表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怠惰で勤勉な俺は旅に出る  作者: 渡鳥 陸
プロローグ(脱出)
4/106

初戦

 次の層へと続く階段の前の広場にそれは鎮座していた。

 階段の前に居座る黒い騎士。しかしその内側にあるはずの体は無く、闇だけが見える。


「リビングアーマー!?何でこの層に?」


 戸惑うようにメリッサがこぼす。


「この層には出ないのか?」


「出ないよ、だって11層以降の死者の層の魔物だもんあれ」


「なら、どくまで待つか」


「そうだね、まずは様子見ってとこかな」


 物陰に隠れて待つ。しかし、一向に動かない。


「仕方ない、近づいて見てくるよ」


 メリッサが一人歩いて行く、しかしリビングアーマーは動かない。


「大丈夫そうかも、来ていいよ」


 言われて、俺も近づく。

 同時に、リビングアーマーの腕が上がる。


「あ?」


 高く上がった剣は俺の方を向いていた。


「危ない!」


 体に衝撃、メリッサの強烈なタックルで突き飛ばされていた。

 飛びかけた意識を引き戻しつつ周囲を見ると、さっきまで、俺がいたであろう場所に、剣が突き刺さっていた。


「なんで急に!君は下がってて!」


 俺の上から、メリッサが飛び出す。

 メリッサは、リビングアーマーから俺を庇うように立ち塞がる。

 しかし、リビングアーマーはメリッサの事など見向きもせず、左手の盾で押しのけると、悠然と俺のもとへ歩いて来る。


「止まれっ!このっ!!」


 メリッサの蹴り、さすがに直撃は許せなかったのか、盾で防がれる。

 しかし、リビングアーマーは盾を振って、メリッサを弾き飛ばすと、また俺のもとへ歩き出す。


「狙いは俺か、メリッサ盾はあるか?」


「あるけどどうするの!?」


「奴の注意を引く、君の攻撃を直撃させるしか無さそうだ」


「そんなの、君が危ないよ!」


 メリッサの焦ったような声が響く。


 リビングアーマーが近い。走って距離をとる。幸いなことに、相手は鈍重だ。


「危険なんて知らん。どのみちこれじゃあじり貧だ」


 考え込むメリッサ、そののち。


「あぁ、もう!死なないでよ!」


 木製で持ち手の周りを金属で覆った、片手用のラウンドシールドを渡される。

 その盾に左腕を通して持ち、右手で支える。

 構えると目の前にリビングアーマー。

 相手の降り下ろしを左にステップして、ギリギリでかわす。

 リビングアーマーは、降り下ろした剣を切り返し、右に切り払う。

 俺は、咄嗟に剣を盾で受ける、しかし、受けとめきれず吹っ飛ばされて地面を転がる。

 起き上がって見ると、メリッサが剣を振り切って開いた右足に、蹴りを叩き込んでいた。

 バキン、と鈍い音がして、リビングアーマーの右足が砕け散り、リビングアーマーが倒れこむ。

 咄嗟に、俺は盾を使って、剣の上に乗り掛かり押さえ込む。

 しかし、リビングアーマーは腕力だけで俺を空中に放り投げる。

 ふっと、浮く体。下を見るとリビングアーマーが突きの体勢を倒れた状態でとっていた。

 俺は、必死に盾を構える。

 木が割れる音、突きは盾を貫通して、微かに飛び出した切っ先は右腕に刺さっていた。

 Tの字のオブジェクトとなっていた俺は、呆けそうになる意識を力づくで引き戻し、盾から左腕を引き抜いて。自ら地面に落ちる。

 俺が盾を外すと同時にリビングアーマーは剣を振る。

 刺さっていた盾がスポンと抜けて、天井ギリギリまで飛ぶと、盾はカタンとやけに甲高い音をたてて地面に落ちる。

 盾に目を向けていた俺が、リビングアーマーに目を戻すとメリッサが脚撃を当てて、剣を持った右腕を壊していたところだった。


「これで!」


 右腕が落ちるガタンという音で我に帰った俺は盾を拾いに行く。


 右腕と右足を失ったリビングアーマーは、盾を持ち直した俺と、メリッサを見ると、メリッサに(、、、、、)左腕の盾を投げつけ、空いた左手で右腕の残りを外すと、右足にはめ、左手で剣を持って立ち上がった。

 盾を避けるために距離をとらされたメリッサは、一番無防備だった瞬間を狙えず。

 そもそも、攻撃力がない俺には、どうすることも出来なかった。

 立ち上がったリビングアーマーは、剣をメリッサへ(、、、、、)向けた。


 最悪である。今まで彼女の攻撃が通っていたのはリビングアーマーが俺を攻撃した後の隙をついて、攻撃していたから。リビングアーマーが彼女に意識を向ければ、この戦いは、勝てなくなる。

案の定、メリッサは剣を避ける事が必要になり、攻撃に出れていない。


 今、俺に出来ることはなんだ?辺りを見回す。アレならいけるか?


 勢い良く走り出した俺は、そこに落ちていた、リビングアーマーの右足を持ち上げ投げつける。


「こっちを向け」


 リビングアーマーの背中にぶつかって落ちるが、相手は気にも止めない。

 今度は右腕を投げる、止まらない。

 走っていたのを止めると、俺は盾を左腕から外す。


「こっちに来い、この鎧野郎」


 投げた盾はリビングアーマーには当たらず、メリッサとリビングアーマーの中間、つまりリビングアーマーの目の前に落ちた。

 落ちた盾が、俺が使っていた物だと見ると、リビングアーマーは、勢い良くこちらへ走り出した。


「レン、逃げて!」


 メリッサが悲痛な声をあげる。止めようと追っているが、でがかりが遅れた、いくら相手が鈍重でも間に合わないだろう。

 高く、掲げられた剣が体感的にゆっくりと降り下ろされる。








 風切り音、






 そして、







 金属音(、、、)

 リビングアーマーの剣は、リビングアーマーが投げ捨てた、あの盾に阻まれて体に届いてはいない。


「メリッサ、やれ」


 俺の声が響く。目の前のリビングアーマーの背中から、重い一撃の音。

 背中側から回ってきたひびが体の前まで回ってきて、つながり、リビングアーマーの体が、粉々に砕け散った。盾の上に、リビングアーマーの残骸がバラバラと落ちてくる。

 瓦礫に埋もれた俺を、メリッサが引っ張りだした。

 その間も、リビングアーマーが動く事はなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ