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怠惰で勤勉な俺は旅に出る  作者: 渡鳥 陸
遺跡へ続く町フラット
12/106

就職活動

 朝早く起きて礼拝堂を掃除する。それは、教会の屋根裏を借りるに当たっての唯一の制約。

 その掃除を終えて、ダイニングへと戻る。そこには美味しそうな朝食が用意されていた。


「もう終わったんですか、早いですね」


「あぁ、よく分からないが、体がスムーズに動いてな」


「記憶を失う前は、お掃除の仕事でもやっていたんでしょうか」


「分からない」


「まぁそうでしょうね、あぁ、レンさんは座っててください」


 そう言うと神父は一度厨房に戻り、皿にパンを乗せて出てきた。


「やはり凄いもんだな」


「昨日の残りを暖め直した物ですよ、たいしたことはありません。それに、メリッサさんが持ってきてくれた食材も素晴らしいものでしたし」


 神父も席につく。


「「いただきます」」


 神父はいつも通り手を組んでお祈りをしはじめる。

 俺はとりあえず、スープを口に運ぶ。

 昨日と同じように美味しかったが、昨日と同じ味では無い。

 昨日のスープがさっぱりとした脂の美味しさだとすれば、今朝のはこってりとした脂の美味しさ。

 少し脂の抜け落ちて淡白になった肉は、少し重めのスープの中でアクセントとして存在し。飽きることはない。野菜は相も変わらず甘さを生み出し続け全体を調和してくれている。


「おい神父、何をやった?」


「はい?特には何も、ただ一晩寝かせたことで油が溶け出して少し味が変わっていましたので美味しくなるように調整をしましたが」


「調整?これがか?」


「はい、その時その時でその料理が出す最高のポテンシャルが異なりますので、それを引き出せるように調整してますが」


「全く別の料理と言われても納得できるぞ」


「そうですか、そうたいして弄っているつもりはないのですが」


「そうか」


 たいしたことの無さそうな神父に、彼にとってはそういうものかと思いつつパンをスープに浸して食べる。

 美味い。スープが変わればパンに浸した時の味も変わってくるだろう、それなのにもかかわらず変わった先でも変わらない美味しさを生んでいる。


「なぁ、あんた神父止めてそこらで料理店開いたほうがいいんじゃないのか?」


「いやですねぇレンさん、神父の仕事を止めろだなんて。医師免許無しに医療行為ができる役職を私が止める訳ないじゃないですか」


「最低だな」


「それに、実はあんまりお金に興味は無いんです」


「そうなのか、ならなんで医師の真似事もやっている」


「それは、信者の寄付だけだと生活していくのには少し足りなかったので」


「酷いな、慈愛の心とかはないんだな」


「いや、ちょっとならありますって」


「ちょっとなのがおかしいんだろ」


「それに、怪我人が定期的にくるんですよ?回復魔法のスキルレベルがあがるじゃないですか」


「もしかしてスキルあげに使ってるのか?」


「えぇ、そうですが」


「呆れたな」


「何で呆れるんですか、この素晴らしい神父さんに向かってそんなこと言うなんて、こうなったら出ていってもらいましょう!」


 昨日神父の首を絞める原因になった悪乗りの一言。

 にやつくような笑顔。明らかに誘っている。

 あちらもこちらも食べ終え、テーブルに料理は乗ってない。

 それだけ確認すると、俺は椅子から立ち上がり神父との距離を詰める。


「ははは、レンさん、あなたの行動は読めているのですよ」


 読めるも何もお前がそう誘導したんだろう。

 あの一回以降は明らかに、こちらがこうする事を見越して言ってきていた。


 神父も椅子から立ち上がり、距離をとる。

 俺は構わず右手を伸ばす。

 神父はバックステップを途中で止めその右手を右手で掴み取ろうとする。

 しかし、神父は俺の右手を取ることが出来ず、俺の左手(、、)が神父の左肩を掴んで引っ張る。

 右手を囮にして相手の行動を引き出し、左手で対処する。基本的な技術だ。

 俺の右手を取ろうとしていた神父は流れた体を止める術もなく、俺に回転を加えられ背中を見せる。

 右膝を蹴り、左腕を取ると捻りあげる。


「詰みだ」


「右手と左手のスイッチですか、一本取られましたね」


「なぁ、俺は一応力仕事を禁止されている病人だよな」


「そうですね」


「医者のあんたが率先して動かさせてどうする」


「いいんじゃないですか?大体は治ってますし。それよりも楽しいですねこれ、はまりそうです」


 捻りあげた手に力を加えてみる。


「いたた!すいませんすいません、もうしませんから!」


 その言葉で、もう一度やらなかった相手を俺は知らないと思う。一応記憶もそう告げている。

 まぁ、いい。放すとするか。


「ふぅ、助かりました」


 そこまで強くはやってないはずだ。

 しかし、それを伝えると、またなんやかんやで会話が終わらなくなる。

 金を稼ぐためにも町に出て職を探さなければならない。ここはこのまま切り上げるべきだな。

 そう思った俺はテーブルに戻り食器を台所に片付ける。


「おや、お出かけですか?」


「仕事を探しにいく」


「そうですか、お昼はどうします?」


「一度戻ってくる、というより金が無いから戻ってくるしか無いだろう」


「それもそうですね、いってらっしゃい」


「あぁ、行ってくる」


 案外と簡単に行かせてくれるのだな。

 そう思いつつ、必要なものを小さな麻の袋に入れて腰にさげる。

 この袋はメリッサが買ってきた背嚢の中に入っていたものだ。

 軽く体中を払うと聖堂を経由して外に出た。


 ▽ ▽ ▽


 大通り遺跡方面に出る。

 なんでもいいが働かせてくれる店を探さなくてはいけない。

 とりあえず目の前にあった鍛冶屋に入る。


「いらっしゃい!」


 大きな男がその体格と同じほどの大きな声で声をかけてくる。


「唐突ですまないがここで働かせてくれないか?」


「あんた仕事を探してんのかい?」


「あぁ」


「経験は?」


「無い」


「すまないねぇ、家はつい最近若いの二人雇っちまったんだ。弟子志望ならこれ以上は養えないね」


「そうか」


「ところであんた、役場には行ったのかい?」


「役場?何故?」


「やっぱりかい、役場にね職業を斡旋している課があるんだよ。見てきてないならそっちから当たるといい」


「情報、感謝する」


「なに、いいってことよ。このセイレンの鍛冶屋を贔屓してくれたらな」


「あぁ、なにか揃えたいときはここに来ることにするさ。それでは失礼する」


 扉を開け外に出る。

 そのまま役場へと進路を変えた。


 ▽ ▽ ▽


 役場に着き、職業を斡旋しているという課を探す。

 しばらくうろうろしていると、職業課という看板が見えた。


「すまない、職業の斡旋をここでやっていると聞いたが」


 とりあえず、カウンターの女性に声をかける。


「はい、やっております、お仕事をお探しですか?」


「そうだ、何か無いか?」


「一先ずお客様のお仕事の経験やご希望のお仕事をおっしゃってください」


「仕事の経験は無い......と思う、仕事はなんでもいい」


「なんでもいい、ですか。仕事の経験無しとなると......接客業ぐらいしか現在ございませんね」


 なんだろうか、接客業と言う時に心配そうな顔をした様に見えた。

 何か言いたいことがあれば言ってくれればいいのだが。


「それならそれでいい、その次はどうするのだろうか」


「えぇ......と、こちらの紙をお渡しします。こちらの紙には仕事を募集していらっしゃる店舗さんの場所とこの課からの推薦という事が書かれてあります、これを店舗さんの方にお見せになっていただければ、職をお探しになっている事がお分かりになるはずです。そしたら店舗さんの方で面接が行われる筈です」


「そうか」


「その時の諸注意ですが、面接に合格なされた場合、先ほどの紙にその店舗さんのサインをいただいて、もう一度こちらの課までその紙を持ち込んでください」


「それは?」


「仲介料を請求するためです。こちらも慈善事業ではありませんので」


「成る程、店の方から金をとっているのか」


「そうですね、それで接客業でよろしいですか?」


「あぁ、構わない」


「それではこちらの書類にサインと身分証の提示をお願いします」


「仮入町証でも構わないか?」


「はい、問題ありませんよ」


 仮入町証を提示する。


「はい、確認しました。それではこちらの三枚をお渡しします」


 それぞれ異なる店の紙三枚。


「これだけか?」


「はい、現在この町は住人が飽和状態でして。仕事が足らない状態なんです」


「そうか。後は無いか?」


「はい、以上で手続きのほうは終了になります。よい職に恵まれますようお祈り申し上げます」


 そう言って担当の女性は頭を下げた。

 俺も会釈で返事をする。


 昼まではまだ遠い、とりあえず、三件回って見るか。

 そう思い、俺は役場を後にした。

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