吐露
ドラコ皇国へ向かう道を外れた林の中。メリッサを寝かせるのにちょうどいい具合に開けた場所があったので、そこに布を敷いてからメリッサを寝かせた。
メリッサの今の状態はハンガーノックだ、治すにはエネルギーを補充しなくてはいけない。
とりあえず巾着から鍋を取り出し、鍋を魔法で出した水で満たした上で魔法で起こした火にかけた。これは木を燃やしたりなどすると煙が起こってしまうが、魔力で燃やし続ける火であれば煙は出ない為である。
そこに麦を入れお粥を作る。
「……片手では色々と支障がでるな」
先程の戦闘で右腕を火傷したので、左手をメインに作業しつつ、魔法で右腕を冷やしていた。この魔力は、ブーメランから引き出したものではなく、俺個人が出せる魔力を使っている。氷魔法の場合は、小さな氷の欠片を出すか物を冷やすか位の魔法しか使えないが、そのおかげで右腕を凍りつかせてしまうこともなくアイシングできているので今この時だけはありがたいといっておくべきだろう。
「できた」
麦粥の上澄みを椀ですくい、少し冷ましてメリッサの口に流し込んでみる。しかし、気を失っているメリッサはそれを飲み込んではくれない。
口移しで押し込むか?
そう考えてメリッサに向き直った時、メリッサの首もとにかかっていた首飾りが目にはいった。
「これはたしか、砂漠の町で俺がプレゼントしたものか……待てよ、この首飾りは魔力を溜める魔物の骨を使っていたはず、ならば」
首飾りの魔力を探ってみると、メリッサのものであろう魔力が溜まっていた。
「いける、これならメリッサを救える」
「ワウ?(どうしたのご主人様?)」
「この首飾りの魔力を俺が操ってメリッサに戻すんだ、そうすればさっき花火にやったことと同じ事ができるはずだ」
「ワウ!(なるほど、メリッサ様が治るんだね!)」
「そうだな」
そうと決まれば後は実行するのみ。
メリッサの首飾りの魔力を引き出し、メリッサへ移していく。
集中しろ、ほんの僅かでも霧散させることなく戻すんだ。
やがて魔力を移し終えると気絶していたメリッサが目を覚ました。
「ん、んぅ……レン?」
「メリッサ、体調はどうだ?」
「んー、なんだか体が重い感じがする、あとお腹が減ってるかも」
「そうか、とりあえずこれを食べてくれ」
麦粥をよそってメリッサに渡す。
「え、うん」
メリッサは、ゆっくりと一口、一口スプーンで食べていく。
「ねぇ、レン。ここはどこ?甘い匂いを嗅いで力が入らなくなった後に何があったの?」
「ここは、ドラコ皇国へ向かう途中の林の中だ。……あの時の甘い匂いはタリア神国の暗殺部隊の攻撃で、体内の魔力を放出させるものだったらしい」
「それで私は魔力切れを起こして倒れたってわけだね」
「あぁ。だから俺は、メリッサと花火を助ける為にそいつらを殺した」
「っ!?」
「仕方ない、とは言わない。怒りに身を任せたわけでもない。あの時メリッサ達を救うのに必要であったとも思えない。ただ、彼らを殺すのが一番早くメリッサを助けられて、メリッサが死ぬ可能性も低い選択肢だった」
「れ、レンはそれで良かったの?」
「もちろん。今は後悔すること自体出来ないが、もし心を取り戻したとしてもこの事を後悔することはないと思う」
「そう……そうだよね、レンはいつも自分の事を疎かにしてでも私を助けてくれるもんね」
「メリッサ、泣いているのか?」
「うん、自分が不甲斐なくて」
そう呟いたメリッサの瞳には大粒の涙が溜まっていた。
「メリッサ、これは俺がやったことでメリッサが不甲斐ないと思う必要はないと思うんだが……」
「そう言うと思ったからこそ、レンには人殺しさせたくなかったから。その時になったら私が何とかしなくちゃって、思ってたのに……」
「なぁ、メリッサ。一つ聞いていいか?」
「なに?」
「俺を恐ろしくは思わないのか?人を殺したんだが」
「その事は特には……いや、ちょっとだけあることにはあるけど」
「そうなのか?」
「だって、山賊とか通り魔とかから身を守るためだったら相手を殺すことも許されてるからね。出来るだけ生け捕りにはするべきなんだろうけど……今回はそれに含まれると思うから忌避感はあまりないよ」
「そうなのか」
「でもそう言うってことは、レンの国は違うんでしょ?殺してはいけないんでしょ?だから、レンには殺してほしくなかった、もしレンが元の世界に戻れたときの為に禍根を残したく無かったのに……」
「メリッサ」
「何?」
「ありがとう、俺の心配をしてくれて。でも大丈夫だ、人を殺したことの覚悟はできている」
「……ここで感謝の言葉は卑怯だと思うなぁ」
「そうか?」
「うん」
「そうなのか」
「そうだよ」
話す事が無くなって沈黙する……と思ったらメリッサの腹が鳴った。
「おかわりいるか?」
「う、うん」
麦粥を再度すくい、メリッサに渡す。メリッサは受けとるとすぐに一口食べた。
「美味しい」
「それは良かった、こっちに来てから料理は初めてだったからな」
「そういえば、そうだったね」
軽くメリッサが笑う。
問題が解決したわけではない。そもそもの悩みが起きてしまった後の物なのだから解決できる訳でもない。だから、目を逸らして貰うことにした。時間がメリッサの罪悪感を薄れさせてくれる事を祈って。
「さて、俺も食うとするか」
日が落ちかかり闇の濃くなった林の中、匙を動かす音だけが響いていった。




