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怠惰で勤勉な俺は旅に出る  作者: 渡鳥 陸
遺跡へ続く町フラット
20/106

もう一度遺跡へ

 目の前には全てを飲み込まんとするかのように、大きく口を開くファスタ遺跡。

 周りの木々は以前と変わらず鬱蒼と茂り、まだ朝早く昇りきっていない日の光を遮っている。


 またこの遺跡の入り口へ戻ってくるとは思ってもいなかった。


 隣にはあの時と同じ格好をしたメリッサが立っている。

 唯一変わったと言えば自分自身か。

 あの変態ルックだった頃が懐かしいような気がする。


「レン、いくよ」


「あぁ」


 入り口をくぐる。


「それでレン、どうする?一階毎に探索する?それともレンのいた所を先に見てみる?」


 何故だろう、自分が元いた場所に何かが残っている気がする。


「一度俺のいた場所を見てみたい」


「そう、じゃあそうしよう」


 メリッサは転移魔方陣の泉に足を踏み込んで行く。

 その後について泉に入る。

 初めて使った時には分からなかったが、泉の中には膨大な量の魔素が満たされていた。


「こんなにも凄い量の魔素を使って人を転移させるような魔法を――それも人間ではない――魔方陣が行うのか」


「でしょ、なんでもないことのように見えて、魔法の原理を知ってみるとその凄さが良く分かるんだ」


 思いの力で魔素を操り、魔法として使う。

 その為、魔法というのは、基本術者が近くに居なければならない。

 簡単な魔導具でさえも、上位の術者がかなりの思念を籠めて、それをその道具に定着させて漸く作成される。

 それなのにこの魔方陣は使いたいと願うだけで簡単に転移する事ができるほどの高性能な魔法が籠められている。

 もし、こんなものを作ろうとするのなら、描いた魔方陣に沢山の人の死ぬほどの思いを刻みこまなくてはならない。


「そう考えると薄ら寒いな」


 そう、一人呟く。


「レン?跳ぶよ?」


「あぁ、やってくれ」


 景色が歪む。


 歪みが収まるとあの階段があった。


「よし、じゃあレン装備を確認して」


 そう言うとメリッサは自分の装備を確認していく。

 俺は、とりあえず一本のブーメランを引き抜いて、魔力が貯まっているかを確認する。


「あれ?レン、そのブーメランどっから出したの?」


「ん?これからだが」


 そう言って左袖に付いている小さな鉄色の巾着袋を見せる。

 マインスパイダーの縦糸をファイアフロッグの耐火液に浸けたもので織ったらしく、丈夫な上に耐火性にすぐれる一品である。


「え?これ?」


「そうだ、これはクロニコ特製の魔導具らしい、空間魔法によって中の空間を拡張しているらしい、巾着の口を通れば結構広い空間があるらしいぞ」


「これが、魔導具?クロニコ製?え、えぇ?ええええええええ!?」


 これはあと数年は魔法を籠め直さなくて良いらしい。やはりクロニコの魔法技術は凄いな。


「ついでに言っておくと、メリッサと戦った時のブーメランもここから出していたし、今も入っている」


「えっと、いくつ入ってるの?」


「120枚」


「ひゃっ、120枚!?」


「そうだ」


「はぁ、なんか最近君に驚かされてばっかりな気がするよ。3ヶ月で進化しすぎだよ」


「そうか」


「そうだよ」


 そんなやり取りをしている間に、武器や防具の確認が終わった。


「確認終わったね、それじゃあ行こうか」


 隠密を発動したメリッサがその気配を薄くする。


「そう言えば隠密は教わってないな」


「基本は町の近くで襲われた時用の体術や剣術だったからね、遺跡に入る為の隠密は教えてなかったね」


「まぁ、後で教えてくれればいい」


「そうするよ」


 話が終わって言って動き出したメリッサの後に着いていく。


「レン止まって」


 しばらく歩いていると、とある曲がり角で立ち止まったメリッサがそう告げてくる。


「敵か?」


「うん、多分パラライズスネークが一匹。どうする?試しに戦ってみる?」


「そうだな、連携の確認をしたい」


「よし、じゃあ私が前にでるから援護お願いね」


「任せろ」


 メリッサが前に立ち、構える。

 すると直ぐに胴回り90センチ程もあるパラライズスネークが角から顔をだす。


「メリッサ、足を止めるから攻撃を頼む」


「了解!」


 俺はブーメランに魔力を流して、ブーメランの中に貯めていた魔力をひきだし、その魔力を魔法に変えて放つ。


「凍れ」


 魔法の内容を聞かれてレジストされる心配が無いため、遠慮なく詠唱を行える。

 意思を言葉に乗せて発する事で魔法は威力が増加する。

 ブーメランから飛び出した氷の球がパラライズスネークに当たってはじけ、それと共にパラライズスネークの体が凍りついて霜が降りる。


「らぁ!」


 メリッサのハイキックが動きの鈍くなったパラライズスネークの頭を弾き飛ばす。

 俺は、足を振り抜いたメリッサと入れ替わる形で走り寄り、壁に叩きつけられたパラライズスネークの頭を剣で切りとばす。

 蛇の類いは、頭を切り落としても少しの間体が動く可能性があるので距離をとる。

 そうやって蛇の体が動かなくなったところで俺達は構えをといた。


 戦いが終わるとともに腰に差しているブーメランを一本取り替える。


「凄い一撃だね、パラライズスネークの動きがかなり鈍くなったよ」


「凄いか?ただ冷やしただけだぞ?」


「冷やしただけ?」


「あぁ、あまり攻撃力は無い魔法だ」


「それじゃあなんであのパラライズスネークは動きが遅くなったの?」


「それは……すまん、覚えてない」


「そう、じゃあ思い出した時に教えて貰おうかな」


「もし思い出せたら、その時は教えよう」


「約束だよ?」


「あぁ、約束だ」


 そんな約束を交わしてパラライズスネークが出てきた角をまがる。しかし、メリッサが直ぐに足を止める。


「あ、ドラグーン系が来る」


「どうする?次は俺が前の時の連携を確認してみるか?」


「いいよ、目一杯の援護を見せてあげましょう!」


 メリッサはそう言って構えをとる。

 赤い色で全長2.5メートルほどのドラゴンが通路の先の分岐路から出てきた。


「レン!相手の視界を奪うよ!」


 そういうとメリッサは詠唱を始める。


「この手に閃光を!光輝け私の魔力!フラッシュ!」


 そんな言葉とともに、メリッサは手に現れた魔力の球を投げつける。

 その球は、ドラゴンと俺の間に落ちて、目も開けていられない程の閃光を放った。


「グルルアアアアア!!」


 目を焼かれたらしいドラゴンが吼える。

 目が見えなくなったことに恐怖を感じたのだろうか、なりふり構わず暴れまわっている音が聞こえる。


「レン!?どうしたの!?」


「メリッサ、今の魔法俺も食らった」


「え!?嘘!本当に!?」


「まだぼやけて見える」


 このままだと暴れているドラゴンに巻き込まれる可能性があるな。

 数に限りがあるんだが仕方ない、あれを使うか。


 触った感覚を頼りにブーメランをもう一枚抜き出す。

 始めから持っていたブーメランと合わせて二枚分の魔力を引き出し、纏めて魔法に変える。


「焼かれろ」


 その言葉とともに、雷が空気を裂いてドラゴンに殺到する。

 ズバアアンというものすごい炸裂音と、先程にも劣らない閃光。

 巨大な物体が崩れ落ちる音と肉を焦がしたような匂い。


「メリッサ、止めは頼む」


「う、うん」


 一先ず俺は目が治るまでその場に腰を下ろすことにした。

 座ってから直ぐにメリッサが拳を降り下ろした音が聞こえた。


 ▽ ▽ ▽


「で、だ。もしかしてメリッサは連携が出来ないんじゃないか?」


「そ、そんなことは……ある、かも知れないです……」


 ものすごく縮こまっているメリッサがそう答える。


「まぁ、いままで誰とも組んで無かったんだ。急に連携をやろうというのは厳しいか」


「うぅ、ごめん。経験者の私が足を引っ張っちゃって」


「問題はない、こっちは遺跡探索の初心者なんだ。迷惑という点ではおあいこさまだ」


「でも……」


「ならメリッサ、前衛は君に任せよう。それなら気兼ねなく動けるだろ?」


「うん」


「俺は精一杯君を支えよう、それで少しずつ慣れていけばいい」


「レン……ありがとう」


「何言ってる、君は俺の感情を戻す手助けをしてくれているだろう。感謝するのはこっちの方だ」


「ふふ、そうだったね」


「よし、問題点も検討し終えたことだし行くとするか」


「あ……レン」


「なんだ?他に問題があるのか?」


「ドラグーン系が何匹か来てる。さっきの音に釣られたみたい」


「本当か?」


「本当」


「どうする、逃げるか?」


「そうしようか」


「「グルルアアアアア!!」」


 通路の奥から聞こえてくるドラゴン達の咆哮。

 俺もメリッサも一目散に逃げるのだった。

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