ブラシと首飾りと
いたるところで燭台に火が灯り、真夜中なのに明るいオアシスの町を歩く。ただ、町の中は明るさとは反対に静まり返っていた。
「こんなに明るいのに、凄く静かだな。何かあったのか?」
「いや、いつもこんなものですよ。この町が明るいのは砂漠を渡ってくる人が見つけやすいようにするためですから」
「へぇ、移動を夜にするからお店も夜にやってると思ったんだけど違うんだねぇ」
「えぇ、お店が繁盛するのは昼から夕方にかけてなんですよ。夜、町にやってきた方はそのまますぐ宿で寝てしまいますし、町を発つ方は夜が始まればすぐに出発してしまいますので、寝ていた方が起きて出発の準備を整え始める昼から夕方が丁度いいようなんです」
「なるほど」
「ということで宿泊施設なんですが、贔屓にしているところがあるんです。特に希望がなければそこいいですか?」
「俺はいいが……狼は大丈夫なのか?」
「多分外のラクダ小屋の方になると思いますが大丈夫だとは思います」
「ならそうしようか」
「うん、いいと思うよ」
「ワウ」
「そうですか、ありがとうございます。それでは案内します」
案内人の彼は静かな町の中央の方へ歩いていく。
「ここです」
立ち止まった店は町の大通りに面した大きな宿屋で、この世界にしては高めのグレードの宿屋だということはそうたいしてこの世界の宿の事を知らない俺でも分かった。
「他のもう少しグレードが下のは無いのか?」
「えぇ、ありますよ。そちらにしますか?」
「そうしてくれ」
また少し歩いた所にあった宿は、町で良く見かけるような宿屋で、先ほどのような高級感は感じられず、それでいて玄関前等の細かい掃除が行き届いていて良い宿だというのが一目で分かった。
「最初からここに連れてきて欲しかったんだが」
「何いってるんですか、稼げる時に稼がないとこの世界やっていけないんですよ。まずはお客さんの予算的にギリギリ贅沢に納まる位の宿へ連れていって、そのまま泊まってくれれば儲けもの。それがダメならお客様の希望に沿う宿屋に案内するんです」
「紹介料か」
「えぇ」
「いい性格してるな」
「お褒めいただきありがとうございます」
「誉めてはいない」
「それじゃあ本日はここまでということで、明日の正午にまた伺います。場所はこの宿屋の前という事でよろしいですよね」
「あぁ」
「それではおやすみなさいませ」
案内人はそう言って一礼すると来た道を引き返していった。
「あの感じだとさっきの宿はあの案内人かその親族の誰かがやってる宿だったのかもな」
「本当に良い性格してる人だったね」
「ワウ」
「さて、寝るか」
「うん、私も結構眠い」
案内人に紹介された宿は一般的な宿の値段と同じなのにも関わらず、柔らかなベッドですっきりと眠る事ができた。
さて、いつも通りに起きてしまった
待ち合わせは正午なので結構な時間がある。花火の様子でも見に行くか。
ラクダ小屋の所で寝ている花火のところへ向かう。
俺がラクダ小屋の入り口に立つと花火はすぐさま此方へ駆け寄ってきた。
「ワウ!」
「よしよし」
花火を撫でる手がざらつく。砂漠を渡る中で花火の毛に砂が絡まったようだ。
「ブラシか何か、そういえば買って無かったな……」
花火がもっと撫でて欲しそうに見つめてくる。
「もっといいものを買いにいくか」
「ワ、ワウ!?」
撫でるよりもっといいものだって!?と言いたげな花火を連れてオアシスの町を歩く。
しばらくして町の人達用なのであろう商店街へとたどり着いた。
とりあえず一番近くの雑貨屋へと入ってみる。
「へいどうも、何をお探しだい?」
気前の良さそうな女将さんが尋ねてくる。
「この狼用のブラシが欲しいんだがあるか?」
「狼ねぇ、生まれて初めて見たよ。ラクダ用なら置いてあるが、それでいいんだったら銅貨12枚だけどどうだい?多分他の店にも置いてないと思うよ、需要が無いからね」
「数ヶ所回って無かったらここで買おう、その時は安くしてくれるか?」
「いいとも、ここより安い所があったら教えな。そこより1枚減らしてやる」
「分かった」
ということでしばらく回ったが結局無かったので約束したとおり最初の店へ買いに戻った。
「確かに無かったな」
「そうかい、それで。家より安い所はあったかい?」
「あぁ、ここの路地の三本先の店が銅貨10枚だった」
「そうかい、なら9枚だよ」
銅貨9枚を払おうとして、ふと何でもない首飾りが目に入った。
「ん?兄ちゃんそれも気になるのかい?それはラクダモドキの骨を丸く削ったものに穴開けて紐を通した物さ。
ラクダモドキってのはラクダに似てるんだが、ラクダみたいな瘤が無くてねぇ。骨に魔素を貯めて栄養や水を補給してるらしいんだ。だからラクダモドキの骨は良く魔素を吸収する魔道具的な使い方もされてるのさ。
誰か世話になっている人にプレゼントとしてどうだい?」
「プレゼントか……一つ貰おう」
「はいよ、ならブラシと合わせて銅貨21枚で」
「ああ」
ブラシと首飾りを受け取って銅貨を支払いラクダ小屋へと戻る。
「さて、おいで花火」
買ってきたブラシで花火の毛をすいてゆく。
「ク、クゥーン」
気持ち良さそうに花火が声を上げる。
「そうか、気持ちいいか」
そのまましばらくブラシをかけていて気づいた。
「なんか毛の白い面積が増えているような気がするんだが」
花火達フォレストウルフ種は体の上半分が濃い緑色で腹側が白に近いクリーム色のカラーリングだった。その腹側の面積が増えているような気がするのだった。
まぁたいして気にならないのでいいのだが。




