出撃!メリッサ親衛隊
メリッサの修行が始まってから三週間、漸く修行の次の日に動けるように成ってきた。
勤勉の成長ボーナスのお陰か、体がやること全てをスポンジのように吸収していく。
そういえばスキル欄に清掃3が追加されていた、あの時も勤勉を使ったな。やはりこのボーナスは使い方によって凄い力を発揮するみたいだ。
さて、午前はメリッサに言われた通り、体を動かして疲労を抜きやすくしたが午後はどうしよう。
これ以上は、体の回復にならないためトレーニングはできない。
その時、仮入町証が目に入った。
そうだ、ギルドカードを取ったから仮入町証を返さなければならないな、きょうはそれにするか。
遺跡方面通りを通る。
メリッサはいないが嫉妬の視線が集中する。
ここ三週間、メリッサと一緒にトレーニングしていることが知られ始め、一人でいるときも嫉妬の視線が集まり始めたのだ。
まぁ、気にはならない。
やがて、門にたどり着く。
何時もの門兵が出てきた。
「あぁ、糞野郎のレンさんですか、本日はいかがしやがりましたか?」
メリッサがいないためか当たりが強い。
「仮入町証を返しに来た」
「そうですか、まぁ受け取っておきます」
(はぁ、どうせならメリッサさんもつれ来てくれればいいのに、使えない」
心の声が漏れてるぞ。
「用事はそれだけだから帰る」
そういって門を後にするといつも通りの呪詛が背後から聞こえてきたのだった。
▽ ▽ ▽
門から帰る道の途中。
前から三人の男が横並びで歩いてきた。
このままではぶつかるので、右へ避けようとする、しかし、相手の男達も右へ動いてきた。
急いで左に切り返そうとする。だが、相手の男達もまるで狙ったかのように左へ寄って来る。
近づいた為に見えた男達の目は良く見る嫉妬の目。瞬時にメリッサ関連だと認識した俺はバックステップで男達と距離をとり、身構える。
こちらが警戒した事に相手も気づいたのか三人の男達は各々間隔をとり、俺がすり抜けられない程度の網を作ったのだった。
狙いは確実に俺だろう。しかし、捕まる訳にもいかない。
ぶつかりそうな人がいない事を確認して、俺は勢いよく走り出す。
大きく右に迂回して三人を外からかわそうとする。
相手もそれを見越してか大きく右へ動く。
包囲が上手いな、すり抜けられそうな隙間が空いているが、あれはブラフで、確実に捕まえられる間隔なのだろう。
着実に距離が縮まっている。
俺はその隙間のうちの右のほうに走り込む。
中央と右の二人が勢い良く隙間を狭めて飛びかかってくる。
俺は走り込んだ勢いのまま中央の相手にタックルをかまして押し抜ける。
三人から逃げるように走り続けると、俺の進路を塞ぐように黒づくめの男が一人現れる。
先ほどの三人の仲間なのだろう、でなければ避けようとするはずである。
余計に走っている暇は無い、このまま最短で押しとおる。
そう思い黒づくめの男の肩に手をかけた一瞬、視界が反転した。
次いで背中に訪れる衝撃。
投げられた。一瞬その事を理解出来なかった。
首を黒づくめの男に向ける。
男はこちらを見下ろして立つと拍手をした。
「技術は甘いが思い切りはいいですね。まぁ、及第点です。こんにちはレン君、我がメリッサ親衛隊は君を歓迎しましょう」
「歓迎……だと……?」
「そうです」
「いら……ない」
「まぁまぁ、そんなことは言わずに。どうですかレン君、晩御飯を奢らせてくれませんか?」
「嫌だと……言ったら?」
「うーん。それは困りますねぇ」
「なら」
「まぁ、でもそうなったら力づくでも連れていく事になりますね」
「やはり拒否権は無いんだな」
「そんなそんな、私たちはただお話ししたいだけなんですよ?」
「話したい……か」
▽ ▽ ▽
結局押しきられて近くの飲み屋に来てしまった。
テーブルで向かい合うのはあの黒づくめの男。
その後ろには先ほどの三人が並ぶ。
「それじゃあ、まずはこちらの自己紹介ですかね。私はメリッサ親衛隊会長クロニコというものです。そして、左からウーノ、オーネ、モーノ、彼らも親衛隊です」
「メリッサ親衛隊が俺に何の用なんだ」
「まぁ、そんなせかせかなさらずに」
「早く聞かせろ」
「そう、じゃあ単刀直入に。我々メリッサ親衛隊は君をメリッサ嬢にある程度釣り合う者と認めます」
「お前らから認められてどうするんだ」
「まぁまぁ、落ちついて聞いてなさい。本題はこれからです」
「本題?」
「あなたはメリッサ嬢にパーティーと呼べる人がいないことはご存じですね」
「あぁ」
「あなたに、メリッサ嬢のパーティーになって欲しいのです」
「どういうことだ」
「お恥ずかしいことですが、我々フラットの町のギルドへメリッサ嬢がいらっしゃられた時に彼女をどこのパーティーが引き込むかで軽い争乱になりかけまして。結局メンバーどうしが互いに牽制しあっている間にメリッサ様は一人遺跡の中へ」
「だから、今トレーニングを指導して貰っている俺がメリッサのパーティーメンバーになれば彼女の危険を減らせるし、周りの不満も出にくいと?」
「おや、気づくのがお早いですね。それで、どうです?受けてくれますか?」
「頼んではみるが、それを決めるのは彼女次第だぞ」
「えぇ、十分です。我らがメリッサ嬢の危険が減らせればそれでいいのです。まぁ、もしあなたのせいでメリッサ嬢に危険が及ぶような事があれば我らはあなたを粛清しなくてはならないのですが」
「そうか、以上だな?」
「そうですね、あ、そうだ。レン君、魔法習って見ませんか?」
「魔法?」
「はいそうです。メリッサ嬢のトレーニングの日は超回復を考慮して1日おきです。その1日、暇じゃないですか?」
「そうだな」
「なら私が魔法、魔素の操作方法を教えて差し上げましょう」
「なぜ?」
「簡単なことです。あなたが強くなればなるほどメリッサ嬢の危険は減るのですから」
「そうだな、やっていて悪いことは無いだろう。よろしく頼む」
そうして、俺は体と魔法のトレーニングを1日おきに繰り返すこととなった。