卒業試験(表)
俺はクロニコに勢い良く駆け寄る。
「遮れ黒壁」
クロニコの言葉に応じるように、何も無い場所に真っ黒な壁が現れる。
「でた!宵闇の代名詞の闇魔法!」
「あんな速度で魔法を発動させるなんて凄いぞ!だが闇魔法には実体が無い、どうするんだ?」
そう、闇魔法は実体が無い、しかしクロニコの魔法が危険なのは師事していた俺が良く知っている。
俺は魔力を流して魔法を使う。全力で魔力を流したはずなのに、現れたのは手のひらで握りこめる程の小さな氷の礫。俺はそれを掴んで黒壁に放り投げる。
勢い良く飛んでいく氷の礫は黒壁に当たって跳ね返る。
「なんだ!?闇魔法に実体は無い筈だぞ!?」
やはりか、クロニコは土魔法の表面を闇魔法でコーティングしてるな。それにしても二つの魔法を同時にあの速度で構築するか、前々から思っていたが化け物だな、あの人は。
そんな事を考えつつも、俺は走り込む勢いのままに跳ぶ。黒壁の上に足をかけ、それを蹴飛ばす事でクロニコとの距離を急速に縮める。
「やはりここは越えて来ますよね、そうでなくては困りますが。じゃあ次です、来い黒玉」
クロニコの周りに無数の黒い玉が浮かぶ。その内の二つがこちらに向かって飛んでくる。俺は転がるようにしてその二つの玉を回避する。
今のは何とか避けられたが、数を増やされれば近づけなくなる。何か対処しなければ。
そう思い、氷の礫をもう一度生み出していく。
少しずつ氷の礫が俺の周りに生成されて漂い始める。
「まぁ、準備が整うまで待つ訳には行きませんよね。当然」
こんどは四つの黒玉が飛んでくる。ひとまず準備が出来た氷を飛ばして対応する。
ガチン、と音がしてはじめに正面衝突した氷の礫が弾かれた。
「駄目だった!レンの魔法ではクロニコの魔法には競り勝つ事は出来ない!」
そんなことは百も承知である。俺が氷をぶつけた理由は他にある。
「他の魔法も弾かれ……無い!?すり抜けていく、どういうことだ!?」
いくら魔法の名手といっても、魔力量に限界はある。そんな中で相手を消耗させるにはどうすればいいか。それはブラフ、嘘である。あの無数の黒玉の中で土魔法によって生成された実体を持つ玉は少ない、だから。
「レンは初弾だけかわして後はお構い無しに突っ込んでいく!」
「あの氷はダメージを受ける玉を見分ける為に飛ばしたんだな!」
「そうですか、それなら」
クロニコは更に数を増して六つの玉を飛ばして来る。俺は先程と同じように氷の礫を飛ばしてブラフかどうかを判断する。
弾かれた玉は二つ。その二つに意識を向けて、その二つを回避しようとする。
「おや、いいんですか?それで」
そう呟いたクロニコの声が聞こえてきて、俺は何かを見落としている感覚を味わう。
飛んでくる黒玉全てに意識を向ける。しかし相変わらず黒玉は真っ黒なまま、氷の礫も四つすり抜けている。
いや、何かがおかしい、何だ?
その感覚の内容が分からないまま、黒玉は飛んでくる。俺はひとまず全ての黒玉を回避する事にした。
ガリガリと訓練場の土を削るようにブレーキをかけ、その場で踊るように黒玉を回避する。
未知であるすり抜けた黒玉の回避に専念し、土魔法の玉と確定した黒玉は受け流して対処する。
全てを回避し終えて走りだそうとするが、その時にはまた六つの黒玉が飛んでくる。
もう一度氷の礫を飛ばす。また二つ弾かれて四つすり抜けた。
クロニコの言葉もブラフか?なら突っ込んでみるか。氷を引き戻しつつそう考える。
ん?微妙に思っていたコースと違うルートで戻って来た氷の礫があるな、操作を誤ったか?そう思いつつ走りだす。
それにしてもあの黒玉は厄介だ、何を中に仕込んでいるか分からない。もし模擬戦で無ければ火の魔法等さえ入れられるのだ、初見の決闘相手であれば火だるまでおしまいだろう。
そう思った時に何かが繋がった気がした。直接命を奪いきる事の少ない魔法、それは土魔法だけではない。風や水の魔法も使い方によってはダメージを少なく出来る。
!
さっき、コースを外れて戻って来た氷をすり抜けた黒玉は!?
気づいた時には遅かった、その黒玉は既に懐に入り込んでいたのだ。
「ようやく気づきましたか、でも遅いです。解放」
その言葉に反応して黒玉が弾ける。
勢いのよい風に吹き上げられて地面を転がさせられる。
腕を交差させる事で威力を落としたがそれでも防ぎきれず頭が揺さぶられた。
足がふらついてすぐさまは立ち上がる事が出来ない。
「まだ、ですね。まだ強者とは認められないみたいです、ですから頑張ってください」
そう言ってクロニコは黒玉を飛ばして来る。とりあえず氷の礫で確認する。
黒玉の数は四つ、そのうち弾かれたのが二つ、ネジ曲がってすり抜けたのが二つ。
先に飛んできた土魔法入りの黒玉を叩き落とす。そのあとで両手に溜まっていた魔力を一つずつ、風の魔法入りの黒玉に叩きつける。
「「解放」」
俺とクロニコ、二人の言葉が重なる。同じ威力の風魔法が逆方向に力を掛け合い相殺される。
急場はしのいだ、時間が経過し足の感覚も戻ってきて立てる様になった。
「次です」
クロニコの黒玉は更に数を増して八つ、俺が出している氷の礫の数より多い。
黒玉は次々飛んでくる、俺はそれに対して氷を当てずに避ける。
「全部避ける事で氷を攻撃にでも使う気ですか?ほらほら避けないと当たってしまいますよ?」
次の玉は回避せずに進む。黒玉の中は何も無いはずだから。次の玉は風の魔法が入っているから避ける。次は土、回避、次は空、直進。
「氷をぶつけずに判断している!?どうやって!?」
クロニコの問には答えずに走る。この時の為に使わないでおいた氷の礫を一直線に並ばせ、解放する。
氷は融解して水になり空気中に散らばっていく。そこに、右手に溜めておいた魔力を右手ごと突っ込んで魔法を使う。
閃光と爆音。クロニコに水が届かなかった僅かな空間を雷は光とともに駆ける。
まともに食らったと思われるクロニコは片膝をついた。
やったか?
そんな言葉が脳裏をよぎった。
しかし、その瞬間。
「月の無い夜」
そう詠唱したクロニコの声が聞こえたのだった。




