父と母
メリッサのお父さんが目の前に座ったままこちらをじっと見てくる。しかし、あちらは何も言ってこない。
何故喋らないのだろうか、こちらが話し出すのを待っているのか?それとも、俺を観察しているのか?
そのままメリッサのお父さんと睨み合うこと数分、それは突然やってきた。
「あらら~、メリッサちゃんお帰りなさい。いつ帰って来てたの?それにこちらの方は?」
のほほんと気の抜けるような声が俺とメリッサのお父さんが作っていた空気をぶち壊していく。声のした方を振り向くと、メリッサに似た金色の髪の女性がにっこりと目を細めて立っていた。
「あ、お母さん。今帰ったところ、こっちの人は私の旅の仲間のレンだよ」
「練です、よろしくお願いします」
椅子から立ち上がって頭を下げる。
「あらあら、ご丁寧にどうも。メリッサの母です」
メリッサのお母さんもゆったりと頭を下げる。
「どうです?森の中を歩いて来るのは大変だったでしょう、疲れてはいませんか?」
そう言いながらメリッサのお母さんはぺたぺたと体を触っていく。
「いえ、そんなには疲れてませんが」
「あら、そうですか?頑丈なお方なんですね」
「お母さん!べたべた触りすぎだよ!」
メリッサのお母さんが背中に回ったあたりでメリッサがストップをかけた。
「あらあら、ごめんなさいね。ふふふ。そういえば、メリッサちゃん達はいつまでここに居られるのかしら?」
「そうだなぁ、一応今日は泊まっていくつもりだったけど。レン、どうする?」
「どうするも何も、数日泊まっていけばいいんじゃないか?久しぶりの帰省なんだろう?」
「いいの?ならそうするけど。お母さん、そういうことで数日泊まっていくよ」
「良かったわ、これで存分に特訓られるもの!」
「は?」
その瞬間、背後から冷たい冷気のような圧力を感じた。
それに反応した体がすぐさま振り向き、構えをとる。
しかし、そこにはにこやかな顔をしたメリッサのお母さん。
「あら、いい反応。じゃあ少しずつ強めていっちゃおうかしら」
メリッサのお母さんはゆっくりと目を開いていく……が特に何も無い。強めていくとは何の事だ?
「あらら?弱かったかしら?でもメリッサちゃんにはしっかり効いてるようだしどういう事かしら」
メリッサのお母さんから意識を逸らさずにメリッサを見ると、俺と同じように構えをとったまま体の全身をガチガチに緊張させ、全身から冷や汗を流していた。
「何が起こってるんだ?」
「うふふ。説明してあげるけどちょっと待っててね、これ解かないとメリッサちゃんが酸欠で死んじゃうから」
そう言ってメリッサのお母さんが開いていた目を閉じると、冷たい圧力のようなものが跡形もなく霧散していった。
「かっ……はぁ、はぁ。お母さん!急に殺気を発するのは止めてって言ったよね!」
それと同時にメリッサも動き出す。
「ごめんなさい、久しぶりだったものだからつい♪」
「『つい♪』じゃないよ!あれ長時間やると私死んじゃうよ!?」
「うふふ、そうね。それにしてもメリッサちゃん、ちょっと殺気への耐性が弱くなってるんじゃない?」
「そもそも!お母さんレベルの殺気を出せる生物がどこに居るのさ!」
「うーん、そうねぇ。あら、確かにいないかも」
「でしょ!」
「メリッサ、盛り上がっているところすまないが色々説明してくれ。まず、メリッサのお母さんは何者なんだ?」
「うふふ。改めて自己紹介を、私はメリー。メリッサの母で、家でやってる道場の道場主です」
「……道場主?」
「そうだよ、レン。家は道場やってるの」
「いや、それは気づいてた。俺が気になってるのは、道場主ってところだ。メリッサのお父さんはどうしたんだ?」
「あぁ、その事。お父さんはただの農家だよ」
「は?」
「農家」
「このがたいでか?」
「うん。武道はずぶの素人だよ」
「そうか……人は見かけによらないとはよく言ったものだな。それじゃあ、あの沈黙の時間は何だったんだ?」
「うふふ。家の人ったらもともと無口な上に人見知りでね、初対面の人の前だとがっちがちに固まっちゃうの。かわいいでしょ?」
あれは、緊張していただけだったのか……
「ほら、あなた。改めて自己紹介!その様子だと名前も言ってないんでしょう?」
「あ、あぁ。め、メリッサの父のレッサだ。よろしく頼む。俺自身は産まれてからずっと農家で武道はやった事は無い……以上だ」
「うふふ。久しぶりにたくさん喋ったわねぇ」
そんなに無口なのか。
「それで話を戻すんだが、メリーさんがさっきやっていたのは何だったんだ?」
「うふふ。あれは単純に殺意を発しただけよ?」
「単純って言うけど、普通の人間なら卒倒するレベルの殺気なんて普通だせるものじゃないでしょ」
「そこは特訓の成果ってやつ?」
「特訓って……そういえば家の流派って、どんな名前なの?聞いたこと無かったんだけど」
「名前?あらら、それは決めて無かったわねぇ」
「はぇ?」
「そうねぇ、骸流武術ってところでいいかしら」
「いいかしらって……えぇ!?どういう事!?」
「あら?言って無かったかしら、私が教えてる武術って私が編み出した流派よ?」
「初耳だよ!?それに、骸流って何!?その骸どこから来たのさ!」
「それはね、昔私が冒険者だった頃の話」
急に昔話だな、というか冒険者だったのか。
「その時私はセカンダ遺跡の19階層で墓場から出てくる骸骨をぼこぼこにしてたの」
「えっ、19階層って……え?人類未到達階層じゃなかったっけ?」
「そこは、ほら。私報告してないから」
「そんなことをなんでそんなさらりと!」
「それでね。その骸骨達って、様々な得物を持って出てくるのね。だから、それを奪って戦ったりしてる内にだいたいの決まった形が出来てたからもう流派にしちゃえ~って感じでね♪」
「だから『ね♪』じゃないよ!色々びっくりだよ!私の流派ってそんな軽い気持ちで生まれたの!?」
「そうよ」
「あぁー!知りたく無かった!」
メリッサが頭を抱えながら床をゴロゴロと転がり始める、それを辞めさせようとしてレッサがあたふたとしている。
「これで全く強く無いんだったら、十数年間何をやらさせてきたんだって怒れるのにー!滅茶苦茶強いから怒るに怒れないー!」
「うふふ。そうね、その実際強い骸流武術の開祖がこれから数日間みっちり特訓てあげる」
そう言うと、メリーはメリッサを俵かつぎするとそのまま隣の道場へ向かう扉へ足を向ける。
「レンくんも来てね、いっしょに鍛えてあげる」
じたばたするメリッサを軽くあしらいながらメリーはそのまま去っていった。
「……なんというか、メリッサが子供帰りしてないか?」
暫くして出た言葉はそれだった。




