忍び寄る影
花火を迎え、なんだかんだで周囲が暗くなってきてしまったので、今日はここで野宿をすることにした。
そこら辺の柴を集めて盛る。更に、その横にY字型をした金属棒を二本突き立て、そこに金属棒を通した鍋を掛けて鍋を柴の上に持ってくる。
「よし、完成か。後は火だな」
「いやいや、なんで鍋に水を汲む前に吊るしちゃったの?」
「ん?何か問題があるか?」
「これで何を煮るのさ、水も入って無いのに」
「水ならこうすればいいだろ」
ブーメランのもう片方の先を鍋に向け、その先に水の塊が存在するようにイメージする。すると、ブーメランの先に水球が現れて空中に浮かびだす。そこで流れる魔力の接続を切る。それと同時に、浮かんでいた水の塊は鍋に落ちていき水音を立てる。
「あ、そうか。水魔法なんて上手く使えないから忘れてたよ。それじゃあ私は火を起こすね」
そういってメリッサは背負っていた麻袋から何かを取り出そうとごそごそとし始めた。
「何探してるんだ?」
「何って?火打石だけど……あれー?どこにやったかな」
「これでいいんじゃないのか?」
今度は、ブーメランの先を柴に向けて弱めの火魔法を放つ。火は柴に灯り、やがてパチパチと音をたて始めた。
「な、なんだろう。えーっと……あれ?ブーメランって単なる投擲武器だよね」
「そうだな、どうした?」
「そうだよね、魔法用の道具じゃないんだよね。なんか、あまりに変な使い方をしてるから……」
「そうか?……いや」
最近使った使い方を近い方から思い出してみると、先ほどの着火&水の生成をしたり、襲いかかってきた花火をぶっ叩いたり、クロニコ戦で魔力タンクとして使ったり、そこで二回ほどちゃんと投擲はしたはずだが……確かに正当な方法でブーメランを使っている回数の方が少ない。
「……正しくブーメランを使って無いな」
「気付いて無かったの!?……レンって時々どこか抜けているよね」
「それを君には言われたく無いんだが」
「それってどういうこと?ねぇ……」
「ワウッ!」
メリッサの言葉を花火が寸断する。
「どうした花火、暇なのか?」
「ワウッ!」
「そうか……どうするか」
「私は晩御飯を作ってるよ」
「あぁ、頼む。そうだな、よし花火、体を洗うか」
「ワウ」
花火を、焚き火から少し離れた所へ移動させる。そして腰から又ブーメランを引き抜く。
「正しく使ってないって気付いても結局それなんだね」
「魔法は万能だからな」
ブーメランの先っぽからお湯を出すイメージをしつつ魔力を流し込んでいく。だばだばとあふれでたお湯が花火の毛を濡らしていく。
「すまんな花火、洗剤やブラシなんかは揃えてないからこうやって手で洗うしかできなくて」
「ワウ?」
それの何が問題なの?というような感じで小首を傾げる花火。
俺もメリッサもしばらく作業を続ける。花火はされるがままだ。
「よし、出来た。次は乾燥か」
今度はブーメランの先から暖かい風を出して毛についた水気を落としていく。
「こっちもできたよ」
木の椀にほくほくと湯気のたつ汁がよそわれていく。
「花火にはこれかな?」
メリッサは木の椀にふやかされた干し肉を入れた物を地面に置く。
椀が地面に置かれた瞬間に花火はそわそわとし始め、尻尾をぺたんぺたんと地面に叩きつけ喜びを露にする。
「待ってろな、すぐ終わるから。待てよ。よし、終わった」
許可とともに飛び出す花火。余計な油っ気が無くなってふかふかになった体を震わせて、肉にかじりつく。
「わぁ~かなり綺麗になったねぇ。はいレンお椀」
メリッサからお椀と木の匙を受け取って一口啜る。
「旨い」
「本当?良かった」
メリッサは可愛らしい笑顔を見せる。
「それでだなメリッサ、花火の加入もありここで野宿することになったわけだが、野宿の時のセオリーはどんな感じなんだ?」
「セオリーねぇ、ここで野宿する場合は山賊に襲われる事が有るからちゃんとローテーションで眠る!って位かなぁ、そもそも野宿の場合はローテーションで眠って安全を確保するべきなんだけどね」
「平時より少しだけ山賊の襲撃を意識して眠れというわけか、順番はどうする?」
「レンが先に休んでいいよ、休憩せずに行う歩哨が一番辛いからね。まぁ、慣れたら交代していってもらうから」
「あぁ、そうさせてもらおう」
「あと花火もレンと一緒かな?」
「ワウ」
「まぁ、山賊に襲われるなんて滅多に無いことだから大丈夫だよ」
「そうでありたいものだな」
メリッサの言葉に一瞬『旗』という言葉が浮かんできたが、それが何を現すかは思い出せず。俺は椀に残った汁を飲み干した。
▽ ▽ ▽
焚き火を囲う男性と女性、そして男性の傍に丸くなっている一匹の狼。それを良く眺められそうな位置にある茂みが風も無いのに微かにざわめいていた。




