最短の道
目に痛いほどの純白で身を固めた四人の姿に、俺の本体のことが想起される。
「タリア神国関係か……?」
それなら大変まずい状態だ。
さっきから匂っている、この香のような香りを嗅いでから、体中の魔力が急速に流れ出続けている。メリッサ、花火が倒れたのはこれのせいでエネルギーが足りなくなった状態、つまるところ空腹……というよりも飢餓状態になっているからだ。この状態が長続きすぎると、二人が餓死してしまいかねない。
そして、彼等の目的が俺または俺達の命であるとすると、メリッサ、花火が動けない今、4対1のうえに二人を守りながら、なおかつ素早くあいつらを制圧しなくてはならない。
「あぁ?面倒くせぇな、一人立ってやがる」
状況を推察していると、白ずくめの内の一人が話始めた。
「また、魔力を馬鹿みたいに貯めれる魔術師ですよ、敵じゃありませんって」
「ねぇ、ねぇ。タリア様のご指示の遂行中だよ?なんで喋ってるのかな、かな?」
「確かに……僕達はタリア様の命令……実行するだけでいい」
「これだから、ガキと女は……めんどいのは事実だろうが、その事実を確認してお前らと共有しただけだ、私語じゃねぇ」
「そうなの、なの?ならごめんだね、だね」
「……ちっ、本当面倒くせぇ」
「まぁまぁ、それよりもさっさと殺ってしまいましょうよ」
「うん……早く命令こなせば……タリア様喜ぶ」
タリア神国関係確定か。秘密暗殺部隊ってところか?
「俺は女のほう殺っておくから、男や犬のほうはお前ら殺っておけよ」
「あー、なんだかんだ言って自分は一番楽なの選んでるじゃないですか。じゃあ、私は犬のほう殺りますよ?いいですか?」
「なら、私達は男だね、だね」
「了解……いくよ」
白ずくめ四人が、同時に短剣を抜いた。分散されると対処が困難になる、あいつらの集中をこちらに向けるには……俺の存在を無視できないようにさせるのが一番。
ブーメラン二本を引き抜き魔法を込めて投げる。
「『双燕』!」
左手から飛ぶブーメランが霧を、右手から飛ぶブーメランが紫の雷を発生させる。それらが交わった地点は、手当たり次第に雷を撒き散らす危険地帯となる。
「まだ魔法が使えるとか、化けもんかよ!」
「この霧晴らすよ、よ?『ファイアボール&ウィンドバースト』!」
「ちょっ!?」
熱風が巻き起こり、霧が払われる。空間を渡る足掛かりを無くした雷は、大気を切り裂きながら魔法を使った女の子に落ちる。
「あの紫のピリピリする、なんか楽しいかも、かも」
「あっつ!熱!急に熱風なんか使わないでくださいよ!」
「あの男……脅威」
よし、ひとまず脅威だと認めて貰えたようだ。
しかし、『双燕』が打ち消されるか……出力負けしてるな、なら魔法は使えないな。それならば、肉弾戦で処理するしかない。
だから俺は、盾と剣を仕舞い、素手で彼らの中へ突っ込んでいった。
「はっ!どうしようも無くなってトチ狂ったか!」
違う
男の単純な突きを半身で避けつつ、右拳で鳩尾を打った後に投げ飛ばす。そのついでに彼の持っていた短剣を奪う。
男はなんとか受け身をとって衝撃を殺したが、ボディに深く入った拳の為か、立ち上がろうとする足が震えていた。
「刺すよ、よ?」
背後からの一刺しを、こちらの短剣で相手の短剣の軌道をそらしつつ、腹を蹴り飛ばしてそこにいた男の子にぶつける。
「痛い……邪魔」
「なんなんだこいつ!魔法使いじゃねぇのかよ!」
「流れ出る魔力、見えないね、ね。魔力、尽きてる筈だよ、だよ?」
確かに、体内の魔力は尽きたらしい。しかし、この体は魔力で動いている訳じゃない。倒れる事はない。
「同時に攻撃しますよ!」
「あぁ」
「分かったよ、よ?」
「了解……準備完了」
囲んで四方向からの攻撃。
真正面の相手の手を掴み、ぐるりと回すようにして立ち位置を入れ替える。
ついでに放った蹴りは流石に腕で防御することによって防がれた。
このまま、全員気絶させる。
「くっそ、このままじゃ個別に倒されるだけだ。3-1隊形とるぞ!」
「了解」
「わかりました」
「いいよ、よ?」
魔法が使える女の子を後衛に、他が前衛になる隊形に切り替わる。
「まずは、ファイアボールだよ、だよ?」
その瞬間、彼女の頭上に4つの火球が生まれる。そして、それは続けざまにこちらに降り注いできた。
バックステップや、フェイント等を駆使してなんとかかわすが、いったい、この状況をどうしようか。
▽ ▽ ▽
魔法の回避に意識を割かなくてはならないため、前衛の彼らを上手く突破できず、ジリジリと時間だけが過ぎていた。
早く、メリッサ達を助けなければいけないのに、助けられないこの状況に焦りを覚える。
はやく制圧を……
と考えて、その考えが頭に引っかかった。
なりふり構ってられない状態で制圧だと?そんな事ができる状況なのか?
その事を少し考え、一つ道を思いつき、それの様々な問題を考えて、メリッサ達を助ける為に全部放り捨てて実行することにした。
「あ?」
腕を振って投げたナイフが真正面にいた男の目に突き刺さる。
「がぁっ!?ああああああああああ!?」
その間に走り寄っていた俺は、その勢いのまま上段蹴りでナイフを脳の奥深くまで貫くように蹴り込む。その上で、巾着から適当に掴んだ剣を引っ張り出す。
「え、え?死んじゃったの、の?」
そうだな。
茫然としている女の子の声を聞きつつ、彼女を始末するべく走り寄る。
「!?っこ、来ないでよ、よ!」
接近に気付いた彼女は、魔法で炎の壁を産み出す。
だが、近寄らせ過ぎたな。
剣を持った右手を、焼かれることも厭わず真っ直ぐに炎の壁に突っこむと、ずぶり、という鈍い感覚とともに炎の壁が消失した。
炎が消えたそこには、喉を貫かれた彼女が剣を抜こうとして、おぼつかない手で何度も空を掻いていた。
「き、貴様ぁあ!!」
「待ちなさい!」
無口だった少年が激昂して、ナイフを腰に構えて突っ込んでくる。
それを、少女から剣を引き抜き、振り向く流れのままに左下から右上へ斜めに振り上げてナイフを弾いて対応し、返す刀で少年の首を切り落とした。
その場で剣を振って血を払い、残った男に相対する。
「この悪魔が!あなたは子供達を殺して、罪悪感などないんですか!」
「あるに決まっている」
「ならば何故こんなことができるのですか!」
「それでも、何をおいても、彼女を助けたかったから。それで、俺が血を被ることになっても構わない」
「だから殺したと?」
「そうだ。彼女を助ける道として最短だった」
「なら、私も殺すんですね?」
「いや、ここで退いてくれれば無駄に殺したりはしない」
「……わかりました。退きましょう」
その言葉に軽く、安堵の息を吐いた。
「あなたが大事に守っていた女の命を持ってなぁ!」
男はメリッサの方へ振り向いて、走り出す。
「そうか……」
男の周りの地面ががばりと隆起し、さながら虫に食らいつく川魚のように男を挟み込む。
「な、なんですか!これは!」
「お前が攻撃しようとしてきた場合に備えて、あらかじめ用意していた土魔法だ」
左手に持っていた六角柱を腰のホルダーへと戻す。
「やはり、始めから私を殺す気で!」
「……そのまま退いてくれれば良かったのに、と思っているよ。でも、お前はそれを選んだ。残念だ」
「まっ……!?」
土を操り、男を挟み潰す。みしみし、べきべきと言う音と共にだんだんと壁の幅は狭まり、その隙間から血やら何やらが溢れだしてきた。
隙間が無くなったのを確認して、まず花火の下へ向かう。
「花火、起きろ。ほら、魔力だ。食え」
ブーメランに残っていた魔力を、俺の体を経由し花火に与える。
しばらくすると、花火は立ち上がり、ふらふらとだが動けるようになった。
花火が動けるようになったので、メリッサの下へ向かう。
「ワウ?(メリッサさまも治せないの?)」
「そうだ。魔素や、魔力ならなんでもいい花火達とは違って、人はその人本人の魔力でなければ拒否反応を起こすらしい。だから、先程のやり方では治せない」
「ワウ?(ならどうするの?)」
「今考えている。だが、その前にここから離れるのが優先だ」
メリッサを背負って歩き出す。
彼女が目を覚ましたとき、自分が人を殺したことを伝えるかどうか悩みながら。




