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怠惰で勤勉な俺は旅に出る  作者: 渡鳥 陸
遺跡へ続く町フラット
17/106

修行

 今現在、俺はギルドの裏手にある修練場に倒れ伏している。


 あの後メリッサに、臓物を抜き取り、血抜きしたフォレストウルフをギルドまで走って運ばされ、その後この修練場で腕立てや腹筋等を、体が動かなくなるまでやらされたためである。


「なぁ、メリッサ。オーバーペースじゃないのか?これ」


「いや、家の道場のトレーニングメニューの『ハードモード』に準じてやってるからまだ大丈夫だよ。教えてもらってないけど『エクストラモード』とか『ヘルモード』ってのがあるって言ってたし」


 これよりまだ上があるのか、どうなってるんだその道場は。


「それよりも、回復した?じゃあ、はいこれ、私が以前使っていた物なんだけど、手入れはしてあるから」


 そう言って渡されたのは、ブロードソードとラウンドシールド。ブロードソードは、一本全てが鉄でできており、柄の部分に麻布が巻かれた物。ラウンドシールドは、持ち手と縁が鉄で補強されている木製の盾だった。


「これは?」


「君の護身用の武器だよ。槍とか斧とか使いたいんだったら言ってね、買ってくるから」


「いや、いい。これで十分だ」


 いくらメリッサ本人がいいと言っても、これ以上の借金はできないだろう。


「そう?じゃあ、まず慣れるために300本振ってみようか」


 ▽ ▽ ▽


 正直言って飽きた。


 自分に感情は存在しないと思っていたが、飽きたというこの感情だけはなぜかあるみたいだ。

 筋疲労による、身体的な苦痛は存在しない変わりに、ただ淡々と変化なく振り続けるだけの作業が続く。


 辛い。

 そうだ、勤勉を上げればこの苦痛から逃れられるのではないだろうか。


 そう思い、勤勉を100に引き上げる。


 体中に力が溢れる。

 いままで苦痛だった作業が楽しく感じてくる。

 それ以上に、もっとやりたいという感覚が湧いてくる。


「あれ?動きが良くなった?」


「メリッサ、もっとだ、もっとやれるぞ」


「駄目、これ以上はオーバーペースになる。少し休んで、そしたら今度は実戦練習をやるから」


「分かった」


 300本を振り終え、少し体をほぐして休む。


 ▽ ▽ ▽


「はい、もう一回休んで」


 メリッサとの実戦を終え、休みに入ろうとする。

 その一瞬、足の反応が無くなり、がくんと地面に膝を付く。


「レン!?大丈夫!?」


 急いで体の痛みを調べる。

 すると、体の奥底、骨の中心から熱を持ったようなじんわりとした痛みを感じた。

 よく見ると、腕も震えている。


「分からない、体の骨の辺りが痛いんだ」


「骨?もしかしてレンお昼食べてない?」


「昼飯か?いや、食べたが」


「あれ?じゃあステータスを見せて」


 なぜステータスなのかは分からないがとりあえずステータスを開く。


 name:飛風練

 age:0

 種族:人間

 ステータス:蓄積魔力2017/2017

 筋力100 体力100 頑丈100

 器用100 俊敏100 柔軟100

 精神100 魔力100 魔回100

 スキル:清掃3 剣術2 盾術2

 魔法:なし


「おかしい、蓄積魔力が減ってない」


「何がおかしいんだ?」


「説明は後、とにかく神父さんの所に行くよ!」


 メリッサに抱えられて神父のもとへ急ぐ。


「神父さん、レンの診察をお願いします!」


 扉を叩きつけるように開いて、メリッサはそう叫ぶ。


「わかりました、メリッサさん。レンさんをここに」


 椅子に座らせられる。


「それで、どうしたんですか?」


「レンが骨が痛いって言ってて、もしかしたらエネルギー不足かな、と思ったんですけど。でも蓄積魔力が全く減って無かったので」


「蓄積魔力が減っていない……ですか」


「なぁ、さっきも聞いたがそれは何なんだ?」


「蓄積魔力は空腹を示す値になるの」


「魔素は体に貯まったエネルギーでもあるんです。それが無くなれば空腹になって動けなくなります」


 そう言いつつ神父は淡い青の光を纏った手で俺の体を触る。


「これは……単なる空腹です。それで体がエネルギーを補うために骨を溶かしているのでしょう」


「でも神父さん!」


「はい、レンさんの体は魔素をエネルギーとして利用できない特異な体質のようです」


「そんな……つまり、いつも空腹ってことですか!?」


「いえ、魔素としてエネルギーを保持するのでは無く他の方法で体に貯めているようです。ですので今回は単に、速いスピードでエネルギーを消耗しただけとしか考えられませんね。私と一緒にお昼を食べましたし」


「速いスピードでエネルギーを消耗……あっ、レンもしかして勤勉を使っていた?」


 そういえば勤勉を100にしていた事を忘れかけていた。


「あぁ、使っていた」


「そうでしたか……メリッサさん、干し肉を買って来てください。少し早めですが晩御飯にしましょう」


「分かりました、急いで買ってきます!」


「神父さん、俺は?」


「あなたはそこで横になってなさい。少しでもエネルギーの消耗を抑えるんです」


「そうか」


 とりあえず言われた通り横になる、ついでに怠惰を100にする。


 しばらくするとメリッサが帰ってきて、晩御飯の支度が終わった。


「それでは、いただきましょう」


「「いただきます」」


「それで、今後の事なのですが。もし、トレーニングを続けるようでしたら、逐一エネルギーを補給しつつ行うようにしてください」


「分かった」


「トレーニングは続けていいんですね」


「はい、魔素をエネルギーとして利用出来ないだけで、三食食べれば普通の人と同じくらい動けますよ」


「そうですか、分かりました」


 これからは、休憩の度にエネルギーの補給をすることに決まった。


 そして翌日、俺は酷い筋肉痛で動く事が出来なかった。

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