雷狼
剣の突き刺さっている所から体液を垂らしつつ、ジャイアントスコーピオンは町の方角へ移動しはじめている。その動き自体は早いものではないが、その大きさの為か相対的に見るとそこそこ速く、足場の悪さも相まって、俺達は離されはしないものの追いつくこともできそうに無かった。
「レン!さっきの魔法は使えないの!?」
「使えない。効果範囲ぎりぎりな上、使う時には足を止める必要があるから使う瞬間には範囲外に逃げられて駄目だ。もう少しでも距離が近いか隙ができれば間に合うかもしれんが」
「何か!何か何か無いのでしょうか!?このままでは町に被害がでてしまいます!」
何か、本当に無いのか?
ブーメラン、効かない。
それに炎魔法を纏わせる、攻撃としては効かないな。ジャイアントスコーピオンの眼前に投げられれば止まるかもしれないがそもそも届かないだろう。
水、氷魔法は使えない。
風魔法も効かない。
土魔法は届かない。
雷魔法は、刺さった剣に当たってジャイアントスコーピオンの体内を流れるならともかく殻の上からでは効かない。
俺だけでは止められない、他の人はどうだ?
メリッサ、遠距離攻撃を持っていない。
案内人さん、あの様子では有効打は持って無いだろう。
後は……花火か。花火の足なら追いつけはするだろうが、火力が……
そう思っていると、走っている俺達の横を花火が追い越し、ジャイアントスコーピオンの目の前に躍り出た。花火はジャイアントスコーピオンの前を走りつつ、ジャイアントスコーピオンに向かって吠えて気を引こうとするが、脅威と判断されていないのかジャイアントスコーピオンは進路を変えようとしない。
やはり駄目か……
そう思った瞬間。
「ガウ!!」
と花火の苛ついたような吠えが聞こえた。慌てて視線を戻すと、花火が体から光を発していた。
「ね、ねぇレン!何あれ!?え!?どういうこと!?花火が光ってるよ!?」
「知らない。俺も分からない」
メリッサが動揺していると、
「グルルル、ガァアア!!」
と花火が一声吠えるとともに、花火から雷が迸りジャイアントスコーピオンの殻の周りを走る。そのいくつかのうちの一つが刺さっていた剣に当たり、ジャイアントスコーピオンはその動きを止めた。
「レン!今だよ!」
「花火、ナイスだ。捕らえろ『砂縛』」
六角柱を砂に差し込み、全力で魔力を伸ばす。
届け、間に合え、せっかくのチャンスだ、無駄にするな。
動き出す前のジャイアントスコーピオンの左右の足の一番後ろ一本ずつに砂が絡みつく。
「届い……たっ」
魔法が遠いせいか、ジャイアントスコーピオンが必死なためか、はたまたその両方か、逃げられそうな所を全力で引きとどめる。
「逃がす……か」
脳が魔法の処理に全力を注ぎ、ぐるぐると血が流れる感覚を味わう。頭全体が熱を持ち始め、足の力が抜けていく。
じり、と捕らえているジャイアントスコーピオンの足が持ち上がる。出力で競り負けているということだ。
「もう一本」
さらに六角柱を砂に差し込む。ぐるぐると回っている脳の回転数がさらに上がり、しだいにキーンという音が聞こえ始めた。
ジャイアントスコーピオンの足がまた沈んでいく。だが、このままでは有効打はあたえられない。もっと、深く沈むまで引きずり込まなければならない。もっと、回転数を、処理速度を上げろ。
そうして、あるところまで回転数が上がった瞬間、ぱちん、と何かが弾けた。それは、クロニコとの勝負の時にも起こった現象。世界がゆっくりになって魔力が滑らかに扱える状態。なぜこんな風になるかは分からないが、とにかく。
「最大の好機。仕留めるっ」
ジャイアントスコーピオンの足を砂の下深くに引き摺りこむ。それにより体が引き下ろされ、ジャイアントスコーピオンの巨体が砂を巻き上げながら地面に着いた。
メリッサはジャイアントスコーピオンの元へ走り寄ると、刺さっている剣の上から杭を打つように掌底を撃ち込んだ。
ジャイアントスコーピオンは、剣を撃ち込まれた穴から、だばだばと体液を流しつつも、しばらくの間『砂縛』から逃れようともがいていたが、やがて力尽きて動かなくなったのだった。




