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怠惰で勤勉な俺は旅に出る  作者: 渡鳥 陸
第二遺跡セカンダ
36/106

暴食と節制

 一人、転移陣に入る。


 朝早くなためか、幾人かの冒険者の姿があった。

 彼らが装備を確認しているのを横目に見ながら、俺は目的の場所へ向かう。


 道中の通路では敵には会わず、静まり返った通路の中で一つの壁に目を向ける。


「ここだな」


 魔力の流れを注意深く見る。すると、その壁の魔力の流れが他に比べて微かに多いことが分かった。


「はっ!」


 前蹴りを受けた部分は簡単に吹き飛び、偽りの壁はがらがらと崩れていく。

 現れた通路の先へ行くと、見たことのある扉があった。


 扉を押し開けて中を見る。


「当たりか」


 部屋にはあの黒い直方体が静かに佇んでいた。


 近づいて直方体に触れる。その瞬間ばちっと電流が背骨を通って脳へと走った。

 走った電気は脳から口へ、言葉となって飛び出してくる。


「暴食と節制を確認、統合します


 ……統合中


 ……統合中


 ……統合完了


 暴食と節制、及びそれに付随する機能の復旧を確認しました

 復旧した暴食と節制の効果についての説明を開始します


 暴食の大罪、出力を上げている間、貯蓄エネルギーの最大値を上昇させます


 節制の美徳、出力を上げている間、貯蓄エネルギーの最大値の8割分までの回復の効率を上昇させます


 以上で説明を終了します」


 終わったか。

 そう思っていたら、


「続いて記憶の統合を行います」


 と声が続いた。

 その声と呼応するかの様に意識が薄れていく。


「……統合中


 ……統合中


 ……統合完了、記憶を展開します」


 そして意識を保てず、俺は床に倒れこんだ。


 ▽ ▽ ▽


 ざわざわとした喧騒の中、連れもなく道を歩いている。

 道は石畳等ではなくアスファルトで舗装されていて、視界に映る自分の足は見慣れた安物の革靴を履いていた。

 道を行く人々はどれもこれも画一的で代わり映えが無く、建ち並ぶビルの無機質さと相まって世界が色を失ったようだった。


 これは記憶だ、俺が日本にいた頃の。

 やがて記憶の俺は歩みを止めて上を見上げた。


 頭上に広がる青々した空は壁のようにそびえるビル群によって手の届かないような高さに感じられて、自分が逃れられない檻の中に居るような、そんな感覚を味わっている。


 会社から家への帰り道、淡々と流れる時間と自分自身に疑問を持った時の記憶。

 あの時の俺も、今の俺のように何も感じること無く生きていたんだったろうか。


 記憶の俺はまた歩き出す。

 ……とその時、足下が急に輝き出した。

 目をやると金色に光輝く魔方陣のようなものが浮かび上がっていた。

 記憶の俺がその頃に気づくと同時にチャンネルが切り替わったように周りの景色が一変し、遺跡の中のような部屋が視界に映る。


 そこでその記憶は終わりだった。


 ▽ ▽ ▽


「はっ」


 跳ね起きる。

 そこは黒い直方体のあった部屋。


「あれは……いや、これ(、、)は日本の記憶……」


 黒い直方体に触れた事で思い出したのか?

 いや違う、確か気を失う前に「記憶を統合する」と言っていたな。ということは記憶は黒い直方体の方に封じられていたということ……


 何故?


 その一言が頭を埋め尽くす。


 何故、俺の記憶がこの黒い直方体の中にある?

 何故、この黒い直方体と同じ物から俺は出てきた?

 何故、この黒い直方体は各地にある?


 何故、何故、何故。

 その言葉がぐるぐると頭を周り続ける。


 分からない、理解できない。


「でも」


 今はまだ情報が足りない。


「なら」


 記憶を取り戻せばいい。


「世界を回ろう」


 今までは、ただメリッサに着いてきていただけだった。

 だが自分の中に、世界を回ろうという意志(、、)が表れた。


「メリッサか……」


 彼女を俺の問題に引き込むべきなのだろうか……


 その事を考えつつ転移陣のある小部屋へと向かう。


 ▽ ▽ ▽


「さて、どうするか」


 転移陣の小部屋の入り口の前には銀色の鱗を纏った竜が鎮座していた。


「あれはシルバードラグーンか……」


 シルバードラグーン――

 ドラグーン種において頂点に君臨する存在であり、遺跡の10層で稀に遭遇するような存在。

 その鱗には生半可な攻撃では傷一つ付かず、その防御力をいいことに守りを捨てて攻撃し続けるその狂暴さに幾人もの冒険者の心を折ったという。

 そのため、討伐事例は数える程しか起きておらず、その素材はとてつもない値で売れたらしい。


 そんなシルバードラグーンが小部屋の出入口の前で丸くなって眠っている。


「本当に、どうしようか」


 思わずため息が溢れるのだった。

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