番外 虐殺
すいません、タイマーつけ忘れてました
血の量が今回多いので、ダメな人は最後の一文まで読み飛ばしてください。
飛風練の本体は走っていた。ルクレスの砦へと。
「指示されたポイントに到着しました。予定時刻まて後二秒です」
夕焼けに差し掛かり、赤くなりはじめている空の下。本体が見上げるのは、高くそびえるルクレスの砦。篝火や、照明の魔道具が用意され始めているのか、砦の壁上はぼんやりと明るく照らされている。しかし、こちらは敵兵が現れない側であるからか物見の兵はいない。
まぁ、裏側であるこちらの門もしっかりと閉じられてはいるし、壁も普通の人には登れないほど高い。普通であれば。
「予定時刻になりました。作戦開始します」
本体は軽く助走をつけるように走って、跳んだ。
「は?」
高い壁を、ただの跳躍で乗り越え、軽やかに着地するとともに、ちょうど着地地点にいた兵士を一刀のもとに切って捨てる。
「え?て……き……?」
切られたことにも気づかず、兵士は首を落とす。
ここから、本体の虐殺は始まるのだった。
▽ ▽ ▽
本体は、出会った兵士を手当たり次第に切り殺していく。
「なんで、こんなところに敵が!?ぐぁっ!?」
「盾を!盾を並べろ!指揮官に伝達を!がぁ!?」
「弓だ!弓で!ごぼぁ!?」
急な敵襲に完全に不意を突かれたフレットの兵は、指揮系統を混乱させたまま、なすすべもなく切られ続けていた。
「あ、あ、嫌だ、いやだ、いやだ!死にだぐなぁ!?」
逃げようとする者も、向かってくる者も、そこにいた兵士は全て切り捨てていく。
「目標を25体殺害、26体目に入ります」
本体が剣を振り下ろす、とここで今までとは違う硬い当たり。
「これ以上は、やらせねぇぞ!」
左手に大盾、右手に直剣を構えた兵士が、本体の前に立つ。先程の剣は彼の盾によって受け止められていた。
「ファル兵士長だ!ファル兵士長がお戦いになるぞ!」
「これで勝てる!」
フレットの兵士達が希望を見いだしたように沸き上がる。
「弓隊!魔法部隊!壁上で隊列を組んでこいつを狙え!歩兵隊は盾で隊列を組んでこいつを閉じ込めろ!それまでの時間は俺が稼ぐ!」
ファル兵士長の指示に、兵士が迅速に行動し始める。
「さぁ、こい。相手になってや!?」
話終わる前に、本体は切りかかる。
「不意討ちか、上等だ!」
だが、その不意討ちをファル兵士長は盾で受け止める。
「しかし、なんて馬鹿力だ。俺は本当に盾で受け止めたんだよな?不安になるぞ、まったく」
と、本体は止められた剣を引くと、ぐるりと回して逆からの袈裟斬りを放つ。
「振りは早いが、動作が丸見えだよ!」
しかし、それもファル兵士長に止められてしまう。
「おらっ!」
盾でのタックル。それにより弾き飛ばされた本体は、しかし、たたらを踏むこともなくしっかりと直立し、また剣を振るう。
「っ!?」
鍛練のなせる技か、はたまたシールドチャージ後の隙の少なさ故か、ファル兵士長はその剣を受け止めることができた。
「あれで少しも怯まないのかよ!」
やけくそ気味に右手の剣を振るう。しかし、本体はそれを大きく跳んで回避する。
「なんて馬鹿げた身体能力してやがんだ。化け物か、こいつは」
その問いに答える者はいない、相対する本体は、剣二本を後ろに引き絞り、突きの体勢をとっている。
「そんな、見え見えの攻撃当たるか!」
本体が動いた。その瞬間、剣の一本は大盾に突き立ち、もう片方の剣は肩口を切り裂いていた。
「がっ!?」
まるで時間が飛んだかのような一撃、ファル兵士長は右手に力が入らなくなって剣をとり落としそうになる。
「く……そ……!」
「兵士長!陣形の構築完了しました!」
兵士の声に辺りを見ると、盾をみっしりと並べた兵士と、弓、魔法部隊が整然とならんでいた。
「よし!集中砲火だ!やれ!」
「魔法を確認、対魔法戦闘を開始します」
まず、魔法部隊の魔法がかき消される。
「は?」
次に、雨あられのように降り注ぐ矢を、本体は、その反射神経と動体視力だけで回避していく。
「んな馬鹿な!というか魔法部隊!魔法はどうした!」
「魔法が!使えません!」
「そんなことあるか!いいからさっさと撃て!」
弓の第一射が止む。
「おい!射続けろ!釘付けにし!?」
周りへの指示に気を取られていたファル兵士長は、本体の動きにに対する反応が一瞬遅れてしまった。
剣を防ごうと掲げた盾を持った手首が、切り落とされてしまう。
「がぁ!?っく!まだだ!」
左手を失って、尚本体と立ち向かう。
しかし、ファル兵士長は元々盾の名手、剣技はそこそこである。
本体は、ファル兵士長を数合の後に切って捨てた。
「ファル兵士長が殺られた?まじかよ」
「つ、次は俺か?やりたくねぇよ」
その衝撃に、兵士達が浮き足立つ。
そんなことは気にも止めず、本体は壁上に跳び上がり、弓兵二人を切り裂いて着地する。
振り回した剣に弓兵がばたばたと両断されていく。
弓隊の次は魔法部隊。接近戦の準備などしていない彼等は、数瞬のうちに全滅していた。
「嫌だ、死にたくない!」
「た、隊列を崩すな!」
盾隊の崩れた所から本体が切り込んでいく。
▽ ▽ ▽
暫く後、ルクレスの砦の中を歩くものが一人、タリア神国の兵が並んでいる側の扉を開く。
「作戦終了、次の命令まで待機します」
真っ白だった服を返り血で真っ赤に染め、本体は立っていた。
「さすがだな、やはり転移の勇者。いや、天使だったか?まぁ、いい。タリエル、現状を報告せよ」
一人の男が本体に近づいてきて、そう尋ねた。
「はい、ルクレス砦の兵は全て殺害しました。負傷は無し、現状の魔力残量は2%です」
「2%?何かあったのか?」
「殺害対象と遭遇、戦闘、高優先度の命令を遂行するために、戦闘を中断しました」
「なるほど、人形の内の一体が逃げ出していたか。よし、分かった。タリエル、お前は神殿に戻って魔力を回復しろ」
「了解しました、命令を完遂するため移動を開始します」
本体ータリエルはそのまま走って去っていく。
「ふむ、人形が逃げていたとは、狩人をださなければいけないかもな」
男はひとりごちる。
「その前に、まずはフレット商業国家だ」
男は振り返り、並んでいる兵士に向かって声を張る。
「聞け!皆のもの!我らの天使さまがタリア様に仇なす敵を打ち払ってくださった!今度は我々の番だ!悪魔によって洗脳された民を浄化し!彼の国を正常に戻すのだ!全軍、前進開始!」
「「うぉおおおお!!」」
兵士達の雄叫びが人のいないルクレス砦に響いていく。
こうして、鉄壁と謳われたルクレスの砦はたった一人の手によって陥落したのだった。




