三日月
遺跡内
「目的の場所まで来たんだが、これは外れか?」
「うーん、魔力の流れとかは見えないね。多分外れだと思う」
「そうか、はっ」
とりあえず回し蹴りをしてみるが壁はびくともしない。
「効いてないな」
「そうだね、じゃあ周りの壁に仕掛けとかないか探そうか」
「あぁ」
結局、今日の探索は外れだった。明日も同じく探索しないといけないので、そのまま宿に帰る。
「あぁ、そうだった。ベッド一緒だったんだ……」
部屋に帰ってくるなりメリッサがそう呟いた。
「やはり俺はソファーで寝るか?」
「いや、いいよ。……『誰か』に聞きたい事も残ってるし」
「ん?後半何て言ったんだ?」
「一人言だから気にしないで」
「そうか、それならいいんだが」
なんというか、今朝から時折メリッサの様子がおかしいんだがどういうことなんだろうか。
そうは思いながらも本人に聞く事なく眠りについてしまった。
そして次の日の朝、またもメリッサがぼーっと呆けていた。
メリッサは朝に弱いのだろうか。
「メリッサ、起きてるか?」
「何も無かった……」
寝ぼけているのか?だが何も無かったとは何の事だ?聞いてみるか。
「何も無かったとは?」
「『誰か』が出てこなかったよ……」
「その誰かとは誰だ?」
「『誰か』とはって……ふぇ?れん?」
惜しい、起きてしまったか。いや、でもとりあえず誰かが誰なのかは聞いてみるか。
「あぁ、練だが。誰かとは誰の事だ?」
「な、何でレンが『誰か』のことを!?」
「メリッサがさっき自分で言ってたじゃないか」
「ほ、本当?」
「本当だ。それでその誰かとは」
「あー!あー!えっと、夢!夢の中の話だから!聞かないで!」
「そうなのか?なら聞かないが」
「それよりも、着替えるから!レンは花火を迎えに行ってて!」
「あぁ」
ひとまず部屋を出る。
しかしあの慌てよう、誰かとは何なのだろうか。
そう考えながら通路を歩いていると、中庭への扉に着いてしまった。
「花火、行くぞ」
声をかけつつ扉を開き中庭を覗きこむ。そこには昨日のように睨み合いをしている一人と一匹の姿があった。
というかやっぱりなんなんだろう、これは。
「うふふ、花火くん、花火くん」
「グルルルルル!」
互いに静かに向かい合って動かない。
「女性の方は出方を窺っている、狼さんは様々にフェイントをかけていますね」
急に横から声がしたので、振り向いてみるとカウンターの少女だった。
「何を少し驚いた顔をしているんですか、私だってカウンターから離れますよ」
「そんな顔しているのか?俺は」
「さぁ?そもそもずっとあの勝負を見ているので、あなたの顔なんて見ていませんし。でも、私がカウンターを離れているところを見た人は大抵そんな顔になりますので」
「そ……そうか」
「あ、動きますよ」
花火が駆ける、アリア·ベルがとびかかる。
「あれは、ベアハッグですか。あの飛び込みのスピード、やりなれていますね」
花火はベルのベアハッグに対し、後ろ宙返りで回避をする。
「左右を見せての上下での回避……綺麗です。しかし、この回避方法では仕切り直すだけ……どうするのでしょうか」
もう一度ベルはベアハッグに行く。花火も同じく駆ける。
花火は途中で止まり、体を沈みこませる。
「もう一度ですか?ですが……」
「ベルの方は既に後ろ宙返りに追い付けるように腕を上げているな」
「このまま跳べば捕まります」
花火は体を深く沈ませたまま、前に跳んだ。
花火はベルの股下をすり抜けて此方へと向かってくる。
「股抜け!なるほど!」
「一回目の後ろ宙返りはこれをするための布石か……」
「対処するために腕を少し早めに上げる、そうすると本人では気づかない死角ができる。そこを突いたいい作戦でした」
「ワウ!」
花火が嬉しそうにすりよってくる。
「よしよし、花火。ほら、朝ごはんだぞ」
花火に右手を差し出す。
かぷっとされて魔力を吸われる。
「レンー、準備できたよー……って、またこの状況?」
「今日は私もいます」
「カウンターの女の子?なんで?」
メリッサの疑問に答える事なく、
「それではレンさん、楽しかったです。狼くんもよく頑張りましたね、久しぶりに面白い物を見せて貰いました。それでは業務に戻ります」
カウンターの少女は花火を撫でるとそのままフロントの方へ戻っていった。
「え?レン?どういうこと?どういう状態?ねぇ!」
「どういうことも何も、ただアレを一緒に見てただけなんだが」
「本当?」
「あぁ」
「そう……じゃあいいけど」
「分かってくれたならいい。じゃあ行くか」
「ワウ!」
急に花火が吠えた。
「あ、そうか。遺跡の前に花火の首輪貰ってこないとね」
「どんなのができているんだろうな」
▽ ▽ ▽
「ということで来た。できているか?」
「おう!できてるぞ!今奥から取ってくる」
おっさんはカウンターの奥から持ってきた革の首輪を花火にはめる。
「後はここをこう調節して……よし!これで立派なテイムモンスターだな!」
「どれどれ?わぁ、可愛い!」
「そうだな、よく似合ってるぞ花火」
「ワウ!」
茶色く、がっしりとしたシンプルな作りの首輪の中央で、金属でできた三日月形の飾りが光る。
華美じゃないからこそ、首もとで光る可愛らしいワンポイントが際立って見えた。
「なぁ、兄ちゃん」
「ん?なんだ?」
「あんた、ブーメランを魔力タンク代わりに使ってるんだよな」
「そうだが」
「そこでだ、こんなもの作ってみたんだが」
おっさんが取り出してきたのは木でできた六角柱。その六角の面に花火の飾りと同じ形の飾りがあしらってあった。
「これは?」
「これはなぁ、魔法の杖の端材で作った物なんだ。だから今までより多くの魔力が貯められると思うんだが」
「端材の有効活用か」
「あぁ、長さを揃える為に切り落とした原木の端を削って作ってる」
「魔力、籠めてもいいか?」
「おう、やってみてくれ」
許可を得たので魔力を流す。
「これは……ブーメラン三本分か……」
「ブーメランが単位なんだな……」
「これは良いな、今まで三本以上の魔法を使うときは両手をブーメランで一杯にしなきゃならなかったからな。これなら腰のベルトとかに吊るしておいて、必要な時に片手で引き抜いて使えそうだ」
「そうか、なら買うか?一本銅貨10枚だ」
「いただこう」
「なら二本買って行かないか?それならおまけで更に一本付けるぞ?」
「本当か?なら二本買って行く」
「毎度」
「この三日月の飾りも綺麗だしな。本当に良い品だ」
「あ……それ……ブーメランがモチーフなんだが……」




