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怠惰で勤勉な俺は旅に出る  作者: 渡鳥 陸
メリッサの故郷+エルフの国
53/106

アゲハ様

 石で囲まれ、鉄柵で閉じられた冷たく暗い牢へと放り込まれる。


「夕方に長が帰ってくる、それまでおとなしくしていることだ」


「そうか、夕方になれば解放されるんだな?」


「はっ、我らが神樹様に狼藉を働いたものなど解放するわけ無いだろう」


「そもそも俺は、はじめてこの国に来たんだ。誰か人違いじゃないのか?」


「人違いな訳があるか、理由を言えないで遺跡に用があるなんてのは我らの神樹様に狼藉を働きに来るというほかに無いだろう」


「いや、その神樹とかではなく、遺跡にだけ用がある」


「ふん、そこらへんの弁明は後で聞く。まぁ、せいぜい神にでも祈ってるんだな」


 そう言って男は立ち去ろうとする。


「待て」


「なんだ」


「メリッサと花火はどこにいる」


「一緒に捕らえた女と狼のことか?女はもう一ヶ所のほうの牢にいる、口裏合わせできないようにな」


「花火は?」


「狼は、動物用の牢なんて無かったんでな。そこらに繋いで放置していたら」


「していたら?」


「女、子どもに群がられ、撫でられまくって、ぐったりしていたな」


「そうか」


「これでいいか?なら俺は行くぞ」


「あぁ」


 男も居なくなって、静まり返る牢。


 さて、どうしようか。


 エルフの連中は、服に縫い付けられてある巾着袋には気づかなかったようで、外に出していた剣やブーメランは取り上げられたが、まだまだ道具は残っており、ここから脱出することは容易いだろう。しかし、それでは無実が証明できないどころか、脱獄で実際に罪を作ってしまう。


「なら、このまま捕まったままが一番の得策か」


 そう結論を出した俺は、備え付けられていたベッドに寝転んだ。



  ▽ ▽ ▽



「おい、起きろ。起きろと言っている」


「ん?うぅ、もう時間か?」


「時間か?じゃない、罪人のくせして、よく寝ていられるな」


「罪人じゃないからな」


「ふっ、どうだか。まぁいい、移動するぞ、出ろ」


 牢屋から引っ張りだされ、再度腕を拘束されなおす。そうして連れていかれた先は、背後にとてつもなく巨大な木が生えた、何かの祭壇のようなところだった。


「大きな樹だな」


「我らが神樹様だ」


「へぇ、あれが」


「その程度は冒険者の中でも一般常識なはずなんだがな。やはり、モグリか?」


「いや、俺は記憶喪失でな」


「面白い冗談だな。さぁ、無駄話はここまでだ、長が来る。そこに座れ」


 そう言って、祭壇の前に正座させられる。しばらく待っていると、ちりんという鈴の音とともに純白のローブと、煌めく銀の長髪をなびかせて、一人の女性が祭壇の上から現れた。


「ふむ、その者が例の件の関係者と思われる者か?」


「はっ、遺跡に用があるとだけ申して詳細を語ろうとしなかったもので、怪しいと思い捕縛しました」


「なるほど。では尋問を始めようか、まずお前、名はなんという」


 ここで騙っていても仕方ないな。


「飛風練だ」


「トビカゼレンか、ん?そなた、本当に人間かえ?」


 長は紫の瞳でこちらを眺めると、不思議そうな声でそう尋ねてきた。


「どういう意味だ」


「いやなんでもない、忘れてくれんか?」


 いや、自分が本当に人かどうかを尋ねられてその事を忘れられる人間がいるのか?その言葉をこちらが口に出す前に長が話を続ける。


「それよりレンとやら、お主はなぜこの国へ来た」


「記憶を取り戻しに来た」


「ほう?どういうことかえ?」


「世界各地にある七遺跡に、黒色の直方体の形をした石柱があり、なぜか俺の記憶がそれに散らばっているらしい。だから俺とメリッサはそれを探しにここに来た」


「なるほど、なら初めからそれを伝えておけばよかったのではないか?」


「賊の可能性が捨てきれなかったからだ」


「なら、なぜ今明かした?」


「ここまで発展した町に住んでいるのが山賊等であるわけがないと判断した。また、本当の賊ならば俺達を捕らえた時点で目的は達成していて、こうやって逃げ出しやすい状況はつくらないはずだ」


「たしかに、そうじゃな」


「それで、どうだ。こちらがこの国にこだわる理由は説明したが。疑いは晴れたか?」


「ふむ、今の話を否定しえるだけの証拠は無いのぉ」


「なら」


「だが、そなたが下手人でないという証明にもならん」


「それはそうだが……」


「そこでじゃ。そなた、我らに協力する気は無いかえ?」


 そう言って長は妖艶に微笑む。


「協力だと?」


「そなたも知っての通り、我らは今問題が起こっておる。それの解決に人手が欲しいんじゃ。そこで、我らに協力したら遺跡の調査をさせてやろう。どうじゃ?よい話では無いかえ?まぁ、見張りの人は付けるがのぉ」


「協力を拒めば?」


「さぁ?牢屋で勾留かのぉ?」


 長は飄々と言いはなった。


「つまり、実質一択の命令というわけか」


「命令ではない、協力じゃ。で?どうするのじゃ?」


 にこやかに、されど断らせようとしない迫力で長は尋ねてくる。


「……分かった、協力させて貰えないだろうか」


「ふふ、賢い者は嫌いでは無いぞ」


 長は次に俺の隣の男を見た。


「モンシーロ。この者から取り上げた武器を返却し、遺跡の入り口まで案内するのじゃ。あと、ついでにその者の見張り兼同行役の一人に任命するからそなたも身支度をしておけ。もう片方は私が適当に選んで連れて行かせる。よいな?」


 その長の指令に、モンシーロと呼ばれた男は身をのり出して反論する。


「アゲハ様!私は反対でございます!余所者、さらに下手人の疑いの有る者に、我ら新樹様の問題を解決させよう等!この問題の解決は我らのみで行うべきです!」


「モンシーロ」


 重い声が響く。


「はっ!」


「そうやって暫く我らだけで方法を考えて来たが、どれも解決には至っていない。このままでいれば新樹様が危ないというこの状況においてさえ、貴様は形振りも構おうとするのか?」


「いえ、ですが……!」


「『それほど』ということなのじゃ、察せよ、モンシーロ」


「なんと……そうですか。分かりました、私モンシーロ、同行役を拝命します。ほら、いくぞ」


 急変したモンシーロに引かれていく。


「おい、急にどうした」


「うるさい、黙って歩け。説明は遺跡に着いてそっちのもう一人とこちらのもう一人が揃ってからする」


 ぐいぐいと引っ張られながら、牢屋横の詰所のような所で縄をほどいて貰い、それとともに武装を返して貰う。

 そしてまた黙々と歩いていくモンシーロの後を追って歩き、巨大な新樹の根元に辿り着いた。


「ここが遺跡の入り口なのか?」


「そうだ、新樹様は遺跡を取り込むように成長なさった大変面白い木だ」


「なるほど……ん?周りの木に比べて枯れ葉が多いような気がするが」


「それは後で説明するが、それこそが我々が抱えている問題だ。それより、アゲハ様は他に誰を選出するのだろうか、今戦闘ができる人手に余裕なんてあっただろうか……」


 モンシーロがそう呟いていると。


「レーン!」


 とメリッサの元気そうな声が聞こえてきた。


「来たか」


「本当に、誰なんだろうなっ……!?」


 モンシーロが固まる。なぜなら、メリッサと共に現れたのは、自然のままに流していた長髪を、後ろで括って留め、ぴっしりとした白のシャツを着て、そのシャツの裾の上からズボンを履いて腰と足を緩まないように紐で縛った、長アゲハその人だったからである。

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