人為的な
真っ暗な世界の中を自分の体の感覚すら不確かなまま漂っていた。
「ここ……は?」
「君の、そして僕の精神空間だよ」
背後からの声に振り返るとそこには俺がいた。いや、俺ではない。姿形は似ているが中身が別物だと、何故かは分からないがそう感じられた。
「お目覚めかい?いや、現状気絶してここにいるのだからそれはちょっと違うか」
「お前は誰なんだ。何故俺と同じ姿をしている」
「うーん、『誰』かぁ。説明が難しいなぁ、僕は僕なんだけど僕を構成しているものの大半は君だからなぁ。体のほうは、同じ体だからってだけで済むんだけど」
「同じ体だと?」
「そう、同じ体。君がこの体の管理者で、僕は間借りさせてもらってる入居者みたいな感じかな」
「俺の別人格ということか?」
「いや?赤の他人だけど」
「なら何故俺の体の中にいる」
「それは……あ、ごめん、時間切れみたいだ」
「なっ、待て。それだけ教えろ」
「待てっていうか、君の方が起きるんだよ。それに残りの時間だけじゃ説明仕切れないし、また今度ってことで」
「今度ってのはいつなんだ」
「この感じだと次の黒ノ棺に触れた時かな、あの黒い直方体ね」
「そうすれば教えてくれるんだな」
「うん。多分そろそろアレに当たる筈だから」
アレとは?
その言葉が口から出る前に真っ暗な世界が徐々に白色に染まっていき、俺の姿をした誰かも霧に飲まれていくかのように見えなくなっていった。
▽ ▽ ▽
目を覚ますとメリッサの顔が目の前にあった。
これは、膝枕か。
「あ、レン。起きた?大丈夫?頭痛く無い?」
「あぁ、大丈夫だが……何が起こったんだ?」
「お母さんが顎を打ち抜いてレンの脳を揺らしたんだよ。それでレンが気絶しちゃって」
「ごめんなさいね。綺麗な連携でつい、やる気が出ちゃって」
「もう!お母さん!レンって特殊な体だから体の中にダメージを負った場合分かりにくいんだよ!?それなのにこんな無茶させて!」
「そうなの?それはごめんなさい。大事にならないように診てあげましょう」
「え?診る?お母さん治療できたの?」
「えぇ、あまり使ってないけど軽い治癒の魔法位は使えるわよ?」
「それも初耳なんだけど!」
「あら、いつも稽古の終わりに頭なでなでしてあげたじゃない。忘れちゃったの?」
「あれがそうだったの!?」
「そうよ、筋肉の増強とは関係ない部分のダメージを治してあげてたのよ。それでどうするの?診る?診ない?」
「お願いします」
「はい、分かりました。それじゃあちょっと失礼して」
メリーさんは近寄ってくると、右手に淡い青の魔力を纏わせて俺のおでこに当てた。
「あらら?なにかしら、これ。面白いわねぇ」
魔力を感知できるようになった今、メリーさんの魔力が全身を巡っているのが容易に知覚できた。
「異常は無さそうね」
「面白いってのはなんだったの?」
「そうねぇ、さっき私が戦った感想も含んでるんでるんだけど……レン君って危険に対する機能が働いて無いっぽいのよねぇ」
「それは、痛覚が無い事の話?」
「えぇ、それの根本にある事の話ね」
「機能とはなんなんだ」
「危険を察知する痛覚、その痛覚を受けて身体を守るための脊髄反射、それによる防御行動。そのすべてが機能してないの」
「ねぇ、お母さん。それってその機能が抜け落ちてる感じ?」
「うぅーん、ちょっと違うかな。仕組み自体は残っているわ、それを動かす何かが無いっていった感じかしら」
「やっぱり……」
「メリッサ、どういうことだ」
「今までも違和感はあったんだ。レンの記憶の失い形が不自然だし、感情が無いっていうのも普通では考えられない。誰かが人為的にレンを改造しなければこんな事にはならないと思う」
「人為的に改造……俺をか?」
「うん」
「そうね、その可能性は有るかも知れないわね。ということはもしかしたらその人達と戦うことになるかも知れないのよね……うん」
メリーさんの顔が楽しそうに笑みを深めていく。
「となればやっぱり特訓しなくちゃいけないわね。うふふ」
「その事なんだが、俺に治癒の魔法を教えてくれないか?」
「えぇ、いいわよ。メリッサちゃんも一緒に習っておく?」
「もちろんだよ、というより私が迷宮に挑戦するって言って家を出る時になんで教えてくれなかったのさ!」
「うふふ、あの頃はもう治癒魔法なんてあまりに使ってなかったから忘れていたのよ、たぶん」
「そんな結構重要な魔法の存在を忘れないで欲しいんだけど!」
「それはごめんなさいね。それで、メリッサちゃん達は治癒の魔法を習得できるまでここに居る感じなのかしら」
「そうだね、回復手段があるのと無いのでは大違いだから。覚えるまで居るよ」
「うふふ、楽しみね。それじゃあ私はお夕飯の支度をするので戻りますけど、メリッサちゃん達はしばらくその体勢で居るのかしら?」
そう言われて自分達の体勢を見てみると膝枕されたままの状態だった。
「あぅ」
それを認識したとたん、メリッサの顔が真っ赤になっていく。
「うふふ、青いわねぇ。本当に楽しいわぁ」
「あああああああああ!!」
俺を膝に乗せているせいで動けないメリッサは手で顔を隠すと小さい子どもがいやいやをするように顔を振るのだった。




