危険の中へ
〈side:メリッサ〉
頭がぼーっとする、腕がびりびりと痛い、視界もぼやけてよく見えない。
私は何をしていたんだっけ。
えっと、確か皆で攻撃してたらレンが叫んで……
そしたら尻尾が目の前に迫って来ていて……
そうだ、尻尾だ!レッドドラグーンの尻尾を腕でブロックして弾き飛ばされたんだ!
レンは!?レッドドラグーンはどうなった!?
メリッサがばっと顔を上げると、ぼやけた視界いっぱいに広がる赤色と、それに飲み込まれそうな小さな黒色が映った。
だんだんと視界が鮮明になっていく。
赤だった物は炎に、黒だったものは人の影に。
炎の前に立つその雄々しい後ろ姿はまさしくレンのもの。
レッドドラグーンのブレスを魔法で産み出した水の壁で防いでいる。
その姿を見て私は、心が温かくなるとともに、不安になった。
リビングアーマーの気を引くために無茶をしたレンの姿を思い出してしまったから。
あんな風に無茶していたら、いつか居なくなってしまうのではないかと思ったから。
「レ……ン」
呼び止めようとする声は掠れていて、炎の立てる騒音に掻き消される。
立ち上がろうと力を込めるが、まるで力が吸われているかのように立ち上がれない。
声も届かず、動けもせず、ただ背中を見ているだけ。
その時、レンが動いた。
水の壁を更に作り出すと、その水の壁ごとブレスに飛び込んで行ったのだった。
「レン!」
私の声は多分レンには届かない、それでも叫ぶことは止められなかった。
〈side:飛風 練〉
焼かれている。
ブレスを遮っている水の壁は、蒸発して着々とその厚さを失っていく。
逐次補充しているが、自分の魔力出力ではたいした効果にはならない。
あと少しが遠い。
水の壁が殆ど消えかけたとき、大きく開いた口が見えた。俺はすかさず剣を大きく引き絞り、その口へ刺し貫く。
「ガァアアアアアア!!」
ブレスが止む。レッドドラグーンが怒りのこもった目を向けてくる。
「痛いか?でももう終わりだ。『雷』」
突き刺した剣に貯まっていた魔力が電気に変わりレッドドラグーンの血に乗って身体中を焼いていく。
レッドドラグーンは声を上げる間もなく身体についていた傷から黒煙をあげつつ息絶えた。
それと同時に部屋の奥の大きな扉が音をたてて開いていく。
そんなことよりメリッサと花火だ。
「メリッサっ、花火っ」
「レン!」
ふらふらしつつもしっかりと立っているメリッサ、壁際にいる花火も意識が戻ったらしくキョロキョロしている。
良かった。
そう思っていると、メリッサが歩いて来て。
がっしりと抱きついてきた。
「レンの馬鹿!バカ!ばかぁ!」
「メリッサ?」
「また無茶して、私を助けて、自分一人傷ついて。死んじゃったらどうするのさ!」
「……すまない」
「無事でよかった、よかったよぉ」
花火が寄って来るまで、しばらくメリッサは泣き続けた。
▽ ▽ ▽
「泣き止んだか?」
「うん」
冷静になって、抱きついて泣いていたことを思い出したのか、メリッサの顔は真っ赤になっていた。
「体に問題は無いか?」
「飛ばされただけだから私は大丈夫」
「ワウ」
二人とも大丈夫そうだ。
「そうか大丈夫か……今日は帰るか」
「そうだね」
開いている扉をくぐり、淡く発光している泉に入る。
一瞬にして景色が一階の大きな空間になる。
何時もより少し暗い道を通って宿へ帰る。
「ねぇ、レン」
「なんだ?」
「またこんな無茶しないでね?」
「……あぁ」
メリッサのその問いに、俺はしっかりと断言することはできなかった。
▽ ▽ ▽
そして朝。
メリッサはすやすやと寝息をたてている。
「……すまないメリッサ」
俺は支度を整えると静かに部屋を出た。
中庭に出る扉の前を通ってカウンターへ向かう。すると、前からアリア·ベルが歩いてきた。
「おはようございます、こんな朝早くから出掛けるんですか?」
「あぁ、少しな」
「少し、ですか……そのわりに重装備ですね。他の方は?」
「……」
「そうですか、それが貴方の考える優しさなんですね」
「俺の問題で彼女が傷ついて欲しく無い」
「なるほど、私は部外者なので特に口出しは出来ませんが、これだけは一つ。貴方のそれは善意ではなく、逃げているのではないでしょうか」
それだけ言うとベルはそのまま歩いていった。
「……逃げている、か。確かにそうだな。だが……」
メリッサを傷つけないためには、俺が離れなくてはならないんだ。




