脱出
瓦礫から引っ張り出された俺を待っていたのは、メリッサの怒った声だった。
「レン!」
その後に、何を続ければいいのか分からなそうに、メリッサは頭をかきむしる
「俺は、大丈夫だ。剣を受けた時に両腕が折れたみたいだが、命に別状はない」
とりあえず、彼女を落ち着けるために、無事を報告する。
「そういうことじゃないよ!死んじゃったらどうするのさ!」
しかし、彼女の昂りは収まらない。
死ぬ......か、リビングアーマーの剣を盾で受ける時も、一切恐怖が無かった。
体を走る痛みも、知覚しようと思わなければ感じない。
今の俺の体はどうなっているのだろうか。
「レン!聞いているの!」
「あ?すまない、なんの話だった?」
「君は、自分を粗末にしすぎるって話だよ!」
「しかし......あれしか手は...」
「そういことじゃないよ!」
「分かった。次回から、気をつける」
彼女の声に、ついそう答えていた。
「よろしい。絶対だよ」
「あぁ」
「じゃあ、腕を出して」
「なぜだ?」
「言ったそばから!右腕!血!」
確かに右腕を刺されていた事を思い出す。
「すまない、忘れていた」
俺は右腕を出す。
「忘れられるものじゃないと思うけど」
メリッサは、小包から包帯を取り出すと俺の腕に巻き付ける。
治療を終えると、メリッサが手招きする。
「さぁ行こう、外へ」
ん?まだまだ道は長いと思っていたが、ここでおわりなのか?
「しかし、あと5層残っているのでは?」
「あ!ごめん、言って無かったね。遺跡には、各キリ層ごとにフロアマスターと転移魔方陣が存在してね、探索者はここから外へ出入りできるんだ。」
「なら下の転移魔方陣のほうが近かったのでは?」
純粋な疑問をぶつける。
「フロアマスターって言ったよね。下から上がってくるなら転移魔方陣だけ使えるけど、上から降りていく場合は、毎回フロアマスターと戦わなくてはならないんだよ」
「そうか」
「ということでレッツゴーだよ」
メリッサが階段を登り出す。つられて、俺も登っていく。
登りきった先で見た物は、柔らかな光をたたえた泉。
様々な光の粒が浮き。鏡のような水面が揺れる。
光の反射は小部屋に、様々な模様を描く。
「綺麗......なんだろうな」
まったく感慨が湧いてこない。恐怖を感じない点では有用だが、こういう点で心が動かないことは世界との格差を感じる。この格差にでさえ悲しいという感情は動かない。やがて、考えるのが面倒になった。
「行くか」
メリッサに近づく。
「それで、どうすればこれは使える?」
「じゃあ、おいで」
メリッサは躊躇いもなく、泉に足を踏み出す。
俺も、ゆっくりと泉に足を踏み入れる。
「入ったね?行くよ!転移!」
景色が歪む。体が揺さぶられるような感じがする。少し気持ちが悪い。
揺れが収まると、そこには日の光がさす、入り口が見えた。
「行くよ」
「あぁ」
メリッサに連れられて、日の光の下へ足を踏み出すのだった。