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怠惰で勤勉な俺は旅に出る  作者: 渡鳥 陸
フレット商業国家
66/106

 入り口から繋がっていた階段を下りて、視界の開けた広場に出た。青い石レンガで組まれたいつも通りの遺跡の風景にいつも通りに一歩を踏み出す……ということは、出来なかった。


「百聞は一見に如かずとはよく言うが、やはり文章の情報だと限界がでるな」


 実際、遺跡をうろつく蛙達は体色を変化させられる、ということは知ることができたが、『どこまで』変化させられるかはいくら文章化しても、個人の受け取り方に差がでてしまうために確実な情報にはならない、その為先ほどの資料には載せられてはいなかった。

 だから蛙の擬態がどこまで風景に紛れることができるのかわからない。わからないから、今この場に蛙がいるのに気づけていないという最悪を想定した状態でいなくてはならない。


「まぁ、こうやってずっと立ち止まっているわけにもいかないんだがな」


 するり、と巾着からブーメランを抜き出す。


「わからないなら炙り出すしかないよな『雷』」


 床を、壁を、天井を這うように電撃を走らせる。しかし、何か生物に当たったような感覚も、動く物も無かった。


「いない、か……どうするか。会わない方が良いが会う必要があるとは、なんとも面倒だ」


「ワウ」


 僕ならその「かえる?」ってやつが隠れてても匂いで分かると思うよ?と言うように花火が鳴いた。


「確かに、匂いまでは消しきれないか?よし、花火。何か新しい匂いを嗅いだら教えてくれ」


「ワウ!(まかせて!)」


 花火を先頭に、周囲を深く観察しつつ歩く。


 暫く歩いていると、花火がピタリと止まった。


「あれか?」


「多分そうだね」


 風景の青と混ざって見えにくいが、一匹の蛙がいるのが見えた。気を払っていれば見逃すことはなさそうなレベルの擬態だ。


「ひとまず、あの程度ならば俺達には大丈夫だな」


「でもすごいね、あんなにそっくりの色になるんだね」


「ワウ?」


 ねぇ、ご主人様、あれ殺っちゃっていい?というように花火が鳴く。


「待て、花火。今回は待機だ」


 先程魔法を使うのに使って、魔力が空になったブーメランを蛙に向けて投げる。弧を描いて飛んだブーメランは蛙の視界の外から回り込み、蛙の背中に直撃する。


「さて」


 ブーメランが当たった瞬間、蛙はどんどんと膨らんでいき、パンパンの状態になった後、パーンと高い音を立てて爆発した。


「本当に風船みたいに破裂したね」


「だな」


「ワウ!?ワウ!?」


 なに!?今のなに!?というように花火が吠える。


「いいか、花火。さっきの色の蛙は攻撃するな。あれが撒き散らした霧は、吸い込むと激痛が走る毒だ」


「ワウ」


 分かった、というように花火が鳴いた。


「……ねぇ、レン。ちょっといいかな。あんまり遺跡のことには関係ないことなんだけどさ」


「なんだ?」


「なんだか、花火が話していることが、なんとなく分かるような気がするんだけど、よくよく考えるとこれって変なんじゃない?」


「……たしかに」


「私達が話している言葉がちゃんと通じているなぁ、とは思っていたけど、花火の言葉がなんとなく通じるのはおかしいよね?」


「おかしいな」


 確かにそうだ、モンスターの言葉が、ニュアンスで伝わるのはいくらなんでもおかしい。このクローンの体に何か仕掛けられているのか?いや、待て。なら何故メリッサにも聞こえているんだ?となると花火の側になにかあるのか?いったい何が……


 そう考えた瞬間、頭の奥底から知識が湧きだしてきた。


 魔物、モンスターと呼ばれるそれらは、遺跡を作ったとされる過去の民族が産み出した戦闘兵器である。彼等は動物に魔力的な改造等を施し、強力な戦力かつ低コストでの量産を可能にした。彼等魔物は、魔素で活動するだけでなく、魔素を使っての身体強化や自然的に起こり得ない現象を発生させることが可能だ。そして、単純に生殖行動で繁殖し、その特性は子にも引き継がれる。

 古代の民族は彼等を指揮するために、魔素を用いた『念話』とも呼ぶべき性質を付与した。その機能は、登録された上位者(マスター)との意思の疎通を可能にするものである。

 現在、遺跡を守る魔物達は今尚、古代の民族をマスターとして登録しているものである。しかし、遺跡の外にいる魔物は何らかの原因──例えば遺伝子の抜け落ちや変異によるデータの損失──でマスターの情報が消失しているか、マスターに従うというシステムが崩壊しているとみられる。その為、極一部ではあるが、魔物には力関係を見せつけるとマスターして登録され、なつかれるというケースが存在し、一般にはテイムという名称で呼ばれている。


「古代兵器、魔力によって改造された生物、マスターの登録……これはゼロワンの知識か」


「え?何?どうしたの?レン」


「ゼロワンの知識がこちらに流れ込んできたみたいだな。魔物やテイムモンスターの知識を見た」


 とりあえず、先程見た情報を要点だけ説明する。


「なるほど、古代の人がそういう機能を魔物につけたから、花火の言ってることが分かるんだね」


「ワウー(へーそうだったんだー)」


「そうらしい」


「ワウ、ワゥ(あ、ご主人様、かえるがきたよー)」


 花火の声に、前を見てみると蛙が三匹こちらに顔を向けていた。


 とりあえず盾を構えた瞬間、ひゅっというような甲高い風切りの音と共に三回、少し大きめの石を投げつけられたような重く鈍い衝撃が盾に走った。


「これが舌の攻撃か、想像していたものより速いな。しかし、見切れ無いわけではない」


 速いことには速いが本気のメリッサのスピードに比べると遅い。俺の本体と戦ったときになんとか捌けていたのも、メリッサとの模擬戦に慣れていたからだろう。ただ……


防御(これ)でも反応するのか」


 三匹の内の一匹、少し色が濃いように感じる蛙が先程と同じく膨らんでいき弾ける。


「ポイズンボール厄介だね。ほとんどメガトードと見分けがつかないよ。大量に出てこられたら大変そう」


「メリッサ、弓はどうだ」


 預かっていた弓と矢を巾着から取り出し、メリッサに渡す。


「やってみる」


 メリッサは、きりきりと弓を引き絞り、右側にいる蛙目掛けて矢を放った。


 蛙は、ぽーんと天井近くまで跳び上がって矢をかわす。


「予想通り!落下に合わせる!」


 二の矢を引き絞り、軌道の変えられない落下に合わせて放とうとして、その手を止めた。


「はえ?」


 跳躍途中でくるんと裏返ったメガトードが、ぺたりと天井に貼りついたのだ。そうして、メリッサが面食らっているうちに、メガトード達が舌を飛ばす体勢に入った。


「メリッサ!」


「え?ひゃっ!?」


 右手でメリッサを抱き寄せ、盾で舌を防ぐ。


「花火、雷で牽制」


「ワウ!(分かった!)」


 花火の一吠えとともに、花火の全身の毛からパチパチと細かいスパークが起こり、それが集まってやがて強力な雷となった。その雷は、床や壁を走って蛙達に殺到していく。

 バチバチと走る電気を蛙達は、天井や壁を使って立体的に回避する。


「すまない、借りるぞ」


「え、うん」


 固まったままのメリッサから弓を横取りに近い感じで借り、メガトードの一匹を射落とす。


 次いで、さそちゃんシールドのつまりをひねって爪を開くと、壁から壁へ跳んでいた蛙を空中で挟み捕らえる。


「いい加減ぴょんぴょんと目障りだ、吹き飛べ」


 爪で捕らえたまま、魔力でバーを操作してギロチンを射出する。

 ものすごい勢いで射出されたギロチンの刃は、いとも容易く蛙の首を断つと、がしゃんとストッパーにぶつかって止まった。


「メリッサ、大丈夫か?」


「あ、うん。平気。問題無いよ」


「そうか?顔が赤いが。毒は吸ってないよな、抱き寄せた時に問題があったのか?」


「え!?あ、いや、問題は無かったよ!大丈夫」


「ワウ(メリッサさま、本当に大丈夫?)」


「大丈夫!だって!問題は無かったんだってば、問題は!」


「ワウ?(じゃあ何があったのー?)」


「へ?」


 花火の一言でメリッサがフリーズした。


「クゥーン(問題"は"無かったんでしょー?なら何があったのーって)」


「えっと、レ」


「レ?」

「ワウ?(レ?)」


「あああああ!無し!今の無し!ほら!時間無いしさっさと行かなくちゃ!ほら!」


 結局、何も分からず。メリッサに押されて進むことになった。


  ▽ ▽ ▽


 二戦目以降はメリッサが固まることもなく、蛙を次々と射落としてくれたため、俺は盾役として蛙の舌を防いだり、ポイズンボールを魔法で遠くから処理することだけに専念することができて、安定した戦いになった。そして難なく黒の棺の見つかったとされる部屋にたどり着いた。


「まぁ、三層程度なら私達の目じゃないよね」


「蛙の動きに面食らって固まってた者の言うことじゃないな」


「いっ、一回だけだもん!それに、その事について固まってたのはちょっとだけだし……」


 後半、小さな声でぼそぼそと呟くようにメリッサがしゃべったため聞き取り辛かった。まぁ、聞き取れはしたのだが。


「なら、何に固まっていたんだ?」


「ふぇ!?い、今の聞こえて……?」


「あぁ」


 肯定で返すと、メリッサが顔を真っ赤にしつつまた固まった。


「大丈夫か?」


「い、今の聞かなかった事にして!何も聞かないで!」


「そう言うなら、俺は何も聞かないが」


「と、扉。早く扉開けて本当に黒い直方体のあれなのか確認しよう!?」


「分かったから、一回落ち着いてくれ」


「あ、うん」


 メリッサは大きく深呼吸して、落ち着こうとする。


「落ち着いたか?」


「うん」


「よし、開けるぞ?」


 ゆっくり扉を押し開けていく。開けた視界に映るその鈍い黒色は、間違いなく黒の棺だった。


「あ、あったね。レンって……え、あれ?どういうこと?」

「……確かに、そういうことも有り得るのか。しかし、どうするか……」


 そこに立っていた黒の棺は、人一人分(、、、、)程の体積が流れ落ちたかのように……いや、実際流れ落ちたのだろう。そこに封じられていたホムンクルスの分の体積を失った、空っぽの黒の棺が鎮座していたのだった。

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