なんでこの二人は俺の話を聞かないんだよ!」
「分かりました!さ、リュート君、行きましょう!」
「わ、ちょっと!」
ぐいぐいと、ベルはリュートを引っ張っていく。
引っ張られていくリュートにたいして、レッサは一言。
「頑張れ」
と言うと、畑仕事へと向かった。
▽ ▽ ▽
「うふふ、来たわね。それじゃあ早速始めましょう。ベルちゃんの実力が見たいからリュート君はちょっと見ててね」
「はい」
「分かりました」
「じゃあ、いくわよ」
そう言ってメリーさんは薄く目を開ける。それと同時に張り付くような寒気をベルは感じた。
「はい、どうぞ。お好きなようにかかってきていいわよ」
「は、はい」
割りと本気でヤバい相手に稽古つけてもらおうとしてるんじゃないかと思いつつ、ベルは構えを取った。




