無双姫
ほんのりと残っていた熱も消え、夜の砂漠には突き刺すような冷たい風が吹いている。静まり返った闇の中、砂に足をとられないように気をつけながら坦々と歩き続けていた。
「お客さん、気分転換にこの砂漠の昔話でもどうでしょう。単純作業は本人の思っている以上に気が滅入っているものですから」
「俺はどちらでも構わないが、メリッサは聞くか?」
「うん。ちょっとくたびれてきた所だったし聞いてみたいな」
「ワウ」
「では、えー。こほん」
案内人は咳払いをして空気を作ると、すらすらと話し始めた。
「昔は今ほどオアシスの町が発展もしていなければ、エルフの森への行き方が確立された訳でもありませんでした。そんな頃のお話です。
案内人達は大陸の中央―今のタリア神国があるあたりですね、その頃は小国家群の内の一つだったようですが―その中央へ行ってからエルフの森へ行っていました。ですが、中央では様々な国の領域が入り混じってる事から関税がかかり、商人達はエルフの森への行き方を確立しようと躍起になっていたのです。
ですが、エルフの森への直通ルートは簡単には拓けませんでした。道の途中に主がいたのです」
「主?魔物か?」
「えぇ、ジャイアントスコーピオンの異常種です。ジャイアントスコーピオンは人一人分の大きさを持つ蠍で普通の蠍とは別にこの砂漠にいるのですが、その主は言い伝えによると山ほどの大きさだとか終わりが見えないだとか。まぁ、伝聞は大げさに伝わるので、私的には元のジャイアントスコーピオンの2~3倍と踏んでいるのですが。
そんな主を倒す為に数々の冒険者達が挑んでいきました。ですが主の殼は非常に硬く、どんな武器も通りません。砂漠に足をとられ満足に動けない冒険者達は巨大な鋏や尾の毒針で返り討ちにあっていきました。
誰もが主は倒せないと諦め始めたその時、オアシスの町に一人の可憐な女性がふらりと現れました。彼女は自らをメリーと名乗り、自分も砂漠の主討伐に参加させて貰えないだろうかと頼んだのです」
「!?っ、ごほっ、ごほっ」
メリーという単語に、丁度水を飲んでいたメリッサがむせた。
「どうしました?」
「メリーって、それ本当?まさか髪の毛は私に似た金髪じゃないよね?」
「よくご存じですね、きらびやかな金色の髪に優しい微笑みを絶やさないお方だったそうですよ」
あっさりと確定した。
「あの人何やってんのさ!本当に!」
「おや、お知り合いですか?」
「お知り合いもなにも多分うちのお母さんだよ……」
「なんと!?そうなんですか!まさかお客さんがあの『無双姫』の娘さんだったとは」
「ああああああ!何か変な二つ名付いてるし!」
「メリッサ、足元の岩に気をつけろ。転ぶぞ」
メリッサの足元には赤茶色の岩のような地面が露出していた。
「岩のようなものなどこの砂漠には……」
案内人はそれに気づくと急に深刻な顔に切り替わり、大きな声で叫んだ。
「お客さん!それから離れて!」
その声を聞いてメリッサは勢いよくそれから跳びすさる。
「砂に完全に埋まっていたのか、油断したな……お客さん、さっき話に出たジャイアントスコーピオンです、とりあえず刺激しないように迂回しましょう」
「了解」
「分かった」
「ワウ」
と、その時。足元が震えた。
「なっ、もう一匹いたのか!?」
持ち上がるような感覚とともに足元の砂が流れ落ちていく。俺達が上を歩いていたそれは、人を三人ほど横に並べたほどの大きさを持つジャイアントスコーピオンだった。




