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怠惰で勤勉な俺は旅に出る  作者: 渡鳥 陸
遺跡へ続く町フラット
22/106

お礼参り

「そんな訳で、俺の感情を取り戻すために世界を回ることになった。あんたの好意を無駄にするような形で申し訳ない」


 俺は深々と頭を下げた。



 俺が倒れた後は特に何も無く――いや、メリッサが二匹ほどドラゴンに喧嘩を吹っ掛けはしたが――遺跡から帰ることができて、ギルドに解体したドラゴン達の素材を買い取って貰った。

 結構な量だった為に日は傾いてしまい、町を離れるという報告は後日ということになった。

 ということで、俺は教会へ帰って神父に事のあらましを報告し、今の場面にいたるのだった。



「いえ構いませんよ、レンさんの感情を取り戻す為なんでしょう?それを応援しなければ神父として終わってますよ」


「本当に世話になった、ありがとう」


「いえいえ、こちらこそ。レンさんのお陰で教会が見違えるように綺麗になりましたから」


「あれは契約を守っただけだ、いや、筋肉痛で最初の数週間は動けなかったから契約も履行できていないんだが」


「まぁ、もともと私一人で掃除できていた訳ですし大丈夫ですよ」


「だが……」


「ならこうしましょう、契約の変更をします。感情が全て戻った完璧なレンさんの姿を見せに来ること、それができなかった数週間分の掃除の対価です」


 神父が提案したそれは破格の内容、いや元の内容からして破格なだったのだ、それをこちらの都合で契約を破棄しようとしているのにこの対応。


「申し訳ない」


 俺はそれしか言葉が浮かばなかった。


「いえいえ。さて、話は一段落付きましたし夕食にしましょうか。明日はお礼行脚ですし、体力は付けておいたほうがいいですしね」


 そう言って神父が出して来た料理は、何時もと変わりなく美味しかった。



 そして翌日。

 旅へ出る事を報告する為に、俺はメリッサとともにギルドを訪ねた。


「すまない、旅をするために町を離れたいんだが」


 ちょうど空いていた受付の人にそう話す。


「はい、分かりました。冒険者活動の一時停止ですね、ギルドカードの提示をお願いします」


 ステータスからギルドカードを引き抜いて受付に提示する。


「トビカゼ レンさんですね、承りました」


 俺に続いてメリッサも受付に話かけようとする。


「あれ?メリッサさん、どうなさいました?」


「えっと、私も旅に出ようかと……」


「えっ!?メリッサさんもですか!?」


 受付の声がギルド中に響く。

 辺りにいた冒険者達が一斉に振り返る。


「うん、そう。だから手続きよろしくね、はいギルドカード」


「メリッサさんまで旅に出るなんて、寂しくなりますね」


 周りで聞き耳をたてていた男達の顔が一斉に険しくなる。

 メリッサの隣にいた俺に貫くような視線が次々と刺さる。


「ではカードをお返しします」


 俺とメリッサのカードが一緒に返される。


「レン、次はどうする?」


 先程からの視線に気付かないメリッサは呑気に声をかけてくる。


「一旦別れてお世話になった人にお礼しに行くか」


「そうだね、じゃあ終わったら教会で待ってるから。またね」


 そう言ってメリッサはにこやかな笑顔で去っていく。


 さて……


「よぉレン、ちょっと(ツラ)貸せよ」


 メリッサが居なくなってすぐに、そこにいた厳ついスキンヘッドの冒険者が声をかけてきた。


「嫌だと言ったら?」


 その言葉に反応するかのように辺りの空気が張り詰めていく。


「ここにいる15人全員でだな……」


「いや、いい、分かった。相手をしよう。得物は?」


「無しだ、そっちのほうが楽しめる」


「そうか」


 男は練習場の方へと歩き始める。

 俺も隣に並んでついていくが、その後ろから他の男の冒険者達も一緒に練習場へやってくる。


 練習場で向かい合う俺とスキンヘッド。

 その周りを男達が囲む。

 その視線はまとわりつくように重く熱い。


「準備は完了だ、何時でもかかってこい」


 俺はスキンヘッドの男にそう合図する。


「上等だぁ!!おらぁ!」


 スキンヘッドはその言葉を聞くと同時に殴りかかってくる。

 俺はその腕に右の手のひらを当て、少し力を加えてスキンヘッドの拳を流させる。

 スキンヘッドの拳は俺の頬の直ぐ横を掠めるも、当たりはしない。

 スキンヘッドの空いた体に左手をかけて、反時計回しに力を加えるとともに右足でスキンヘッドの足元を払ってスキンヘッドを転倒させる。

 そのまま倒れたスキンヘッドの頭に拳を振り下ろす。


 寸止めした拳の先では、スキンヘッドが悔しそうな、安心したような複雑な顔を浮かべていた。


「あぁ、負けちまった」


「満足か?」


「俺は満足だ」


 俺()か。


「はぁ、本当にまたアレをやるのか?」


 そう問う俺の言葉にさっきまで黙っていた観衆がにわかにざわめきだす。


「やるに決まってるだろ!」

「お前だけ良い思いしやがって!」

「メリッサちゃんを任せられるか試してやる!」


 観衆は口々にそう言い、収まる気配は無い。


「分かった、やってやるからかかってこい。次は誰だ?」


「おう!俺様だ!」


 片目に傷を負った大男が出てくる。


「合図はしない、終わったら次々かかってこい」


「それじゃあ!はっ!!」


 大男が殴りかかる。

 こうして第二回レンがメリッサちゃんに釣り合うか試し大会は幕をあげるのだった。


 ▽ ▽ ▽


「おおっと!レンが細かいジャブを避ける避ける!」


 スキンヘッドがレンの動きを実況する。


「あの攻撃を全て紙一重でかわすってのは余程の自信が無い限り無理だな!」


 大男がレンの凄さを解説する。

 レンを囲む集団は祭りのような盛り上がりを呈していた。


「今回で第二回のメリッサちゃんに釣り合うか試し大会!ルールは簡単、レンが他の冒険者と一対一で真剣勝負!有効打になりそうな攻撃は寸止めする、以上!ついでに言っておくとレンに休みは無いぞ!」


「前回は十三人抜きしたレンが今回は何人抜けるのか見物だな!」


 メリッサを盗られる悔しさからか全体的に前回より挑戦者それぞれの気迫が物凄い。

 それに煽られるように周りの観衆のボルテージも上がっていく。


「レンが右のストレートをとって投げた!これで十人抜き!」


「綺麗な投げだな!三ヶ月前とは比べ物にならないぞ!」


 三ヶ月前、メリッサとトレーニングし始めたレンの事を知らない冒険者はこのギルドにはそう居ない。初めは初心者丸出しだったレンがメリッサの地獄のようなトレーニングによってぐんぐんと実力を伸ばして行くのをこの冒険者達は知っている。なんだかんだでこの冒険者達はレンの成長を見ることも楽しんでいるのだった。まぁ、それでも目に浮かべるのはメリッサを独占することになるレンに対する羨ましさの色なのだが。


「おぉ!レンによる恐ろしく速く鋭い手刀!俺じゃなくちゃ見逃しちゃうかもな!」


「寸止めだから誰にでも見えるぞ!」

「秒殺野郎に見えんだから誰にでも見えんだろ!」


「うるせぇ!お前らも秒殺だろうが!」


 スキンヘッドと観衆の一部が言い合いを始める。

 そんなことをやっているうちにレンはどんどんと挑戦者を倒していく。


「十二人抜き!これは前回記録を軽く越えて来るか?」


「先月よりも更に技が洗練されてるな!素晴らしいぞ!」


「次は誰だ」


 息も切らさずレンは尋ねる。


「誰かやってないやつは居るか?」

「これ勝てんのかな」

「ここまで強く成られちゃなんかもう憎くないんだが」


 周りがざわめく。するとそこに。


「じゃあ私がやりましょうか」


 と、この盛り上がりにそぐわない落ち着いた声が聞こえた。

 その声を聞いた途端、レンは先程以上にしっかりとした覇気を纏いだす。


「な!あんたは!宵闇のクロニコ!?」


 人混みが別れて歩いてきたクロニコにスキンヘッドは驚愕する。

 クロニコと目が合うと、レンは深々と頭をさげた。


「今まで世話になった。裏切るようですまないが俺はメリッサと一緒に旅に出る事になった」


「大体の事は把握しています、ですからメリッサ嬢を連れて行くことは咎めません。彼女たっての希望ということでしたしね。ですからこれは魔法の先生としての最後の卒業試験という物だと思ってください」


「内容は?」


「私に三ヶ月の成果を見せて納得させることです」


「納得?」


「理性的な面では納得しているのです、ですので今回はそれよりもっと野生的な面。本能が貴方を強者と認めるかどうかと言ったところでしょうか」


「分かった、合図は?」


「無しで構いませんよ」


「そうか」


 そう言うとレンは勢いよく走り出すのだった。

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