優しさと独善
文字数すくないです。
自分の遅筆さが恨めしい。
シルバードラグーンを前に俺は動けないでいた。
これは以前のリビングアーマーを参考にしてのことだ。
リビングアーマーは俺が近づいたら動き出した。とすると、最悪の場合人為的に俺を襲うよう配置されたモンスターという事が考えられた。
その場合、このシルバードラグーンも俺が近づけばすぐスイッチが入ったように暴れだすだろう。
こんな狂暴なモンスターが暴れたら手を付けられない。かといって、ここを通らなければ俺は外には帰れない。
「倒すしかないのか?しかし……倒せるのか?」
フロアマスターにも苦戦した俺に、シルバードラグーンが相手になるとは思えない。
それに、俺には火力が足りない。シルバードラグーンの屈強な鱗を貫通できるような火力が。
「何か、いい物は無いか……」
そう思ってアイテムボックスを漁るが、手に当たるのはブーメランばかり。
「っと、これは?」
何か、球体の物が手に触れたので引き出してみる。
光によって艶やかに光る漆黒の球体が出てきた。
「これはクロニコから渡されたものか、確か困ったときに使えと言っていたな」
困った時……今か?使ってもいいものか?
少し悩んだあと、覚悟を決めて黒い球体に魔力を流していく。
魔力を流された黒い球体は少し大きくなると震えだした。
「これを、確か地面に置くんだったな」
黒い球体を転がすと、その球体はうねうねと膨らみ始める。
膨らんだ黒いなにかは人のようなシルエットをとりはじめた。
「なんだ……これは」
それが完璧に人の形になった瞬間、それは眩く発光した。
「おや、こんな朝早くから遺跡ですか」
聞いたことのある声。
閉じていた目を開くとそこにはクロニコがいた。
「何故、ここに……」
「レンさんに渡したあの黒い球には、転移魔法を発動するためのに必要な空間の座標決定と確保を行う魔法が籠められていたんです」
「転移、だと……?そんなことが」
「可能なんです。
転移する空間をレンさんに決定してもらって、そこの空間と私の居る空間を入れ換えればいいのです」
「いいのですって、そんな言葉では簡単に言えても簡単な魔法じゃないだろう」
「そうですね、私でなければ無理でしょうね。ふむ……」
クロニコは辺りを見回して目を細める。
「言いたいことが一つ出来ましたが、それは後です。私を呼んだ理由はあのシルバードラグーンですね」
「あぁ」
「ならばさっさと片付けてしまいましょう」
そう言うとクロニコはすたすたとシルバードラグーンへと歩いて行く。
「お、おい」
「レンさんは黙っていてください。『断つ世界』」
その一言でクロニコから滝のような量の魔力が発せられた。
その事に気づいたのかシルバードラグーンも目を覚ます。
眠りを妨げられて苛ついたようなドラグーンの視線をクロニコは風のように受け流すと、シルバードラグーンへと背を向けるようにこちらへ歩いて来た。
「グルル」
無視された事に怒りを覚えたシルバードラグーンはゆっくりと顔を上げ、クロニコへと噛みつかんと思い切り首を伸ばして、
真っ二つになった。
「は?」
思わず言葉が漏れる。
現実感の無い状況に一瞬幻覚かと思いそうになったが、シルバードラグーンはどくどくと大量の血を流して死んでいる。
「はい、終わりました。ではレンさん、お話ししましょうか」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。今のはなんだ?」
クロニコが何かしたのだろうが、全く見えなかった。
「今のは空間魔法の『断つ世界』です、私のオリジナル魔法ですね。詳しいところは説明しませんが、細い糸のような形に空間を固める魔法です」
「それだけであんな風に……」
「疑問は解けましたか?」
「あぁ」
「なら一つお尋ねします。レンさん、メリッサ嬢の姿が見えないようですが怪我などなされたんですか?」
「……いや、彼女は置いてきた。俺の問題に彼女を巻き込んで怪我をさせたくはない」
「そうですか……これは、私の見込み違いだったのでしょうか」
「どういうことだ」
「私が貴方にメリッサ嬢を任せたのは、彼女に守られるだけでなく、彼女を守れる器を持った者だからこそです。今の貴方にはそれが見られない」
「そうか……そうだろうな」
「認めるんですか」
「あぁ、器なんて俺には無い」
「そうですか……なにかあったんでしょうが……まぁいいです、私の言葉だけでは多分直りませんから。これ以上はここに居ても意味無いので帰ります」
「そうか」
「最後に一言」
「なんだ?」
「レンさんのその独善的な優しさはメリッサ嬢が望むような物なのでしょうか」
クロニコはそれだけを言い残して転移していった。その場に黒い球体を置いて。
「……メリッサと鉢合わせる前にここを出よう」
その黒い球体を持ち上げ、アイテムボックスにしまいつつ転移陣に向かう。
クロニコに言われた言葉はくしくも今朝アリア·ベルに言われた事と同じ事。
逃げている……望むものかどうか……
クロニコやベルとのやり取りが頭を巡る。
その為、転移陣のある部屋の中を探らないまま部屋へと入ってしまう。
そこには、怒りや悲しみ等の色んな表情を混ぜ混んだ顔のメリッサと花火が立っていた。




