サイドストーリー メリッサから見た彼
«サイド:メリッサ»
彼に会ったのは、偶然だった。
突然歩いていた通路が崩れ落ち、私もそれに巻き込まれた。階段を探すため、通路を道なりに歩く。そこで一つの扉を見つけた。
罠を警戒しつつ扉を開ける。
そこには、宝箱など何もなく、ただ黒い金属の塊だけが置いてあった。
思わず、近づいて触れる。
一瞬、光が走ったように見えたが気のせいだろう。
立ち止まっていると、黒い金属が蠢く。
どろりと黒い金属が流れ落ちると、裸の男がそこに寝ていた。
それが彼だった。
165セメルほどの身長で筋肉質ともいえない体、この辺りでは珍しい黒髪。
彼の名前は、トビカゼレンというらしい。
出身地は聞いたことの無い場所、彼の記憶は無い。感情の動きが見え辛く、どこか人形じみている。
見せて貰ったステータスは異常そのもの、ageは0、異常な蓄積魔力と、全くもって平均値の能力、一切無いスキルと魔法。
そして、謎のバー。
大罪と美徳。聞いたことの無いボーナス。
黒い金属塊に封じられていたため、危険人物でないか確かめなくてはならない。
ひとまず、彼の様子見をしつつ、この遺跡から出ることにした。
一日目の道中は問題無く来れた。彼は特に騒ぐこともしない。初心者故の無用心は多少目立ったが、それだって他の初心者に比べると、用心している方だった。
道中の彼は、私との会話に全て正直に答えているように見えた。彼の純粋な賛辞は純粋な故に心に響く。
なぜ、彼はあんなものに封じられていたのだろうか。単純な疑問が浮かぶが、彼自身もそれは知らないのだろう。
二人で安全地帯に泊まる。彼は、戦力として最も重要な私を休ませようとした。
彼自身が休むつもりは無いらしい。生存戦略としては正しい。
だけど私は、少し納得がいかない。彼自身も疲れているはずだ。しかし、彼には怠惰の大罪がある。それを盾に彼は休まないと言う。苦し紛れに私は告げる。
「他の人に襲われなくても、君に襲われる可能性がある」
言ってから気付く、そのことを考慮していなかった自分に。
探索者として失格だ。いくら親しくてもその部分の警戒は必要なのに。
「襲うなら、命の危険が無くなってから充分襲うさ」
動揺していた所に刺さる一言。
赤くなったであろう頭を隠すために毛布を被る。警戒を解かずに眠るが、彼は全く動かない。
結局、朝まで彼は動かなかった。
次の層の広場で、私はミスをした。
動かないリビングアーマーに油断して彼を危険に晒した。
それでも彼はリビングアーマーを倒すために自らを囮にして攻撃のチャンスを与えてくれた。
しかし、私はリビングアーマーを仕留めきれなかった。
リビングアーマーに隠れて彼は気付いていなかったかもしれないが、彼が盾を投げてくれなかったら、私は3手先で斬られていただろう。
だから、彼が斬られそうになった時は本気で叫んでいた。
彼を砕けたリビングアーマーの瓦礫の下から引っ張りだす。
気づけば本気で怒っていた。
彼は平気で自分の命を晒す。人形の様な感情がそうさせるのだろうが、見ていられない。
彼が町に行って大丈夫になるまで、私がついていないといけない。
そう思いつつ、私は彼に手招きをしたのだった。