信仰<カワイイ
「大丈夫か、モンシーロ」
ブラックマンティスの鎌を腕で受けたモンシーロにそう尋ねる。
「大丈夫だ、ほら」
モンシーロは鎌を受け止めた左手がしっかりと動く事が分かるようにぶらぶらと振る。
「木の盾を切り落とすような鎌を受けてよく無事だったな」
「鉄のプレートを籠手みたいに巻いてあってな、両手斧だと盾が邪魔になるからその代わりにつけていたんだ。まぁ、ギリギリだったみたいだがな」
そう言って見せた鉄のプレートには、深い切り傷が刻まれていた。
「治癒魔法はいるか?」
「貫通した訳じゃないからいらない、それよりそっちの傷は大丈夫なのか?」
「一応塞がっている」
「本当に大丈夫?」
戻ってきたメリッサが念を推すように尋ねてくる。
「魔法で診た感じでは異常は無かった」
「そう……よかったぁ」
「気を抜いておるでない、他の虫がやって来んとも限らん。早よう撤退するぞ」
アゲハが弛んだ空気に釘を刺す。
「そうですね」
「うん」
「了解した」
モンシーロと俺が、トゥーファイブとアリア·ベルを担ぐ。
「じゃが、少し待て」
「なんだ?そっちが移動しようと促したんじゃないか」
アゲハはビシッとブラックマンティスを指す。
「せっかくの最高の素材じゃ、鎌だけでもよいからもぎ取って来い、モンシーロ」
「はぁ……分かりました、取ってきます」
モンシーロはトゥーファイブを担ぎつつ、片手で斧を操り、残っていた右の鎌を断ち落とす。そして、斧を腰の武器かけに通すと、空いた右手で二本の鎌を回収した。
「アゲハ様、できました」
「よし、では引き上げる!」
▽ ▽ ▽
遺跡から引き上げ数時間後、エルフの国の病院のベッドにアリア・ベルとトゥーファイブは寝かされていた。そして、その周りには俺とメリッサ、そしてアゲハにモンシーロがいる。この部屋は現在、他の者が近づくのは固く禁じられており、今回の騒動の会議場のような扱いになっていた。
尚、まだトゥーファイブは目覚めてはいない。
「さて、では事後処理の話し合いを始めるかのぉ」
率直に、アゲハがそう切り出した。
「まずは、レン殿、メリッサ殿、我らの神樹様を救っていただきありがたく思う。我らエルフ一同感謝を申し上げる」
そう言ってアゲハとモンシーロが深々と頭を下げる。
「急に改まれるとなにか、気持ち悪いな」
「そういいおるな、こちらもこれほどの功を上げたものに感謝の意を表さん訳にはいかんのじゃ、形だけでよい、受け取ってくれ」
「そういう事ならとりあえず受け取っておくが」
「後は、それに加えての褒美なのじゃが正直言って全く考えがまとまらぬ。とりあえず滞在中のもてなしや食費などはこちらで持つのは簡単に決まったのじゃが……そこでじゃ、なんとでも頼みたい物を頼め、できうる限りであればそれを支援しよう」
「なんとでもか?」
「まぁ、非人道的なもの等は断らせてもらうがの」
「そもそも頼む気は無いのでその情報はいらないのだが……しかし、どうしようか」
「まず、さっきの戦闘で壊れたレンの盾の修理……というか、もっと頑強な盾を新調して貰うべきじゃない?」
「なるほど、盾が欲しいのじゃな。分かった、我が国一の武具工に頼んでおこう」
「そうだな頼む。それと、盾の素材にこれは使えるか?」
巾着からジャイアントスコーピオンの殻を取り出し、見せてみる。
「モンシーロ、出番じゃぞ」
アゲハの指名に立ち位置を入れ替えるようにして、モンシーロが前に出てくる。
「これは、確か砂漠の方で獲れるジャイアントスコーピオンの殻か。個体によって固さが違うからな、盾に使えない場合もある。確かめてもいいか?」
「かまわない」
モンシーロがそれを受け取った瞬間、彼の表情は驚いた顔に変わる。
「なんだこれは、これほどまでの硬度をもったジャイアントスコーピオンの殻なんて初めて見たぞ。鋼並みに硬いうえに鋼より軽いとは……」
「そうなのか、まぁ砂漠の住民に伝わる主クラスのジャイアントスコーピオンだったからな」
「とんだレアものだな……これはあの武具屋が暴走するかもしれないな」
「まぁその時はその時じゃろう。いろいろと機能がくっついて戻ってくるだけじゃ」
シンプルな盾でいいのだが……いったいどうなるのだろうか。
「そうだ、ブーメランをかけておく留め具を二つ、つけてもらうように頼んでくれ。これで大きさもわかるだろう?」
巾着からブーメランを取り出し、それもモンシーロに手渡す。
「確かに、その要望で頼んでおく」
「さて、次にアリア・ベルとやら。おぬしの処遇についてじゃが、それを言う前におぬしが今どう思っておるのかが聞きたい」
次に話の内容は、アリア・ベルについてのものに移るようだ。
「どう思っている、とは何についてですか?」
「そうじゃな、タリア教及びタリア神国についてどう思っておるのか聞きたいのぉ」
「そうですね……タリア教そのものについては今も正しいものであると思います。しかし、タリア神国が正しくタリア教の教義を全うしているかということに対しては、今の状態ではかなり疑わしく感じています」
「そうか。タリア神国に戻る気は無いか?」
「そうですね、今はまだ戻りたいとは思いません。少し、タリア神国から離れて、本当にタリア神国が正しい行いをしているかどうか、見たいというのが本音です」
「そうか、ならばおぬしに下す処罰は国外追放といったところじゃろうな」
「そうですか……分かりました」
アリア・ベルがあっさりと承諾し、処罰についての話が終わる。
「さて、こちらが確認したいものはもう無いのじゃ。誰か確認したいことがある者はおるかえ?」
確認か……あるな。
「トゥーファイブのことについて確認したい」
「構わないが、どういうことじゃ?」
「今現在、俺が回収した魂は三つだ。残り四つを探しに行かなくてはならない。しかし、それは今回と同じように七大遺跡に隠されてあって、そのうえ強力なモンスターによって守護されていると思う。そんな旅に、子供の体であるトゥーファイブを連れて行くことは出来無い。だから、誰かにトゥーファイブの世話をして貰いたいんだが……」
「世話っていうのはひどいんじゃないですか、練さん」
突然、部屋に聞いたことの無い声が響く。声のした方を向くと、トゥーファイブが体を起こしてこちらを見ていた。
「僕は一応、貴方の記憶や知識の一部をコピーしているんです。やろうと思えば、一人で生活することもできますよ……多分」
「俺の記憶はこの世界ではあまり役にたたんぞ」
「うぐっ、そ……それはそうですけど……」
「それ以前に見た目で駄目じゃな、誰も使ってくれんじゃろ」
「そ、そんなぁ……」
「あのぉ」
おずおずと、アリア·ベルが声を上げる。
「私、この子の面倒見てもいいですよ」
「本当か?」
「えぇ」
「それは助かる、トゥーファイブもそれでいいか?」
「いいですよ。それよりも僕が問題だと思っているのは、名前です」
「確かに、数字呼びだと不審に思われますね」
「誰か、いい名前付けてくれないですか?」
トゥーファイブの頼みに皆一同深く考え込む。
「25……何か他の読みは……」
「名前のぉ……咄嗟には難しいのぉ……」
「うーん……」
「……」
「名前ですか……」
しばらく考えたのち、アリア・ベルに引き取られるので、彼女の名前から取って楽器にしてみようと思った。
「リュートってのはどうだ?」
「リュート、いいですね。楽器ですか」
「あぁ」
「ありがとうございます、練さん。僕の名前はリュートです」
「リュート君、これからよろしくね」
「はい、よろしくお願いします。ベルさん」
「他人行儀じゃのぉ、一緒に行動するんじゃから、それらしく振る舞うべきではないかえ?例えばお母さんと呼ぶとか、お姉ちゃんと呼ぶとかのぉ」
「お……お母さんはちょっと……」
「ならお姉ちゃんじゃな。ほれリュート、そう呼んでみぃ」
「はい。ベルお姉ちゃん、これからよろしくおねがいします」
そう呼ばれたアリア・ベルは、咄嗟に顔を手で隠す。
「なんでしょうか、いまの 凄く可愛かったです……なんか、もう鼻血が出そうなくらいに。あぁ、この子と一緒に暮らすってことは何度もさっきみたいにお姉ちゃんって呼ばれるんですよね、なんかそれを考えたらもうタリア神国とかどうでもよく感じてきました」
駄目だこいつ。そういえば、花火のモフり魔だった。可愛いものに弱いのか……。
「さて、これで本当に確認する事は終わったかのぉ。それでは、今回の件の事後処理は以上で決定する。解散!」
「レン殿、メリッサ殿は宿泊場所まで案内するので着いてきてください」
モンシーロに誘導され、病室を出る。
案内された俺達は、その晩豪華な料理と、上質なベッドでもてなされたのだった。




